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第二話 諸刃の剣

コンコン。


「入りたまえ」

「失礼いたします」


そういうと私はドアを開けその部屋に入った。


そこには華美な装飾が施された部屋に長机が存在し

各部署の長が会議をしていたのが見て取れる。


その中でも一番奥の席に座っている人物が私に声を掛ける。


「阿久津君、君のところにいる例の囚人、今どうなっている」


私の監獄にいる囚人は凶悪犯罪を犯したものも多数存在するが

特筆するべき囚人となれば真っ先に零番であると理解する。


「どうということもありません。

 彼は投獄されて以来、能力を発現したことはありませんし態度も従順です……」

「そうか、ならば話は早い」


まるで私の話を遮るかのようにその声は告げた。


「君も昨今の魔王との戦いにおいて、我々人類が苦境に立たされていることは

 承知しているね」


『外』のことには疎くなりがちではあるが

現在人類がおかれている立場が良くないことは承知していた。

すぐに『良くない』話であることを私は理解する。


何より周りの人間から聞き取れる心の情報から

私は告げられることを前もって理解した。

しかしそれを先に言うことは目上の人々に対して礼を失する事を

理解しており、最後まで言葉を聞くことにする。


「率直に言おう、我々は囚人たちを前線に立たせることとする。

 このままでは我々は魔王に生活圏を奪われてしまうだろう。

 そうなる前に使えるものは少しでも使う」


私は感情を極力押し殺しつつ受け答えた。


「つまり、例の囚人をお使いになるということですか?」

「そのとおりだ。我々はそこまで逼迫しているということを理解してもらいたい」


私は彼を間接的に擁護してきた人物として上からは多少疎まれている節がある。

いや疎まれているというよりは厄介と思われていると言ったほうがいいだろうか。


「私は所詮一介の看守長であり、それ以上でも以下でもありませんので

 皆様がそう判断されたのであれば異論はありません」

「そうか、てっきり君はあの囚人に個人的思想を持っているように感じたのでね

 あらかじめ断っておいたが構わんということで理解させてもらうよ」


そういう相手の顔はこれから言うことに一切の異論を口出しさせないという

強い意志が感じられた。


「君には囚人たちの戦闘部隊、つまり懲罰部隊の選抜とその運用を一任したい」


……私に前線にでろとでも言いたいのだろうか。

軍属でもない私に戦闘など期待できないことはわかりきっているだろうに。


「私に指揮をしろというのですか?」

「流石にそこまでは求めていない」


なんだかんだで胸を撫で下ろす自分がいた。

しかし一方で囚人たちだけを生贄にするような気分になり私は自分を嫌悪した。


「では何を致せばよろしいでしょうか」

「特に例の囚人を筆頭にした少数精鋭の部隊の構築を頼みたい。

 必要な物資や人材のピックアップといったところだ。

 例の囚人については我々にとっては未知数の部分が多いため

 一番この中で知識を持っている君にそれを頼みたい」


零番を主軸とした部隊……か。

まるで勇者のパーティでも組むつもりだろうかと言いたい気分であった。


戦争どころか親を殺してしまったことさえ

『自分の罪深さ』を理解できてない零番に戦争を行うことなど

果たして可能なのだろうか。





こうして私は慌ただしく、日頃の業務の合間を縫って

懲罰部隊に必要なものをまとめていた。


部隊の選定はそう難しいものではない。

零番の日常の世話をするものとその護衛がいれば最小単位である。


しかしそれを囚人に託すというのは些か以上に危険な提案であった。

看守に任せるのであればそれは容易い。

しかし看守はあくまでも看守だ。


戦争に赴きたいなどという酔狂な看守はほぼいないと言ってもいいだろう。

また上層部からも「囚人から」と言われている以上

囚人のみで構成しなければならない。


私は大きなジレンマを抱えていた。


囚人、言葉にしてしまえば一つの集団であるが

これほどに多岐にわたる人々の集団はいないのではないかと私は考える。

単に囚人と行っても致し方ない理由で罪を犯したもの。

生来の凶暴性や残虐性などから凶悪な犯罪を犯したもの。


そして自らの力の大きさを理解できずにそれを振りかざしてしまったもの。


いろんな者がいるのは事実だが

できれば本質的に善性を持つ人間を最前線に立たせるようなことはしたくない。

それが私の本音であった。


しかし零番を監督するとなればその人間性はとても重要である。

下手な悪人にでも任せてしまえば感化され

魔王以上の災害を起こす存在になっても不思議ではないのだ。


どれほど私が彼の監督役になれればと思ったことか。

しかし私には私で果たすべき責務がある……。

そう自分に言い聞かせた。


そうでなければ自分は気が狂ってしまいそうであった。




どす黒い感情が頭を包むのを振り払うようにして

手元のコーヒーを一口飲んで改めて選定を考える。


やはり零番を託すのはそれなりに誠実な人物でなければ務まらない。

彼を監督する人物は身体能力以上に精神面を重視する必要がある。


零番同様に致し方ない事情で監獄に入ってる人物もいる。

その中から何人かをピックアップして、戦果を上げた際には

恩赦を与えることを条件とするしか無いだろう。


それに加えて彼らの護衛が必要だ。

『何かが起きてから』では遅い。

そういう意味でも零番を常に目隠しを取って置くことは難しい。

そのために日頃の露払いができる人物が数名必要だろう。




……こうして私は二人の人物をピックアップした。


一人目は南 和博という囚人で、罪状は殺人。

ただし彼は買物途中に運悪く強盗に遭遇し、結果として強盗が持っていた

刃物を強盗に刺してしまい、強盗は死亡。

当然情状酌量の余地がありとされたが、禁固刑は免れなかった。


彼とは何度か会話をしたことがあるが、模範的好青年といった印象であり

私の能力で彼の心を読み解いたとき、その根底にあるのは正義感であるという事が

わかっていた。


強いて問題があるとすれば、彼は八年の刑期が言い渡されていたが

すでに三年が経過しており、残り五年のために、この責務を全うしてくれるか。

正直私が彼の立場ならわざわざ危険な橋を渡ろうとはしないだろう。


しかし私の中では確信に近い、もっと残酷な打算がある。

それは彼は強い正義感から、私がこの提案をすれば断らないだろう。


だからこそ零番を任せられるのは彼しかいないというジレンマであった。




二人目は工藤 源田という囚人。

罪状は窃盗、強盗等など、殺人以外の大抵の悪事に手を染めている。

ただこの男、多数の格闘技経験に加え、身長二メートル以上の巨体であり

一人で二人、三人相手にするのも苦にしないらしい。


一見性格面に大きな問題があるのだが

彼と面談したときにわかったことが二つあった。


どうにも彼には悪党の美学のようなものがあるらしく

一つは合理性や打算を重んじること。

そして二つにそれには信用や義理を大切にしなければならないと

考えているということである。


彼の思考はそれ故かとても読みやすく明白であった。


私としても彼のような人間は懲罰部隊に採用しやすく

また一人で二人、三人の仕事ができるという意味で彼については

迷うことなく採用した。


彼は十年以上の刑期があるため二つ返事で快諾してもらえた。






というわけで今は南 和博と面談を行っている。

彼には零番の世話係として特別な役割があること。

そして、零番の唯一の光を縛っている『鋼鉄の目隠し』を解くための鍵を渡すこと。

その鍵は、ある意味で世界を滅ぼす引き金にもなり得るものであること。

私はそれを、この実直すぎる青年に託すことにしたのである。


私が説明している間、彼は黙ってその事を聞いていたが

話し終わった時点で彼は目を閉じて気持ちを整理しているようであった。

心を読み解いたとき、彼は葛藤しているようであった。

それは至極当然な話であり、私は彼が話すのを待とうと思ったが

彼はずっと黙っているばかりであったため

私は先に口を開いた。


「君には拒否権がある。別に断ったところで君の評価を落としたり……」


そこまで言ったところで彼は言う。


「引き受けますよ」


その顔には決意と、ある種の諦めのようなものが宿っていた。

結局、私の力では彼の真意を計りきれなかったが、彼はすべてを悟ったのだろう。


私は心を鉄にして彼の意思を受け止めた。





こうして私はたった三人の懲罰部隊を結成するに至った。

上層部の中には三人しかいないという事実に懸念を示す者もいたが

結局この部隊は承認された。


上層部の人間たちの思考が目に見える自分に嫌気が差した。


人の心が読み取れることはいいことばかりではない。

むしろ悪いことのほうが多いかもしれない。

人の汚い心が見えてしまうからである。


彼らの思考は『どうせ囚人、死んでも関係ない』というものであった。

しかし私に彼らを非難する権利など無い。

私も結局彼らを犠牲にすることで自己保身をしているのだから。






囚人番号零番経過観察報告。


対象を含む懲罰部隊の編成を完了。

監獄外への連行、および実戦投入に関する全責任を看守長として承認。

本日以降、第一陣出撃を許可。 これより、対象の実戦投入を行う。


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