アークトゥルス
アリス「リアス港はこれより南と書いてありますね。あの街で間違いなさそうです」
頂上の案内看板を見つけたアリスが、指を差して教えてくれる。
クロマ「では、このまま進みましょう」
アリス「気をつけて進まないとですね」
街へと続く道を選別し、ゆっくりと降りていく。
行きの道とはガラッと代わり、分かれ道が複数あったり道中魔物との戦闘も起こった。
クロマ「日を改めて正解でしたね」
アリス「はい、あんな魔力を完全に使い切った状態で降りるのは、無理がありましたね…」
ゴーレムが居なくなったからか、魔物が徐々に現れ始めてる。
それとも、第三者の介入が無くなったからなのか、危険度が上がっていく様を見ると、武者震いがする。
クロマ「なんだかんだ…登りより時間がかかりましたね…」
アリス「はぁ…疲れました、、」
クロマ「このまま看板通りに進んで問題なさそうですね…」
麓まで下ることができ、同じ目線の高さにまでリアス港が近づいていた。
アリス「こじんまりとした街なんですね」
アリスが言うように、今まで見た街と比べれば大きな街ではなく、最初に訪れたルーション街よりも小さかった。
クロマ(見渡す限り、街の半分近くを占める港と海産物の販売店が多い、それに民家が数棟…海が近いだけありますね)
アリス「話を聞けそうな場所はありますかね?」
クロマ「魔導師の方がいらっしゃると思いますが、どうでしょうか」
街の入口に差しかかり、周囲も氷の大地から土や草へと変わり、やがては整備された道に変化していく。
クロマ「小さな街なだけあって落ち着いていて良い雰囲気ですね」
アリス「皆さん忙しそうですね」
クロマ「えぇ、話しかけれそうな方…居ないですね…」
街を散策し話しかけれそうな人を探すも、皆忙しなく動き回っており、中々話ができるタイミングは無さそうだ。
街人「どうしたんだ?見たところ、この街は初めてだろう?」
私たちが右往左往していると、気にかけてくれたのか、向こうから手を止めて話しかけてくれる。
クロマ「お仕事で忙しいと思い、魔導師の方と話せたらと思いまして探していたんです」
街人「それなら、港に1番近い建物が魔導師さんの事務所だよ」
アリス「魔導師さんはその家に居るんですか?」
街人「あぁ、この時間なら事務所の中で作業をしてると思うぞ」
クロマ「分かりました、ありがとうございます」
漁師の方であろう街人に教えてもらい、私達はすぐさま港の方へと向かった。
クロマ「待ってください!」
アリス「せっかくの海ですよ!早くみたいじゃないですか!」
港へ向かう途中で香る潮風を感じ取り、アリスがおもむろに駆け出す。
クロマ「す…すごい…」
アリス「お、おぉ…!」
私達が以前、ラフストーン公国の森で見た禍々しい紫の海とは違い、陽光に照りつけられて乱反射する澄んだ青が痛々しくも目に飛び込んでくる。
クロマ「こんなにも綺麗な景色があるんですか」
アリス「………すごいっ…」
まるで意識を失ったかのように、眼前に広がる憧憬をただ一方的に脳内へ流し込まれ、その情報を処理できないまま立ち尽くす。
クロマ「アリス?生きてますか?」
アリス「は、はい」
クロマ「すごいですね、こんな美しいものが見れるなんて」
アリス「ほんとに…何も言えないです…」
あまりの光景に涙腺が緩むアリス。
私は優しく目尻を拭って、そのまま続ける。
クロマ「あれが火山地帯、私達が目指してきた場所です」
海の青とは対照的な赤褐色の島がかすかに見え、私はそれを指差した。
アリス「ここまで来たんですもんね、あそこに行く方法を見つけないと」
クロマ「はい、ひとまず魔導師の方の事務所に行きましょう」
アリス「そうなると…あの建物がそれっぽいですね」
アリスが指差した方向にある建物は、魔石店と書かれた見るからに普通の家ではない家屋であった。
クロマ「失礼します」
魔石店に入ると、秘密基地のような狭い店舗に所狭しと様々な魔石や魔石をあしらった杖にアクセサリーなどが並んでいた。
アリス「失礼します~」
???「いらっしゃいませ~!リアス魔石店へようこそ、私は店主のエマ・グランツよ!」
目に優しい緑色の髪をショートカットにした、明朗闊達な女性が出迎えてくれる。
クロマ「魔導師の方に聞きたいことがあって…」
エマ「すっごいね!君達の杖の魔石!」
エマさんはカウンターから身を乗り出して、私達の杖を凝視する。
クロマ「ま、魔石…好きなんですね」
エマ「そう!私は魔石がだーいすきで、みんなにその魅力を伝えたいの。それで、どこでその杖買ったの!?」
高すぎるテンションに私は若干ついていけずにいた。
アリス「私は幼い頃に誕生日プレゼントで貰った物なので、どこで買ったかは分からないです」
クロマ「私は母国の認定式で師匠から頂いた物なので、同じくどこで買ったかは…」
エマ「あは~そっかそっか、多分腕の良い職人の物なんだろうね!見入っちゃったよ」
クロマ「あはは…あの、聞きたいことがあって…」
エマ「その前にもう1つだけ聞いてもいい?」
先程までのハイテンションとは打って変わって、真剣な表情に様変わりする。
クロマ「はい、なんですか?」
エマ「そのペンダントの魔石、王都ミリディア出身だよね?」
クロマ「え…なぜそれを…?」
エマ「いや…遠い昔に見たような記憶があって、ちょっと気になってね」
クロマ「師匠とお知り合いですか?」
エマ「君のお師匠さんとは知り合いって訳じゃないよ、それに多分会ったこともないしね。ただ昔、それもミリディアがまだ王都じゃない時に行ったことがあってね、そこで見たようなって思っただけなんだ気にしないで」
クロマ「知り合いかと思ったのですが…」
エマ「あぁ知らないわ、それより!聞きたいことがあったんでしょ?分かることならなんだって答えるよ」
クロマ(調子狂いますね…)
私が急な問いかけによる動揺から抜け出せずにいると、アリスがすかさず聞いてくれる。
アリス「私達、南の火山地帯へ行きたいんです。行く方法とかないですかね?」
エマ「君達…エンドクリフに行くつもりなんだね…」
クロマ「エンドクリフ、それがあの火山地帯の名前ですか」
エマ「そう、そしてエンドクリフに行くのは無理ね」
アリス「な、なんで!」
エマさんは先程と比べてより一層、真面目な表情で教えてくれた。
エマ「これは昔話なんだけど、エンドクリフは現世で魔界に1番近い場所と言われるだけあって、魔物も出るし危険すぎて誰も近づかなかったわ。そんな折、アークトゥルス家の当主がエンドクリフ一帯を整備してそこに屋敷を構えたの」
クロマ「…」
アリス「…」
私達もそれに応えるように真剣に一生懸命聞く。
エマ「それ以降、私達リアス港の人間はエンドクリフには近づかないことになってるの。触らぬ神に祟りなしって言ってね」
クロマ「そうなんですね…」
エマ「アークトゥルス家にどんな事情があるかは知らないけど、危険なエンドクリフを統治できる実力と、そこに住む物好きなんて皆怖がって近づきたくないのよ」
クロマ(理由が周知されてないだけで、書物の情報と合ってますね)
アリス「エンドクリフに行く方法は無いんですね…」
エマ「そうね、私は知らないわ」
クロマ「分かりました。わざわざありがとうございます」
私達はエマさんの魔石店から出て作戦を練る。
アリス「どうしましょう?」
クロマ「船が借りれれば、我々だけで乗り込むことができるかもしれません」
アリス「漁港の人に頼んでみましょう!協力してくれる方がいるかもしれません」
私達は辺りを見回し、手が空いている方を探す。
昼休憩か休んでいる人が居たので、料金は払うからと説得し海を観光したいという名目で、昼休憩の時間のみ借りることを許してもらった。
クロマ「風が気持ちいいですね!アリス!」
アリス「ちょっと今話しかけないでください、船の操縦難しいんですよ!」
クロマ「あんな簡単な説明をしてもらっただけで、操縦ができるようになるとは…容量がいいんですかね」
拙いながらも着実に前進する船に身を任せ、港を出て徐々にエンドクリフの方へと近づいていく。
クロマ「……何かおかしい」
アリス「何かありましたー!?」
クロマ「アリス、もう少しお願いします」
アリス「分かりましたー!」
振り返ると、港は少しつづだが離れて小さくなっていくのが見える。
クロマ「やはりおかしいですね」
アリス「おかしいって何がですか?」
クロマ「流石に遠すぎて違和感があります」
港から離れてはいるものの、エンドクリフは近づいている様子が無い。
アリス「もう着いてもおかしくないくらいは進みましたよね?」
クロマ「はい。この感じ、ラフストーン公国の迷いの森と同じ感覚ですね」
アリス「では、正解の行き方が他にあるってことですよね!」
クロマ「ただ…」
止まった船の上で2人、周りを見渡す。
クロマ「この目印も何も無い環境下でどうやって探りましょうか…」
アリス「1度戻って作戦を練りましょう!そろそろ昼休憩も終わりますし」
クロマ「そうですね、戻れるか確認しましょう」
来た道をUターンして港へ引き返したが、戻る分には問題なく普通に進むことができた。
クロマ「ありがとうございました。すごく綺麗な海中を見ることができました」
街人「それは良かった。困り事があったらなんでも聞いてくれよな」
アリス「はい!ありがとうございます!」
船を貸してくれた方にお礼を伝えて、私達は港を後にする。
クロマ「さて、どうしたものか…」
アリス「これでは、無理やり行くことも難しいですよね…」
クロマ(森での異変がここでも起こっているとなると、あの異変の正体は恐らく…)
2人揃って途方に暮れていると、数刻前に聞いたテンションの高い声が私達を呼ぶ。
エマ「おーい!2人とも!ちょっとうち入って!」
クロマ「ん?」
アリス「分かりました!」
エマさんに呼ばれ、私達はそそくさと魔石店へ入る。
クロマ「どうしたのですか?」
エマ「いや~外じゃ話すのまずいからね、この時間はお客さん来ないから安心して」
アリス「聞かれちゃまずいことですか?」
エマ「エンドクリフに行きたいんでしょ?正規の行き方は知らないけど、もしかしたら行けるかもしれない方法なら思いついたから、話そうかなって思ってね」
クロマ「知りたいです!」
エマ「ちょっとズルいんだけど、1日に1回物資輸送船がエンドクリフに行ってるの」
アリス「なるほど、そこで屋敷を構えて住んでるなら食料などの必需品を届ける手段がありますよね」
エマ「そう!それにバレないよう乗り込めれば」
クロマ「エンドクリフに行くことができると」
エマ「でも魔術師が複数人乗ってるっぽいから、バレないように気を付けてね」
クロマ「いつ頃か分かりますか?」
エマ「そうだね~、今燃料の積み込みしてるからあと1時間くらいで出るんじゃないかな」
アリス「今止まってるんですか!?」
エマ「あ、ごめん。それを言わなきゃだったね」
クロマ「ありがとうございます、すぐに向かいましょう」
楽しそうに笑ってるエマさんにお礼を告げ、私達は店を飛び出そうとする。
エマ「1番奥に止まってる船だし、荷物がいっぱい積まれてるから分かりやすいと思うよ」
アリス「助かります!」
魔石店を後にした私達は、慎重に周囲を警戒しながら港に近づく。
クロマ「あれですね」
物資を乗せた木造の船が碇泊しているのを発見し、船員に見つからないようゆっくり近づく。
アリス「これ、ほんとにバレないんですか?」
クロマ「後方のあそこ辺り、あの箱の死角に入れればバレずに潜入できると思います」
木箱や物資が積まれた船尾を指差してアリスと確認する。
港と繋ぐ架け橋、点検中なのかずっと船員が立っており、船と倉庫の方を交互に見ている。
アリス「タイミングが難しいですね、船の中に入ってくれればそのうちに飛び乗れるのですが…」
クロマ「私と同じこと考えてますね、アリス」
アリス「船と港にそこまで隙間がある訳では無いので、隙を見て船尾に直接飛び乗りたいですね」
クロマ「さすがですね、このまま様子見しましょう」
出港したタイミングなら、誰も周りに居ない可能性が高い。
最悪強引に行く覚悟でギリギリまで待つことにした。
刻一刻と時間が流れるが、船員の様子は変わらずチャンスは訪れない。
アリス「動き、ないですね…」
クロマ「恐らくもうそろです。積み込みが終わった様子なので、確認作業で船の中に戻ると思います」
アリス「…!」
船の前に立つ船員が中に入っていく。倉庫の方を振り返り、人がいないことを確認する。
クロマ「いきますよ!アリス!」
アリス「はい!クロマさん!」
合図と同時に物陰から飛び出し、風魔術で浮き上がって船尾へ飛び乗る。
船員A「何か音がしたか?」
船員B「ん?気のせいだろ、サボりたいならもうちょっとマシな理由言えよ~」
飛び乗った関係上、多少衝撃があったみたいで甲板に居た船員達が怪しんでいるのが微かに聞こえる。
クロマ「ふぅ…」
アリス「何とかなりましたね!」
クロマ「このままバレずに行きたいですね」
それほど時間を空けず、船は突然動き出した。
先程借りた船より大きいサイズということもあって、進む時の推進力の差を如実に感じる。
アリス「ちゃんと進めてますね」
クロマ「この船は問題なくエンドクリフに近づけてる…なぜでしょうか…」
アリス「う~ん、この船だけ特別なんですかね」
クロマ「…っ!」
アリスの意見を聞いてある線が思い浮かぶ。
それと同時。
ガタンッ!
クロマ「うわっ」
アリス「なんです!?」
船が大きく前後に揺れて周りの荷物が複数倒れ込んでくる。
クロマ「止まった…?」
アリス「もう着いたんですかね?」
2人で死角から顔を出し、船の前方を確認する。
アリス「これが…」
クロマ「エンドクリフ…」
私達の眼前に広がるは、まるで別世界に来たかと錯覚するほど異様なまでの風景。
登頂したグレイシス山と比べても亀裂や突起が多く、歩かせる気のない険しい地面が広がり、周囲には空気が震えるほどの熱気を漂わせる火山群がそびえ立つ。
港は無く、島と平行に船をつけて船体から橋を下ろしているのが見える。
クロマ「今のうちに降りましょう」
アリス「向こうの岩陰なら隠れれます!」
アリスが指差す方向を目標として、私達は軽やかに船から降りる。
クロマ「……積み下ろしをしているだけですね…」
アリス「誰かしら受け取って運ぶものかと思ってました。近くに屋敷も見えないですし」
岩陰に身を潜めて、船を確認する。
複数人の船員がそそくさと荷物を下ろしている姿はあれど、それを受け取る人物は見えない。
クロマ「全て下ろして船が行ってから取りに来るのかもしれません。どちらにせよ、周囲を警戒している者が居ないのは好都合です」
アリス「そうですね!このまま奥に行きましょうか!」
隙を見て沿岸部から離れ、エンドクリフの先へ先へと向かっていく。
クロマ「…!」
アリス「…っ!」
船が見えなくなるほど進んできた辺りで魔物と遭遇する。
周りは変わらず殺風景で、地面の凹凸に苦しめられる。
クロマ「バレたくはないのですが…」
アリス「この先、物陰はないですね」
この先進もうと思うと、戦闘を避けては通れない。
アリス「メガ・アイシクル!」
物陰から勢いよく飛び出して、素早く杖を構え氷の礫が連撃で道を塞ぐ魔物へ襲う。
クロマ(判断も動きも早くなりましたね…)
アリス「他に魔物が出る前に行きましょう!」
クロマ「ええ!」
アリスに手を引かれ、私達は2人でさらなる深みを目指して進む。
アリス(もうこんなにも、自分で前へ前へ行くように成長したんだ…寂しいような嬉しいような…)
得も知れぬ感覚が胸中に広がり、足取りがおぼつかなくなる。
クロマ「アリス、少し話してもいいですか?」
アリス「……どうしたんです?」
歩む足を止めず、2人並んで真剣な顔で続ける。
クロマ「アリスは私を師匠に選んで後悔していませんか?」
アリス「急にどうしたんですか…!?」
クロマ「アリスほど人付き合いも上手くて才能もあれば、私ではなく優れた魔導師に教えてもらえれば、もっと伸びたんじゃないかって少し思いまして」
アリス「なんで、そんな…」
アリスの足が止まりその場で俯く。
私はそれを見て言葉を見失う。
アリス「なんで分からないんですか…!」
クロマ「っ…」
アリス「私は!クロマさんだから旅を選んだんです!クロマさんじゃない方との日々で今より魔術が出来たのであれば、私は後悔していたと思います」
クロマ「アリス…」
アリス「私達はお互いの境遇を知らずに出会って、旅を続けて魔術を磨いてきたんです。その結果今があるから、私は今がすごく幸せです」
クロマ「そう…ですね…少しネガティブになっていました」
再びアリスが走り出して、私の手を取り進み始める。
アリス「目が覚めましたか?」
クロマ「はい。もうこの旅が終わりで、アリスの成長を感じる度に少し寂しかったのですが、もうやめます。最後まで最高の師匠で居続けれるよう努力します」
アリス「じゃあ私は最高の弟子でいないとですね!」
クロマ「もう…すでに…」
アリス「クロマさん!」
クロマ「なっ…!」
一足先を進んでいたアリスが足を止めて私の名前を呼ぶ。
少し遅れてアリスに追いつき、私もその景色を見る。
クロマ「こ、これが…」
アリス「魔界へ繋がるゲート…!」
その目線の先にあるのは、一際開けた空間がクレーターのようにえぐれており、その最下層に禍々しい赤紫色に包まれた門らしきものだった。
クロマ「あれが…諸悪の根源…!」
???「来て…くれたかい?」
アリス「誰!?」
どこからともなく声が聞こえる。
聞いたことがあるようなないような、内蔵を内側から刺激してくるような不気味な感覚に襲われる。
???「ようこそ、エンドクリフへ」
その声の主が、私達の後ろから空中を飛び上がり眼前に現れる。
クロマ「……ロキ…」
アリス「知り合いですか!?」
ロキ「前はぁ…ちゃんとした挨拶ができなくて、ごめんねぇ…」
まるでここが舞踏会かと錯覚するほどの正装。
空間とは似ても似つかないタキシードに身を包んだ男が居た。
ロキ「改めましてぇ…ロキ・アークトゥルスと申します」
アリス「この人が…」
クロマ「やはりあなたが、アークトゥルス家でしたか…」
ロキ「やっぱ、気づいてたぁ?」
クロマ「確信は無かったのですが、ロキがアークトゥルスの人間だと考えると色々と辻褄が合いますからね」
アリス「この人が、国外追放された元ミリディアの第2等級魔術師ってことですか…」
ロキ「せぇ~かぁ~い。僕は納得してないけどねぇ」
ロキの発言にあまりピンと来ない。
なぜ納得していない?妥当な刑罰だと思うが。
クロマ「…っ!」
ロキ「そう警戒しないでよぉ…」
私は有無を言わさず杖を構え迎撃体制を構える。
アリス「エレキスター!」
私が攻撃するよりも先にアリスがロキ目掛けて電撃魔術を放つ。
ロキ「ふっ!」
アリス「なっ…!」
アリスが構えて放つのを待たずして、ロキはもう距離を取っている。
ロキ「君には興味無いんだよねぇ」
クロマ「アリス!離れてください!」
ロキ「アイシクル…!」
ロキが詠唱すると同時、地面から氷柱が何本も突き出し襲いかかってくる。
アリス「ぐっ!」
クロマ「っ…!アリス!大丈夫ですか!?」
アリス「はい、何とか…」
クロマ(ただの第5等級でこのレベル…下手したら、アルファード様やアキシオン様より…)
ロキ「流石に避けれるかぁ…」
クロマ「スクロールによる魔物の凶暴化、迷いの森での異変、どれもあなたの暗躍という解釈で合っていますか!」
私が核心に迫る問いを投げる。
この返答によってはもう後戻りは出来ない。
ロキ「………暗躍?違うなぁ…」
アリス「違う?」
ロキ「そう、違うんだよ。全てはクロマ・アリウス、君のためだったんだぁ…!」
クロマ「わ…私のため?」
ロキ「君の才能に惚れ込んでねぇ、これは開花させないとダメだと感じたんだぁ…」
クロマ「どういう…意味ですか」
アリス「クロマさん、もう辞めましょう…聞くだけ無駄です!」
私達が狼狽し後退りで距離を取るも、ロキは変わらず持論を展開しながら歩み寄ってくる。
ロキ「この才能を開花させて、最っ高に実ってから…殺したかったんだぁ…♡」
貼り付けられた笑顔は消え、狂気的な表情を見せる。
クロマ「なんと、、、」
アリス「なんで…クロマさんを…」
クロマ「私はあなたを嫌ってますが、嫌われることをしたつもりはありません」
ロキ「君"は"ね…」
クロマ「メガ・フレイム!」
訳の分からないこと喋らせるくらいなら、このまま畳み掛ける方が良いと判断した私は、透かさず炎魔術をロキに打つ。
ロキ「昔話をしよう」
クロマ「!?」
眼前に居たはずのロキは、私達の背後に移動していた。
2人して反応することはおろか気づくことも出来なかった。
構わずロキは話を続ける。
ロキ「僕はねぇ、ご存知の通りミリディアで宮殿魔術師をしていたんだ。だが、国家反逆の刑罰としてここに島流しさ、一生ミリディアの地を踏むことはできない」
クロマ「当然の報いでしょう…」
ロキ「そう…思っちゃうよねぇ…実はその話には裏があるんだぁ…」
アリス「裏ってなんですか」
ロキ「当時のミリディアは、魔術を使える者と使えない者が居てねぇ、使えない者は酷い扱いをされていたんだぁ…でも、その方針は王の意向だった。魔術を使える者は国へ貢献出来る度合いが違うため優遇するという、それが曲解されて魔術の使えない者には何をしてもいいという風になってしまった…」
クロマ「そんな文化が…」
ロキ「あぁ、それを憂いだ僕の父は王に改善するよう提案した。だが受け入れられず、このままでは国民は亡国を選び、ミリディアが王都に選ばれる道はより険しいものになってしまう。そこでだぁ…!!」
アリス「王を…暗殺…?」
ロキ「別にそこまでは考えてなかったよぉ…ただ、すげ替えるしか国をよくするためには方法がなかったのさぁ…まぁその夢も半ばで敗れたんだけどねぇ」
クロマ「確か書物では、計画段階で密告されて国外追放になったと」
ロキ「僕は知っているんだぁ…密告した人間の名前を…」
アリス「それを聞いて何になるんですか!」
アリスはもう我慢ならないと杖を構えて、再び攻撃体制を取る。
ロキ「キュリオス・シリウス」
クロマ「……なぜ!!!師匠の名を!!!!」
アリス「えっ…」
反射的か衝動的か、今までに無いほどの声量で叫ぶ。
ロキ「もう、分かっただろう…?」
アリス「国を良くするために謀った計画を、クロマさんの師匠に邪魔され、国外追放になった腹いせを、クロマさんに向けていると…?」
ロキ「あぁ!そうさぁ!ミリディアに引きこもってる老人に、僕は手出し出来ないからねぇ…!スクロール集めも、色んな街を経てエンドクリフに来るのも全て僕の掌の上だったんだよ!」
アリス「…………」
クロマ「師匠に復讐する為に弟子である私を標的にして、ここに辿り着くまでずっとだなんて…まるで、私達の旅に意味なんて、、、無かったみたいに……」
泣き崩れ地面に座り込む私に、ロキは追い打ちをかけるように続ける。
ロキ「そうだよぉ!!君に意思なんてなく、仕向けれてたん…」
アリス「そんなことない!!!」
ロキ「何…?」
ロキの言葉を待たずして、アリスが叫ぶ。
山でもないのに木霊して、やまびこが聞こえるその声には、どれだけの想いが詰まっていただろう。
クロマ「…アリス…?」
アリス「私達は自分達の意思で、自分達のような者を出さないよう、後悔しない選択をするためにここまで来たんです!決して意味がなかったなんて事はない!!」
ロキ「じゃあ聞くが、誰に聞いてスクロールを集めここに来ようと思ったんだ?」
アリス「…私の故郷、ルーション街の魔導師であるローレン・クリスさんにです」
ロキ「それは偽名だぁ…」
アリス「なん…て…?」
ロキ「正しくはローレン・アークトゥルス、僕の兄だ。宗教団体をでっち上げて、ミリディアの情報を僕に渡してくれていた」
アリス「う…そ、そんな…」
アリスも言葉に詰まり、勢いは消えた。意気消沈し、このまま何もかも終わるかのように思えた。
ロキ「そう…!この瞬間…!この絶望に満ちた顔を見るために、僕はここまで頑張ってきたんだぁ…!」
クロマ「絶望…?どこにそんな顔あるんですか?」
ロキ「今さっき君がぁ…」
ロキが気づかない間に私は立ち上がって、アリスの前に立ち塞がりロキと面と向かって話す。
クロマ「確かにしていましたね。でもアリスのおかげで目が覚めました。何度も何度も…本当に不甲斐ないです。師匠に復讐したかった?そんな危険思想だから国外追放されたんですよ!」
ロキ「黙れ…」
私はロキに背を向け、アリスに向けて言葉を紡ぐ。
クロマ「アリス!しっかりしなさい!」
アリス「クロマ…さん…」
クロマ「生まれ育った場所、そこで育んだ過去が否定されるのは悲しいでしょう…信じて生きてきた人間が嘘をついていたら辛いでしょう…でも、ここまで一緒に来たのは誰ですか!貴女の唯一の師匠は誰ですか!貴方が迷った時、安心して信じられる人は誰ですか!私はそういう人ではないですか?」
アリス「うぅ…クロマさん…!」
目から雫が流れるが、不思議と顔は清々しい。
もう彼女に何の心配も要らないだろう。
クロマ「戦いは今からですよ、あんなクソ野郎何の迷いも無くぶっ飛ばせるでしょう」
アリス「クロマさんって口悪いんですね笑」
クロマ「ええ、ブチ切れていますので!」
ロキ「僕も何の迷いもなく殺せるよぉ…!」
三者三葉の構えで再び杖を交わらせる。
合図など必要なかった。
クロマ「メガ・アイシクル!」
アリス「メガ・グラス!」
ロキ「メガ・フレイム!」
刹那、放たれた魔術は3人の中心で爆ぜ、相殺される。
クロマ「2人で打って互角ですか」
アリス「タイミングをズラして確実に当てますよ!」
ロキ「そう…!もっと工夫してぇ!」
戦闘を心から楽しんでいる姿、私の前には憎く映る。
許す許さないの話ではない、どちらの正義が相手を捩じ伏せれるかだ。
アリス「ここです!グラス!」
ロキ「ん~?」
私とアリスで二手に走り、ロキが狙いを迷った一瞬。
草魔術で地面からツルを生やし、足首と杖を握る手首に巻き付け動きを制限する。
ロキ「こんなのぉ…」
クロマ「『凍てつく波紋よ、全てを飲み込め』ギガ・アイシクル!!」
懐に潜り込み、詠唱込みの第3等級魔術をロキ目掛けて放つ。
寸前まで、手首と両足首にはツルが巻きついていた、魔術は完全に命中したかに見えた。
ロキ「はぁっ!」
私が生成した氷の槍がロキの寸前で止まり、その隙に勢いよくサイドに横飛びし延長線上から外れる。
クロマ(今のは…そういう魔術…?)
アリス「とまっ…」
ロキ「メガ・ストーン!」
ロキの背後に氷柱状の岩が生成され、私達目掛けて高速で放たれる。
アリス「クロマさん!」
クロマ「ぐっ…大丈夫です、少し腕を掠めただけです」
先刻の発言通り、ロキはあくまでも私狙い。
攻撃の標的も、アリスにそこまで意識を割いてないように見える。
ロキ「そんな魔術じゃ…僕には届かないよぉ…?」
クロマ「魔術が届かなかった訳ではないはず、何かしている可能性が高い」
アリス「もう一度試して探りましょう」
ロキ「僕は仲間外れかぁ~い…?」
2人で距離を取って作戦会議をしていると、何やら企むロキが歩いて距離を詰めてくる。
クロマ「メガ・ストーン!」
攻撃を放つのではなく、地面内部に生成し四方八方に弾けさせ擬似的に地震を起こす。
ロキ「うおっ…」
アリス「『秘めたる雷光よ、全てを蹴散らせ』ギガ・エレキスター!!」
体勢を崩したロキ目掛けて、間髪入れずに第3等級魔術の雷撃を空から撃ち落とす。
アリス「なっ…」
クロマ「…」
見るからに電撃はロキの寸前で止まり、その隙にバックステップで回避している。
私はその光景をジッと見つめていた。
クロマ「カラクリが分かりました」
アリス「本当ですか!?」
ロキ「…ほう?やはり目が良いなぁ…」
クロマ「ずっと引っかかっていたんです。わざわざスクロールを集めるよう仕向けたのに、最後の1つだけは見つけられずに辿り着いた」
アリス「確かに…」
クロマ「恐らく最後のスクロールはロキが持っている。内容は推し量るに、時空系の魔術でしょう」
アリス「はっ!つまり…森での異変と海での異変と同じ容量で魔術を手前で止めていたと…」
クロマ「はい、魔術を止めていたのではなく進む度に戻されていた。でも、いくら古代魔術とはいえ森全体や海全域など、それほど広範囲に作用させるのは無理。魔術の対象は場所その物ではなく私達だったんです」
ロキ「さすがだねぇ、僕が見込んだだけあるよぉ…」
言い当てられたとは思えない程、喜びに満ち恍惚とした表情を浮かべるロキ。本当にどこまで不快にさせるのだろう。
アリス「それでは、攻略の方法は…」
クロマ「あります。カラクリが古代魔術な以上、上限がある!属性魔術の比では無い魔力消費でしょう」
ロキ「では、我慢比べと行こうかぁ…!君達と僕…どちらが先に尽きるかぁ…!」
そう私達に向け叫ぶと、壮絶な魔術の応酬が繰り広げられる。
私とアリスの連撃に対して、時空魔術を駆使しそれをいなして、私達へ向けて高度な魔術をカウンターする。
練度の高さもさることながら、狙う位置が的確で大きく体勢を崩さないと躱せない箇所を狙われる。
クロマ(2対1でこんなにも接戦ですか…第2等級を使うのは、もっと確実に有効な時が好ましい…)
ロキ(いなせてはいるが、コンビネーションの立ち回りが上手いな、致命傷まで狙えない…)
お互い経験を積んだ魔術師と言うこともあり、有効打が決まらず攻めあぐねて、各々の思考を巡らせる。
ロキ「クロマ・アリウス。古代魔術は使わないのかぁ~い?」
クロマ「煽るにしては、もう少しマシな誘い方をして欲しいですね」
アリス(クロマさんにそんなの効くわけない!)
ロキ「シリウスなら間違いなく応えてくれただろうねぇ…」
クロマ「なんですって?」
アリス(まずい!)
数mの距離を置いて、私とロキはいがみ合う。
アリス「乗ってはダメですよ!」
クロマ「分かってますよ。ただ、実際のところ古代魔術を絡めないとロキを崩すのは厳しい。乗るしかないかもしれないです」
アリス(確かに…この状況が続くのは良くない…)
クロマ「私達ならやれます、行きますよ」
アリス「併せます!」
ロキ「ふっ…そう来なくっちゃなぁ…!」
ロキが杖を構えるより早く、アリスが前に出てロキ目指して駆け出す。
クロマ『此処で古代魔術を使用す、響き渡れ・・・』
ロキ「させないよぉ…ギガ・アイシクル!!」
アリス(詠唱無し!?)
私が詠唱してる間に、ロキが詠唱無しでの第3等級魔術で先制攻撃する。
アリス「見える…!はっ…!メガ・フレイム!!」
空から降り注ぐ氷柱、床に落ちると同時にその場所が凍りついてそれが伝播する。
だが、まるで舞踏でも踊るかのようにアリスは掻い潜り、咄嗟の判断で実力差を魔術の属性相性でカバーする。
クロマ「グラビスタ!!」
ロキ「ぐぅぅあぁぁ…!!!」
刹那、氷の結晶と炎の粉塵で視界が遮られると同時に、私の重力魔術がロキに命中し、呻き声をあげる。
時空魔術は間に合っていなかった。
ロキ「……ウィンド…!」
掠れた声で唱えられた魔術、だがロキ自身を吹き飛ばし重力魔術の範囲内から出るのは容易かった。
クロマ「これで決まるような魔術師ではないですね…」
アリス「畳み掛けます!」
範囲外へ出られたとはいえ、有効なのは事実。
私とアリスはロキが体勢を立て直す間を与えないよう、連撃を続ける。
アリス「メガ・ウィンド!」
クロマ「イラプション!」
ロキ「ぐはぁっ!」
強力な風魔術で物理的に視界を潰し、爆発魔術の広範囲攻撃で避ける隙も与えない。
アリス「メガ・グラス!」
クロマ「ポイズルショット!」
ロキ「メガ・ウィンド…!!」
最初より強度の高いツルと根でロキの行動制限をし、毒菱状の魔術を放つも、ロキもより強力な風魔術で草魔術をかき消しながら自身を吹き飛ばして毒魔術を避ける。
ロキ「はぁ…はぁ…」
アリス「ぐっ…」
クロマ「……っはぁ…!」
全員疲弊はしていたが、明らかに私だけ魔力消費が激しく、膝を地面についてしまう。
ロキ「本当に…強くなったねぇ…それにアリスと言ったか、訂正しよう、君もとても美しい…たがもう、終わりだぁ…!」
ユラユラと不気味なオーラを漂わせながら、大きな身振り手振りで杖を構えるロキ。
アリス「まずい…クロマさん!」
クロマ「そ、そんな…」
動けない。自分の体じゃなくて他人の体を操縦していたら、リモコンの電池が切れたみたいに、ピクリとも言うことを聞かなかった。
アリス「ぐ……っ…!」
クロマ「そんなアリス…無茶です!私を置いて避けてください!」
ロキ『[[rr:葬送>そうそう]]たる純建じゅんけんな岩壁がんぺきよ…全てを慈しみ貫き通せ…』
綴られる詠唱、それは第2等級の岩魔術を意味していた。
クロマ「この…!ぐっ…アリス…!」
どれだけ叫んでも、どれだけ叩いても私の足は返事をしてくれない。
アリス「私の…全てを込めて…『凍てつく波紋よ、全てを飲み込め…』」
ロキ「ヘル・ストーン!!」
アリス「ギガッ…アイシクル!!!!」
ロキの後方で生成された、第2等級と思えないほど小さく第4等級ほどの大きさしかない岩石だが、強い圧力での回転から洗練された形だと嫌でも感じ取らされる。
アリスの氷魔術は地面を這うようにしてロキ目掛け進み、放たれた岩魔術とぶつかる瞬間、地面から勢いよく鋭く尖った氷柱がその岩と衝突する。
アリス「私がここで勝って…クロマさんの最高の弟子になるんだ!!!」
クロマ「アリス……っ…!?」
私がぶつかり合うお互いの魔術とアリスの心からの叫びを聞くと同時、遠巻きにロキの薄ら笑いが微かに見える。
クロマ「アリス…!避けてください!」
アリス「ぐっ…」
ロキ「さぁ…終わりだぁ…!」
パリーン…
無情にも、ロキの岩魔術がアリスの氷魔術を貫く音が響き渡る。
アリス「ぐっっ…っはぁっ…!!」
クロマ「……うそっ…」
氷上を走る螺旋状の岩石は、アリス目掛けて一直線に進んだ。
アリスの痛々しい声と、柔らかい肉の削られる音が響き、不快感を覚える鉄錆の匂いが充満する。
アリス「……うっ…」
彼女の体は、まるで電源が落ちたかのように、急激に力を失いその場で膝から崩れ落ちる。
クロマ「アリ…ス…!」
私は動かない足のままアリスに駆け寄ろうとするも、当然倒れてしまう。それでも構わず這って近づく。
そこに意志など無かった、不思議と体も痛くない。
ロキ「もう…終わりかぁ……」
以前の私なら、無意識に言い返したくなるロキの軽口も、聞こえすらしなかった。
それほどまでに、目の前で起きた惨劇が受け入れられないものだった。
クロマ「…アリス!」
アリス「ク…クロマさ…ん…」
クロマ「しっかりしてください…!」
私が近づき、まじまじとアリスを見るも明らかに致命傷だ。
ロキの放った岩石が腹部を貫通しており、出血量的にもいつ意識が完全に無くなってもおかしくない。
アリス「クロマさ…ん、私…今…」
クロマ「ごめんなさい…私が…っ…」
倒れたアリスを抱きかかえ、手を強く握る。
私が強く握ると、アリスは反対の手で自身の腹部を優しくなぞる。
アリス「わ…私………そっか…」
べっとりと血のついた手を顔の前まで持ってきて、じっくりと見つめる。
徐々に現実が明瞭になっていっているのだろうか。
滴り落ちて頬が汚れても拭う素振りも見せない。
クロマ「私がもっと…師匠らしく振る舞えていれば…」
頬についた血を優しく指で拭って、アリスの顔をじっと見つめる。
アリス「ク…クロマさんが…無事で…っはぁ…良かっ……た…」
クロマ「……アリスのおかげで…私は無事ですよ、、、」
アリス「そう…ですか……」
最後に振り絞るように、想いを伝えてくれている。
私はそれに全力で答えるのが、最期に師匠として出来ることだと思い、じっとアリスの言葉を聞く。
アリス「わ…私は……最高の…ふぅ…弟子…でしたか?」
クロマ「…っ!!…はい、最高の弟子…でしたよ…!!」
そう言い残すと体の力は完全に無くなり、握っていた手はもうその温もりを感じれなくなっていた。
クロマ「………」
ロキ「もう…済んだか~い?」
私はアリスをお姫様抱っこでかかえると、そのままロキに背を向け安全な場所まで運ぼうとする。
ロキ「無視とはぁ…ひどいねぇ…」
クロマ(アリス……こんなにも笑顔で…ちゃんとこのまま一緒に帰りますよ………あら、ペンダントに血が…)
抱きかかえたままアリスの顔を見ると、視界には首から下げていたペンダントが入る。
私の血か、アリスの血か、お互い流血が酷く抱えたタイミングでついたのだろうか。
ロキ「くっ…ウィンド!」
クロマ「………ふん」
ロキ「なっ…!?」
ロキに構わず歩いていると、痺れを切らしたのか背後から風魔術を放ってくるも、私は振り返りもせず高飛びで避ける。
クロマ(魔術が嘘みたいに感覚で見える…体も動く……)
クロマ「アリス……」
私は10数m離れたところにローブを敷いてアリスを寝かせる。
ロキ(クロマ・アリウス……先と比べ格段に纏うオーラが変わった…まさか、成ったか…!)
クロマ「ロキ……終わりに、したいんですよね」
ロキ「君が…終わらせるのかい?」
私は向き直り、ゆっくりとロキの方へ歩く。
ロキ(ん…なんだ?ペンダントが光っている?)
クロマ(連撃をいなし続けるのに使った、属性魔術と時空魔術。アリスに放った第2等級魔術、もう魔力は限界でしょう)
クロマ「構えなさい、終わらせます」
ロキ「嘘…だろ…」
ペンダントが放っていた光は、私の全身を包み込み杖へと収束して行く。
その魔力量、構え方、私の纏うオーラ、全ての事象がロキに警笛を鳴らさせていた。
ロキ(まずい…撤退せね……っ!?)
クロマ「すぅぅぅ…ふぅぅ…」
ロキ(足が……動かんだと…?やはり古代魔術に第2等級と立て続けに使ったのはまずったか…!いや…見誤るな。僕も全てを出し切りクロマ・アリウスを殺す…!)
ロキ「『薙ぎ払う竜巻よ、全てを荒らせ…』ギガ・ウィンド!」
生命エネルギーをも魔力に変え、文字通り自身の全てを出し切った一撃は、地面を激しく切り刻みながら私に向かってくる。
だが、そんな魔術も止まって見えた。
クロマ「『空よ導け、地よ誘え、海よ示せ、天も獄も我が魔術に宿り答えろ』ヘブン・アイシクル!!!」
ロキ「第1等級…やはり僕の目に狂いは無かったなぁ…!!」
詠唱をし終えると同時、空中に魔法陣が出現し、一瞬で辺り一帯は全て氷に包まれる。
空は黒雲に包まれ、火山は氷山になり、マグマは氷に変わる。
天変地異を引き起こして出現したのは、神が雪山を丸めたかのような風貌の球体。
クロマ「潔く、死んでください…!」
高エネルギーを纏う球体が、ロキの第3等級風魔術を飲み込みながら襲いかかる。
ロキ「…ぐぐぐ…ゔっ…ぐはぁ…!!」
時空魔術で受けることも出来ず、球体をまともに食らったロキは、球体ごと魔界のゲートに吹き飛ばされる。
クロマ「……っはぁ…!はぁ!ぐっ…」
気絶寸前で意識を保ち、脱力した体を引きづりながらクレーターの方へと歩いていく。
クロマ「決着……ですね…」
クレーターの縁に着き見下ろすと、立派に佇んでいたゲートは跡形もなく木っ端微塵に壊れていた。
クロマ(書物によると壊すことは出来なかったと書いてあった。魔界と現世を繋ぐ唯一の道、その理を崩すほどの力が第1等級魔術にはあったのですね…)
私は踵を返して、アリスを迎えに行く。
クロマ「お待たせしました、アリス」
クロマ「一緒に帰りましょうか」
返事が帰ってくる様子は無い、抱きかかえ来た道を戻っていると、アリスとの日々がとめどなく脳裏に溢れる。
クロマ「うぅ……今だけは…許してください…アリス……」
こんな私をずっと慕ってくれて、こんな私を信じてくれた。
これから恩を返していかないとダメだったのに。
アリスとの日々を反芻しながら島の碇泊地へと歩いていくと、海から走ってくる男性の姿が見えた。
???「大丈夫かー!」
クロマ「…アルファード様!?」
カルス「大丈夫か?」
クロマ「私は何とか、、」
アルファード様は、私が抱きかかえたアリスを見て全てを察っした様子を見せる、続けてありのまま起きたことを説明した。
カルス「おつかれさん…よく頑張ったな」
クロマ「はい……でもなぜアルファード様がこんな所に?」
カルス「輸送船の奴が救援信号を出しててな、たまたま定期偵察で、ここに向かってた俺らの船がそれを拾ってここに来たんだ」
クロマ「そう……なんですね…」
カルス「一緒に船まで行こう、俺らが来た船でミリディアまで帰れる」
アルファード様にアリスを託し、私は杖を地面に突きながら背中を追う。
クロマ(想像と違いますが、根本原因を壊すことは出来ました。あとは現世に残る魔物を全て倒すだけ……スタートラインですね)
その後、碇泊しているミリディアの船に乗せてもらい、私達はミリディアへとの帰路に着いた。
本当なら、船から歩んできた道を見返して思い出に耽ったり、アリスの傍に居たりしたかったが、私も限界だったようで意識は知らないうちに闇へ消えていた。
ミリディアの宮殿内、その一室に私は運ばれて寝かされていた。
カルス「………という次第です。来て頂きありがとうございます、シリウスさん」
師匠「いいんじゃ、クロを助けてくれてありがとうな、カルス」
私が寝ているベッドの隣で、2人は座って話をしている。
カルス「クロマに話さないんですか?シリウスさんの過去のこと」
師匠「ワシが旅をしていたのは10年以上も前の話じゃ、今更話すこともないじゃろう」
カルス「そうっすか…それと、クロマがつけてたペンダントの魔石ってシリウスさんの杖の魔石ですよね?」
師匠「よく気づいたのぉ、クロに危険があった時の保険として持たせたのじゃ」
カルス「なるほど…それでか」
クロマ「………ここは…?」
カルス「おう、目が覚めたか」
2人の会話が微かに聞こえ始め、私はゆっくりと目を覚ます。
朧気な視界と記憶を覚醒させるためには、少し時間がかかった。
師匠「クロ、大丈夫かい?」
クロマ「し…しょう…」
カルス「うん、大丈夫そうだな」
上半身を起こし、周りをゆっくりと見渡して自分の置かれた状況を認識する。
クロマ「ミリディアの宮殿ですか?」
カルス「船で意識を失ってな、ここで休んでもらってたんだ」
クロマ「ありがとう…ございます…」
カルス「それとこれ、クロマが持っていてくれ」
クロマ「これは…!」
カルス「アリスが生前、杖に使っていた魔石をペンダントにしたんだ、お前が持っておくのが1番良いと思って譲り受けた」
クロマ「ありがとうございます……」
綺麗な翡翠色の魔石をあしらったペンダントを手渡しされて、無意識に両手で握りしめてしまう。
師匠「クロが無事で良かったのじゃ、おかえり」
クロマ「師匠……はい、ただいま」
旅の終わりを告げる言葉を交わし、私はこのミリディアに戻ってきた。
得た物は確かに多かったが、決して失う物が少なかった訳じゃない。
それに、私の旅はまだ完全な終わりじゃない。
これからまた国を出て、魔物の居ない世界を目指して長い旅を続けるつもりだ。
1週間ほど宮殿で体を休めて、完全復帰をした後に私はルーション街へ向かった。
クロマ「遅くなってしまってすみません、アリス」
少しの時を経て、かつての弟子と再開する。
クロマ「もう少しミリディアで準備を整えたら、また旅に出ようかと思います。魔界のゲートを壊すことが出来たので、あとは現世に残る魔物を何とかするだけです」
空を見上げてアリスと過した日々を思い出す。
クロマ「次会う時は魔物を根絶出来たらですね!楽しみに待っててください。2人の夢は、私が背負って持っていきます」
決意を胸に想いを伝え、私はルーション街を後にしミリディアの師匠の家に戻る。
クロマ「ただいま戻りました」
師匠「クロ、おかえり」
クロマ「どうかしましたか?」
師匠にじっと見つめられ、なんだかこそばゆい。
師匠「いや、少し心配しておったが、スッキリ晴れた顔をしておるな」
クロマ「いつまでも立ち止まってはいられませんから」
師匠「そうか…それならいいんじゃ」
とても安心したような優しい笑顔で答えてくれる。
私はそのまま自室に戻り、次の旅の準備を進める。
クロマ(せっかく私も旅をしたことですし、書物として残して置きましょうか……)
私はミリディアを出て旅をした過程を、経験談として本に書き残すことした。
クロマ「同じ経験が出来る者も居ないでしょうし、それに……アリスが生きた証も残して置きたい」
首から下げた2つのペンダントを握りしめて、気持ちを切り替えペンを握る。
クロマ「タイトルはどうしましょうか……う~ん…そうだ!これにしましょう!」
『アリウス冒険譚』
━━━━ 完 ━━━━




