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第一話 ベストセラー

今から十年前。


世に魔王という存在があり、人類と魔物が戦っていた時代があった。

その時、人類に突如現れた『勇者』の存在によりその時代は終りを迎える。


そして現代。

人々は人類同士で戦争を行っていた。




この物語は、ある監獄に残された、公式には存在しないはずの報告書の一部である

きっかけは一人の刑務官の手記が世に出たことがきっかけであった……。




とする説もあるが本当のところは定かではない。

だがその手記は驚きをもって人々に受け止められたのは事実だった。






独居房。


監獄は基本雑居房だ。

しかし特殊な事情で共同生活を送れない囚人がいる。

理由は様々だが、危険な者、集団生活が不可能な者。理由は様々だ。


今から面会を行う囚人はその中でも特別であった。

彼の部屋はどの独房とも孤立した場所にある。


カツ、カツ、カツ。


誰も近寄らない独房。必然的に自分の足音だけが大きく聞こえた。

あまりの静けさに自らの心音が大きく感じる。


そして扉の前にたどり着いた。




私はこの部屋、この空気、すべてが嫌いだ。

嫌悪していると言ってもいい。


この独房までの道は僅かに小さな明かりしか存在せず

独房には窓が付いていない。

更に言うならこの独房には窓というものは一切存在しない。

『必要ない』からだ。


そんな独房のドアを軽く2回ノックする


カンカン。


鋼鉄製でできた扉の音は冷たい。

元来、私は看守である。ノックの必要すらないのだが

私は私である証明としてこの囚人と面会する時にノックをすることとしていた。


「囚人番号零番!」

「いますよー、ふふっ」


あっけらかんとした返答。


バンッ!

私は扉を叩き付けていった。


「私語は慎め!」

「はいはい」


中にいる彼はいつも陽気だ。

この部屋の鍵は私のみが常に身につけて管理している。

シャワーを浴びる時、寝るときであっても例外ではない。


カチャカチャと鍵を回すと私は扉を開いた。


そこに「彼」はいた。

相変わらず浮かべる作り笑い。

そして固く封印された、彼の視界。


彼は金属製の目隠しを当てられている。

それは破損でもしない限り一生外されることはない。

しかしその他は特に拘束具をつけられてはいない。


彼の顔をしっかりと見る。

……彼の顔は真っ黒なようで漆黒ではない。黒のような灰色だった。




私は人の顔を見るとその人が何を考えているのか。

その全てとまでは行かないが読み取ることができる。


その人間の考えや生い立ち、体質や特性によって見え方は変わるため

見やすい人間、見にくい人間がいる。


この青年の場合はとても見えづらかった。

ただ辛うじて『色』で彼の感情を読み取ることができる。


そんな彼の色の始まりはいつもこうである。


黒っぽい灰色。

人はそれをただの灰色というかもしれない。

しかし灰色と言うには彼の発する色は余りにも黒かった。


私でも言っていることの矛盾は認識しているが

他に形容するすべを私は持たなかった。


しかしそんな負の感情エネルギーを纏っている彼が

私へ見せる表情はあくまで穏やかだ。


ひょっとしたら彼にとっては物心ついたときから

すでにここにいたために、それが彼にとっての「日常」なのかもしれない。




彼の罪状は『親族殺人』である。

彼の罪状については、彼の『管理』を任されるようになってから

幾度となくその資料に目を通した。


端的に言うと彼は『目視したものを自在に操る』能力を持っていた。

ごく普通の、幸せな家庭に生まれた彼はいつその力に目覚めたかは定かではないが

力を持つものの『責務』を背負うにはあまりに彼は幼すぎた。

そして彼の力は強すぎたのだ。


その結果が現在である。

彼にとって物心ついたときには視界を奪われた生活が日常である。

当然そんな状態であるため、食事については世話人が必要となった。

そこで抜擢されたのが私であった――。


私は私自身の『能力』を買われてこの職務を与えられている。

監獄とはすなわち秩序を乱したものに秩序を再教育させる場であり

また秩序を強制的に与える場である。


そんな場所に対して最も恐れられる出来事となれば

脱獄や反乱等となるわけで、当然このような行動を取るものは

それが感情に出る。それを事前に察知するのが私の役割というわけだ。




キィーーーーと錆びついたような音を立ててドアを閉じる。

零番は目隠し以外特別な配慮はされていない。

彼は能力こそ強大な力を有しているが、目を隠されていれば

ただの青年である。


「響子さん、珍しいですね。前回から何日かな」

「前にも言ったが看守長と呼べ」


すると彼の色は少しだけ黒が和らぐ。


「あなたには似合わない呼び名だとおもいまして」


零番はいつもそうだ。

私を名前呼びする。

発端は初めて出会ったときのことだ。






彼は私にこういった。

「僕にはなにもないからあなたの名前を教えて下さい」


そういったときも彼の黒は少しだけ白くなった。

今後二度と世界を見ることのできない青年。


人間は情報の多くを視覚から得るという。

また視覚を奪われれば嗅覚や聴覚が発達するというが

監獄で生活する彼にはそのすべてがほぼ存在しないに等しい。


そんな彼がいう「なにもない」という言葉を私は憐れんだのだ。

「阿久津響子だ。二度は言わない、また私を呼ぶときは名前ではなく……」

「あくつきょうこ……いい名前ですね」


そういって彼は微笑んだ。





「ここは監獄だ、周りの者に示しがつかない。だから名前呼びはやめろ」

私の声は至って事務的なものだったと思う。

彼にとって彼の存在以外の唯一の『別のなにか』である存在を

奪い取る行為は彼にとって良い影響を与えないと考えたからだ。


それが打算的なものなのか、はたまた彼への哀れみなのか。

私の中に答えは無い。


「どうせここには誰も来ないでしょう。 そんなことより何の用事ですか?」

「なにか用事がないと来てはいけないのか?」


私は自分の中にある負い目から口を衝いて出た。

彼は物が見えない代わりに他者が鈍感なものに対して鋭敏な感性をもっている。


「なにか言いにくい事でもありましたか?

 ……例えば僕が処刑されることになったとか」


鋭敏ではあるが彼には『知識』がない。

この監獄と私が幼い頃に教育した必要最低限の知識だけが彼の頭にあるものだ。


彼はイメージできることはすべて具現化することができるのだ。

つまり最初から何も知らなければイメージすることはできない。


しかし生きていくうえで最低限知っておかなければならないことはどうしても存在する。

それを私が教育したというわけだ。


上層部の中にはその最低限の知識すら与えるべきではない、あるいは

さっさと処刑してしまえという過激な意見すら存在した。



しかし私は彼を最初にひと目見たとき、暗いながらにも

白と黒しかない彼の中に無垢な感情を見た気がしたのだ。

そのため上層部には『いざという時に利用価値があるかもしれない』と

私は彼を擁護したのだ。


彼が持っている能力は神に与えられし力といっても過言ではない。

それを安易に処刑してしまうのはもったいないと私は主張した。



その結果として今、私は彼の前に立つことになった。

私は彼に告げた。

「君の願いが叶う時が来た」


一瞬彼の黒い色が更に黒くなったのを感じた。


当たり前の話。

彼の希望は世界を見ることであり。

そしてそれが叶うということは碌でもないことの前触れだということであると。





囚人番号零番経過観察報告。


対象の精神状態は安定。特筆すべき兆候は認められない。

これより、上層部指令に基づく「実戦投入試験」への移行を勧告する。


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