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第四話 赤

この日、私は上層部に呼び出された。


要約するとこうだ。


懲罰部隊はよく活動している。

ただ性格面に些かの問題を感じる。

よく監督しておくように。


とのことだ。


懲罰部隊なのだ。

性格面に問題があるなど当たり前であろう。

まして普通の軍隊であっても実際の戦闘になれば

規律が乱れることは有ると聞く。


しかしこれも中間管理職の悲哀とでも言えばいいのだろうか。

どこまで言っても板挟みなのは変わらない。


最もそれは私が全権限を持っていれば変えられるのかと言われれれば

難しい問題なのである。




私はまずは南和博と面会を行うことにした。


端的に言って彼の性格は実直そのものであった。

私が彼の活躍を褒め称えればそれは零番と工藤源田の活躍のおかげだといい

自らは行えることを行ったまでだという。


しかし前線の指揮官からの報告によると

彼は武器も持たされていないながらに零番に寄り付くモンスターを撃退し

極めて率先して従軍に参加していたと言う反面

零番に対しての待遇改善を常に要求しており

その結果として鞭打ちや牢屋に監禁されることもしばしばだそうだ。


世話役は彼以外あり得ない。

現状の選択肢としてはベストであると確信しているが。

一方で危うさを感じるように私はなった。


零番が非常に同情するに値する存在であることは私も痛いほどわかっている。

しかしそこに踏み入ってはいけないのだ。

彼はそこに踏み入ろうとしている。


それは非常に危険な試みだ。

しかし私は彼に面談でそれを伝えることはしなかった。


私自身がそうであるように、きっと彼は私がそれを咎めれば。

火のついた導火線のようにその思いを爆発させるに違いないという予感。


平時であれば彼を牢に繋いでおけばいいがそれが出来ないのが今である。


結局私は彼と距離を置くことでくすぶった火種を刺激しないことにしたのである。






続いて面会したのが工藤源田。

彼は彼で体中包帯まみれになっていたが

それを感じさせないほどの豪胆さがあり

まるで怪我など食事を取った程度の出来事であるかのような態度であった。


特に言いたいことなどはあまりないとのことであったが

後何回従軍すればいいのかとは聞いてきた。


当然なのだが魔王を討伐するまでこの戦争に終わりはない。

しかし彼が聞きたいのはそういうことではないのだろう。


終わりがないのに戦争にずっと駆り出されるのは対価が釣り合ってない。

おそらくそういう意味だと理解した。


実際問題としてそうなのだが、私はそれを決める権限はない。

ただ状況が好転し、決定打に向けた活躍がなされれば前倒しになるかもしれない。


そんな曖昧な返答にも彼は「わかった」とだけいい

それ以上は何も言うことはなかった。




人は資料でデータを見るのと実際あって話してみるのとでは

まるで違ったりする。

それは零番との話でもそうである。


確かにデータの情報も人々の一面なのだろう。

しかしそれとこれとは別ということである。





そして最後に零番の出番である。

都合五回、懲罰部隊は戦場に参加し、都度大きな戦果を上げたという。

それはひとえに零番の活躍の賜物と言えるだろう。


報告によれば彼の活躍はまさに『神』にも等しいとのことである。

それはそうであろう、目視したものをすべて思い通りに描くことができる能力。

それを『神』という以外になんと表現したら良いのだろうか。


そんな我々は神のたった一つの罪から神を牢に繋いでいるのである。


人はなにか人生に絶望したとき、神に救いを求める人は少なくない。

しかし神もまた「自身すら救えない」のが世の中を物語っているのかもしれない。





零番を目の当たりにしたとき、彼はまた一つ。

『零番』ではなくなっていた。


顔に左半分が焼け焦げたようにただれている。

報告によるとドラゴンのブレスを消し飛ばそうとして

消しきれずに自身の半身を焼かれてしまっていた。


一方で不思議なことに、彼の失われた左腕が元通りになっていたのである。


「響子さん、久しぶりですね」


変わらず彼はいつもの様子で私に話しかけた。


以前は左腕だった。

私はそれに目を背けて話していた。

しかし今度は顔である。


彼の顔を見るだけで、私の罪を目視するような罪悪感が襲った。


そして私は何を話せばいいかわからず立ち尽くしていた。

ただ目を背けても彼から発せられる『色』は燃えるように赤かった。


青とは対局に位置する赤という変化に私は戸惑いを覚えた。

彼の外見の変化から何か火に関わる事があったのやもしれない。


そんな私に対して彼はまるで気を使うかのように言った。

「はは、ちょっと顔が怖い感じになっちゃって驚かせちゃったかな」


あくまでも彼は陽気に振る舞う。

しかしその言葉の震えから。

私は彼が少しずつではあるが消耗しているのを感じた。

そう、体ではなく精神を消耗しているのだ。


「驚いたのはその左腕だ、一体どうしたというのだ」


私は話をはぐらかした。

しかし一度なくなった人体の一部戻るなど異様な話だ。

すると彼はなんてことはないと言った様子で語った。


「左手が元通りになればなっておもって眺めていたら

 左腕が再生したんです。だいぶ周りには不気味がられましたけどね」


そんな彼の左腕はどことなく右腕とバランスが悪く

ぎこちない様子が見て取れた。

まるで取ってつけたような、という表現がしっくり来るようである。


「最も形だけを真似ただけなんでちょっと動かすことが出来ても

 何かを掴んだりするのは無理なんですよ。

 あ、これ周りの人には内緒にしておいてくださいね。

 左腕がないと周りの人が気を使うんで困ってたんです」


私はもう何を言えばいいのかわからなくなっていた。

私とだけ話をしていた頃の彼はどこかあどけない少年のようであった。

しかし僅か数カ月のうちに彼はまるで若くして修羅場を経験した

精悍な若者のような顔つきに成長していたのである。


私はなんとか言葉をつなごうと言葉を口に出した。


「なぜ顔は直さないんだ?」


そう言うと彼はまるで今まで見せたことのないような

ケラケラと笑うような表情で言う。


「何を言ってるんですか響子さん。

 見えないものは直しようがないですよ。

 それに」


「それに?」


彼はふと真顔になって言う。


「残念なことに僕の能力は鏡越しでは使えないみたいです。

 つまり顔は治すことは出来ないです」


なんという皮肉だろうか。

神の如き力を持つものが自分のことはままならないというこの現実。

或いは神などというものはこの世にいないという事を表しているのだろうか。


「それは馬鹿な質問をした。許せ」

「謝るようなことではないですよ、誰も悪くはない」


元々どこか達観した雰囲気があった零番であったが

外で色んな経験をすることでその精神はより昇華されているようであった。


これではまるでどちらが子供なのかわからない。

そう、私はきっと零番を子供だと見下していたのだろう。

しかし戦争は人を変えるのだろう。

もはや精神性は私より遥かに彼のほうが

大人になってしまったのかもしれない。


そんな中、彼はぽつりという。


「あの時……ドラゴンが僕らの眼の前に現れたとき。

 ドラゴンのブレスが僕らを焼き殺そうとしたとき。

 あの赤い炎が僕の顔を焼き焦がす激痛が脳裏に焼き付いて離れないんです」


それで赤……なのか。


「赤は良くない色なんです。

 なぜなら赤い色があるところはいつも戦いがあるから」


哲学的な問いに私は沈黙した。

私は戦争を知らない。

知らないものに回答をするのは誠意がない行為だと感じたのだ。






囚人番号零番経過観察報告。


遠征からの帰還、左腕の再生と顔の左を

ドラゴンにより焼かれた跡を確認。

左腕については完全な復元ではないため使用不能と考えられる。

また零番の精神面における大きな成長を認む。

このことは彼を更に負荷の高い戦場へ投入できる可能性が高い。


一方で強い精神性を持つ一方で危うい立ち振舞もあり

引き続き経過観察および精神面のケアは不可欠であると考えられる。


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