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第五話 終焉の宴

あれから様々な戦いがあり、そして大きな戦いがあった。

最終決戦と言うに相応しい、魔王との直接対決である。


結論から言うと人類は多大な犠牲を払ったものの

見事に魔王を打ち破り、この戦いに勝利したのである。




人類勝利の速報は直ちに世界中に知らされ

世界は喜びに満ち溢れた。


それはこの監獄でも例外ではなかった。

囚人たちの中でもその喜びは共有されていた。


『これで世界はよくなる』


荒れた世界故に罪を犯したものもいる。

人々はどこかに『罪』の責任を押し付ける対象を求めていたのかもしれない。

それは監獄に収監されている囚人であれば殊更であろう。


私は上層部に祝勝会の宴に参加するように言われていたが

それを断った。


祝勝会は一週間、昼夜を問わず続けられるという。

世界中が平和を享受し、人々が未来を語り合うその裏で

私は解体される懲罰部隊の戦後処理に追われていた。

勇者として祀り上げられることもなく、

功績を隠蔽される彼らの処遇について上層部と激しい議論を繰り返していたのだ。


彼らは口を揃えたかのように彼らに悪意の言葉を浴びせる。

私はそれに対して立場からも強く言えないなりに食い下がったが

結局上層部は『あのような悪魔の如き力はそのまま朽ち果ててしまうのが望ましい』

という総意に私はなんの声もあげることも出来ない無力な人間であった。






魔王との対決に赴く前。

私は再び零番との面会を行っていた。

体つきはがっしりとした精悍な体つきになっていたが

あらゆる場所に怪我をしており、特に腕部への外傷が多い。


「二つわかったことがあるよ」


彼は唐突に言った。

なんのことかわからない私は彼の言葉を待つ。


「彼奴等、僕の能力に気がついてるみたいでね。

 しきりに僕の目を狙ってくる」


なるほど、それで腕に外傷が多いのか。

片目を潰された時点で気がつくべきだったのかもしれない。


「対策は出来ているのか?」

「対策と言えるかはわからないけど僕の目の力に勝てるのは

 あいつしかいないからね。でてこない限りは問題ないよ」


以前とは違った自信家とも取れる発言だが

実戦を目の当たりにしての発現だ、誇張でもないのだろう。


「あいつとはなんだ?」


私は率直な疑問を口にする。


「魔王だよ……前回の戦いで出てきた奴に

 『僕と同じ力』を持つやつがいた。あいつが魔王で間違いない」

「そのことは上には伝えてあるのか?」

「伝えるまでもないよ、数万人の兵士たちが一瞬にしてミンチになったんだから。

 そんな事をできるのは他に僕ぐらいしかいないしね」


彼はそのまま戦いに関することを私に必死に伝えていた。

戦いに関して素人である私は聞くことに専念するしかなかったが

一つわかったことは零番と魔王の力は相殺することができるらしい。

つまりお互いがお互いに干渉しようとするとその力は無効化されるらしい。


その後の話ではあるが私はそれを上層部に報告した。


ひとしきり、戦場のことを話し終わった後、彼は語った。


「もしもの話だけれども……」

「どうした、言ってみろ」


彼は急にうなだれるようにして顔を下げて下を見つめるかのようにしつつ言った。


「この戦いが終わったら、もう二度と外の世界を見ることはないんでしょうね」


あまりにも残酷な現実。

そう、彼にとってはこの戦争が終わることは

自らの世界を閉じることを意味していた。


彼はある意味罪ではなく力によってその存在を縛られていた。

懲罰部隊の面々はそれぞれ恩赦を条件にされていたが

その条件は零番に対してだけは例外となっていたのである。


拒否するのであれば極刑

上層部の決定は拒否権はなく、それは決定であった。


結果として彼はそれを拒否することはなかったが

彼はそれについてこういった。


「偉い人たちは一つ勘違いをしているね。

 僕にとって極刑は救いなんだよ」


そういう彼の色はとても暗かった。


私は訪ねた。


「じゃあなぜ戦うんだ?」

「そうだね……こうして話すのが楽しかったからかな」


……。

自己保身のことばかりで何も彼にしてあげられてない。

私は私自身をそう思っていたが、たった少しだけだけど。

彼の力になれていたのかもしれない。


ふと急に彼は立ち上がると私の体を右手でぐっと掴んできた。

私は体を強張らせたが、彼のその手はとても震えていた。

その手を震えさせたまま彼は言った。


「一度でいいんです。僕のことを名前で読んでくれませんか?」

「……」


先程まで歴戦の猛者のような雰囲気を漂わせていた彼は

まるで獲物に睨まれた兎かのように体を震わせてうなだれていた。


ひなた……。必ず生きて戻りなさい」


そういうと彼は私を離し、もう言葉を交わすことはなかった。


皮肉な名前である。しかし名前とは往々にしてそういうものである。

健康を願う名前をつけられれば大病を患い

太陽のように明るい未来を思い描く名前がつけられれば

陽の光すら見ることの出来ない人生をたどる。


だけど彼の名前を呼んだとき、彼が私の名前をしきりに

呼びたがった理由が少しだけわかった気がする。

それは言葉にするには小さいことかもしれないけれど

暖かさがあるものなのだと。




これが彼との最後の会話。


この後彼と私が出会うことはなかった。

それは魔王との戦いに敗れたというわけではない。


彼は魔王との戦いに勝った。

そう、彼は魔王を打倒した勇者となったのだ。


しかし世間はその事実を認めない。




親殺しの『神』の力を持つ男。

その事実は魔王討伐よりも重く。

また特に権力中枢にいる人々は激しくこれを警戒した。


更に言うなら懲罰部隊が最も貢献したという事実もまた

歓迎しない人物が多くいたことは事実であった。




そんな流れに反旗を翻したのが南 和博であった。


かつて南は、私にこう詰め寄ったことがあった。

「彼は世界を救ったのに、なぜまたあの独房に

 戻されなければならないのですか。この国は人の心が失われているのか?!」

真っ直ぐに私を射抜いた彼の瞳には、職務という言葉では

到底消し去ることのできない、純粋で、それゆえに危うい義憤の火が灯っていた。


私がその火を消せなかった報いか。


彼は彼と同調する仲間たちで謀反を起こした。

この事実は終戦ムードに一気に冷水を掛ける形となった。


結果的に訪れたのは今度は人類同士の戦いであった。


その後零番は表舞台から姿を消してしまう。


あの日、独房の鍵が開けられた形跡があった。

スペアキーを持つ彼にしかできない犯行。

床に落ちていたのは、かつて私が南に託した、あの鋼鉄の鍵だった。

それは無理やりこじ開けられたのではなく、

持ち主の意思で、静かに解放の儀式を終えたかのようにそこに転がっていた。


それは南自身にとっての救済行為であったのだろう。

しかしそれは零番にとってどうなったのか。

それは定かではない。


私はこの事件の責任を追うこととなり、看守長の任を解かれた。


今ではしがないただの看守にすぎない立場だ。

一人の人間の人生を弄んだ私に相応しい結末だと納得している。


ただ、私は零番、陽が第二の人生を謳歌していることを

願うばかりであった。





囚人番号零番経過観察報告。


南 和博の犯行により零番は行方不明。

その後の調査によって彼の死亡は確認されていないが

能力を行使された痕跡はない。


したがって死亡ないし監禁されていると推測されるが定かではない。

本報告をもって経過観察の報告を終了とする。


また、これ以上の追跡は不可能であると考えられる。

よって対象は『存在しないもの』として処理することを提案する。


最後に、一個人の所見として記す。

彼の歩む道が、二度と『赤』に染まらぬことを望む。


看守長 阿久津響子


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