第1話 3日目
初投稿です。 三日で結ばれる純愛を書いてみました。楽しんでいただけたら幸いです。
教会前の噴水に映る自分の顔を、ブレムはしばらく見つめていた。
ブレムは、ふうっと息を整える。
少しだけ、扉から視線を逸らす。
それから一息に扉を押し開けた。
「ブレム様、いらっしゃったのですね」
扉を押し開けた途端、声が投げかけられた。鈴の音のように澄んだ声だった。
教会の奥に視線を向けるとそこには、
「いつもより遅いので心配していたのですよ」
絹のように美しい銀髪をなびかせ、見惚れるほどの美少女――オリヴィアが微笑んでいた。
オリヴィアは胸の前で手を重ね、少しだけ首を傾げていた。
「……少し、遅かったですね」
責めるような声音ではない。
むしろ、安堵と抑えきれなかった感情が混じった声だった。
オリヴィアは一歩、ブレムの方に近づく。
距離が縮まるにつれ、ブレムの髪にふと視線が留まり、すぐに気づいたように視線を逸らした。
「その……お怪我など、ありませんか」
その問いを聞いた瞬間、ブレムは胸の奥がざわつくのを感じた。
ブレムは慌てて答える。
「いや、そんな大層なことじゃなくて。ちょっと、ほら、髪……じゃなくて、支度が遅れてね。……遅れて悪かった」
髪型が上手く決まらなくて家を出るのが遅れてしまったとは、気恥ずかしくて言えなかった。
「そうですか。お怪我がないのならば安心しました」
オリヴィアはそう言ってブレムの手を両手で握りながら、安堵したように微笑む。
「ま、まあ、ここでの立ち話もあれだし、またいつもの場所で話そうか」
ブレムはそう言って歩き出す。
「分かりました、ブレム様。またたくさんお話しましょうね?」
そっと片手を残すようにして、オリヴィアはブレムの手を握ったまま歩き出す。
その事実を歩き始めてから遅れて実感してしまい、ブレムはオリヴィアから視線を逸らす。
「……っ」
オリヴィアが耳の端を赤く染めながら俯いていることに、気づかないまま。
そのままブレムに手を引かれるまま歩きながら、オリヴィアは小さく息を整えていた。
繋いだ指先から温もりを感じる。
どうやら離す気配はなさそうだ。
「……あの」
控えめな声が聞こえ、ブレムは足を止めそうになるのをこらえる。
オリヴィアは視線を落としたまま、歩調だけを合わせてきていた。
教会は静かで、差し込む光が石床に淡く揺れている。
静かな場所なのに、なぜか彼女は落ち着かない様子だった。
「その……今日のお姿、ですけれど」
恐る恐るといった様子で顔を上げる。
その視線が自分の髪に向いたことに、ブレムはすぐ気づいた。
だが、彼女はすぐに慌てたように目を逸らす。
「……とても、素敵だと思います」
一瞬何を言われたのか分からず、ブレムは間を置いて理解する。
その間に、オリヴィアの頬がみるみる赤くなっていくのが分かった。
「い、いえ……変な意味ではなくて、ですね」
取り繕うように言葉を重ねながらも、手は離れない。
むしろほんの少しだけ、指先に力がこもったのが伝わってきて――
「……ありがとう。その、オリヴィアはいつも綺麗だけど、今日はいつもより可愛いよ」
理由も分からないまま胸の奥がざわつくのを感じながら、なんとか投げ返した言葉だったが――
「――っっ!」
その返答は、オリヴィアにとってあまりにも不意打ちだった。
会話が途絶えてしまい、手持ち無沙汰となったブレムはオリヴィアを横目で流し見る。
オリヴィアは床を見つめながら、耳まで朱色に染まっていた。
その様子を見て、ブレムはそれ以上なにも考えないように視線を前に戻した。
◇
「それでさ、学校は勉強についていくのが大変でさ……」
「分かります。私も修道女時代は、机に向かうのが億劫でした」
オリヴィアがなんとか言葉を紡げるようになったのは、いつもの場所、講壇の前のいつもの段差に二人並んで座ってからだった。
「修道女時代……って、たしか6、7歳ごろの話だよな」
オリヴィアは、ええ、とにこやかに小さく頷いた。
その仕草が、笑みが、いつもよりどこか慎重に見えてブレムは理由もなく気になった。
「文字を覚えるのも、祈りの言葉を間違えないようにするのも……当時は、少し大変でした」
穏やかな声だった。だが、いつもよりどこか上擦っているようなそんな気がした。
「でも」
短く区切って、はっきりとこちらを見ようとする。
だが、視線が合うと僅かに逸らされてしまう。
「ブレム様が、こうして色々なお話をしてくださるのは……私は、とても嬉しいです」
差し込む光が、彼女の銀髪を淡く照らす。
それがやけに、眩いように思える。
「勉強のことも、学校のことも……全部、聞きたいと思ってしまうのは……その……ブレム様のことが……」
言葉が止まる。
視線は下がり、頬が朱色に染まる。
服の端を握る指先に、力がこもっているのが分かる。
ブレムはその様子を、遮る言葉もなく見つめていた。
「……好きだから、です」
小さな声だった。
だが他の音がないせいか、その一言だけははっきりと耳に残った。
――この瞬間からもう引き返せないのだと、なぜかブレムは理解してしまった。
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第二話は少し時系列が巻き戻って、出会った日の話です。
1時間後の22:30に投稿します。




