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グレイシス山

昨日、北の森であんな激闘があったとは思えないほど、いつもと同じ朝日が顔を出す。

疲労感が残る体を引きずり、朝の身支度を始めた。


アリス「んあ~…おはようございます…」


クロマ「おはようございます。私は一足先に学校へ行きますね」


アリス「…はぁ~い」


朝が少し苦手なアリスに声を掛けてから学校へと向かう。

いつも通りの日常。


朝も早く、まだ活動を始める者が少ない時間帯の街。学校へ向かう道は毎日同じで、そこで出会う人達とは軽い顔見知りになっていて、彼らとは何度も挨拶を交わしていた。


見慣れた校門を潜り、校舎へと入っていく。


生徒「おはようございます!」


クロマ「おはようございます。元気がいいですね、今日も頑張ってください」


生徒「はい!」


この時間に会う生徒も限られていて、朝早くから学校で自主学習に励んでおりとても精が出る。


クロマ「おはようござ…」


エリー「大丈夫ですか?」


私が職員室に入るや否や、エリーさんが心配そうに声を掛けてきてくださる。


クロマ「本当に大丈夫ですから…」


エリー「無理せず、体に不調があれば言ってくださいね?」


クロマ「はい、分かりました」


そんな会話をしながら授業の準備を進め、時間が来れば教室へと向かう。


授業の合間の休み時間中は教材を見て復習しながら勉強をし、昼休みは実践的な試行をする。

実践的と言っても魔術を放つのではなく、体に流れる魔力を知覚し扱うトレーニングに近いものだ。

もっと効率的に魔力を流せれば、より質の高い魔術を扱える可能性が高い。

その後、午後の授業を終えるとアリスとのトレーニングを行う。


分からないことはあれど、その場に居る生徒やほかの先生方が助けてくれることもあり、私は何不自由なく過ごすことが出来ている。

慣れてルーティンと化した学校生活は本当に以前と変わらなかった。


クロマ「私はてっきり、北の森のことで騒ぎになるかと思っていましたが…」


アリス「そうですね、エリー先生が説明してくれたのか、何にせよ元の学校生活が送れて安心しました!」


日が暮れようとする空の元で、私達は帰路につきながら心配していたことを話す。


クロマ「これからの予定の話ですが、このままひと月ほどは教師の仕事をして稼ごうと思ってます。アリスも通い続けますか?」


アリス「そうですね…座学とクロマさんとのマンツーマンで学べるのはすごく魅力的ですし、私もひと月通い続けたいです」


クロマ「では、ここを出るのは少し先になるので休憩ですね」


アリス「ひと月の間少しゆっくりできますね!」


クロマ「それとミリディアのアークトゥルス家について何か知ってることは無いですか?」


アリス「アークトゥルス家って旅の目標にしている場所ですよね?」


クロマ「そうなんですが、アークトゥルス家は元々ミリディアで宮殿魔術師だったみたいなんです」


私は図書館で見つけた本の内容をアリスに共有する。


アリス「国外追放…そんなことあるんですね…」


クロマ「私がまだ物心着く前のことなので、記憶には無かったのですが……ルーション街に居た頃に、ミリディアのことを聞くことはなかったのですね」


アリス「はい、さすがに宮殿魔術師のことまでは教わらなかったです」


クロマ「なるほど…」


ミリディアの中では国外追放を隠すために知られてないのは普通だと思い、ミリディア外出身であるアリスに聞いてみたものの厳重に隠されているようで、アリスも知らない様子であった。


アリス「今のミリディアの宮殿魔術師はカルスさんとアルドラさんのお2人なんですか?」


クロマ「ええ、今はそうですね。昔はそのアークトゥルス家の方ともう1人居たみたいですが」


アリス「その方はもう魔術師ではないんですか?」


クロマ「私がミリディアに来た時にはもうアルファード様とアキシオン様のお2人でしたね」


アリス「来た時って、クロマさんってミリディアで産まれたわけじゃないんですか?」


私は口を滑らせたことを自覚し言い淀む。


クロマ「……」


アリス「クロマさんが旅してる本当の理由ってなんですか?」


クロマ「…分かりました、話します」


話しながら歩いていた足を止める。バクバクと鳴り響く心臓に胸を当てて、私はひた隠しにしていた過去をアリスに打ち明けることにした。


クロマ「私はミリディアの近くの小さな街で産まれました。その街は緑豊かな自然に囲まれた長閑な景色で、小さい街ながらご近所の方と協力し合いながら暮らしていたんです。でも、私が生まれて直ぐに魔物が襲ってくる被害に遭いました。両親は魔術師だったみたいで勇敢にも真っ先に魔物と戦ったと聞いています」


アリス「………」


重苦しい空気のまま話を続ける。


クロマ「ただ現れた魔物は強大で、両親だけでなく多くの民が帰らぬ人となってしまいました。王都に通報した者がいたおかげで魔術師の方が救助に来て下さり、家の奥の部屋にいた私は戦場から助け出されました」


アリス「そんな…悲惨なことがあったんですね…」


クロマ「はい、その後は私に魔術を教えてくれた師匠に保護されたのち、ミリディアにてずっと2人で暮らしてました」


アリス「じゃあ…旅の目的って…」


クロマ「王都で育った魔術師が国を出て旅に出るには、真っ当な理由なくして行くことはできません。認定式にて宮殿魔術師や王に認めてもらわねばなりませんから、魔獣や魔界を詳しく調べたいと高尚な理由で飛び出しましたが、本音は魔物を全員消し去りたいんです…」


アリス「……そういうこと…だったんですね」


クロマ「数百年の歴史で、魔力が発現し魔術を扱えるようになってから、領土を取り返してきてはいますが、まだ私のように大切なものを奪われている者はいる。だから私が私の手でこの悲劇を終わらせたい!」


アリス「落ち着いてください!」


過去に飲まれてパニックになっていた私に、アリスは強く呼びかけ目を覚まさせる。


クロマ「し…失礼しました…」


アリス「いいんですよ、私も…同じですから」


クロマ「そう…でしたね…」


はにかんで笑って見せるアリスの目に笑みはなかった。


アリス「はい、以前話したように、私も幼い頃両親を魔物による襲撃で亡くしました。それから孤児院で過ごしていたんです。魔導師の方に魔術を教えて貰ってはいたものの、私には才能なんてなくて、教会で生贄に選ばれた時、もうこのまま終わらせた方がいいんじゃないかって思いもしたんです」


クロマ「……」


アリス「そんな時助けてくれたのは、王都の魔術師でもなく、街の魔導師でもなくクロマさんだったんですよ!クロマさんの魔術に魅せられて、私はこの人と生きていきたいって思えたんです」


クロマ「そんな言葉…もったいないですよ…」


私の目から溢れ出した感情が水滴をまとって顔を伝う。


アリス「私がいますから、クロマさんは1人じゃないですから。一緒に最後までいきましょう!」


クロマ「……ありがとう…ございます…!」


日が暮れて闇に染まり始めるラフストーン公国で、私達はまた絆を強固にする。



学校で自主勉強しながら生徒に教えつつ、アリスと特訓する日々は早くも2週間が経とうとしていた。



エリー「あらまぁ…それは災難なことに…えぇ、はい、分かりました、では失礼します」


クロマ「どうかされたのですか?」


職員室で世にも珍しい狼狽えるエリーさんの姿があり、私は心配で声をかけた。


エリー「それが、南のグレイシス山で魔物が確認されたと報告があったのです」


クロマ「報告?なぜ学校に報告が入るのですか?」


エリー「魔物の対処が難しいとなると、こちらから魔術師を派遣するのでその準備をお願いしますとのことです」


クロマ「なるほど…タイミングが合えば私が行きますよ」


エリー「そんな、臨時で教員をしてもらっているのに申し訳ないですよ…」


クロマ「元々あと1週間で終わる予定ですし、ちょうどいいタイミングかもしれないです」


エリー「そうですか?では救援要請が来た時はクロマさんに声を掛けますね」


クロマ「はい、要請が来ないことを祈って待ってますね」


私はそのまま職員室を後にし、次の授業の教室へと向かう。


クロマ(ここでの仕事が終われば次の目的地はグレイシス山を超えて港町へと向かう…どの道向かうことにはなりそうですね…)


生徒「クロマせんせー?今日の授業何するんですかー?」


私が考え事をしながら廊下を歩いていると受け持ちの生徒に話しかけられる。


クロマ「今日は復習したのち、外で実技訓練をしますよ」


生徒「やった~!楽しみー!」


クロマ「走らない~!」


そう言うと彼女は教室の方へと走って行ってしまった。

信頼されてフレンドリーに話しかけて貰えると、ちゃんと教師をやれているんだなと安心するし、この環境に受け入れてもらえていることを実感する。



そのまま特に大きな問題は起こらずに日常を送っていた。

グレイシス山からの救援要請はあったみたいだが、同じ等級で私より授業数に余裕のある他の魔術師の方が当たったみたいで、私は最後の日までラフストーン魔術学校で過ごすことになる。


クロマ「では、みなさん今日までありがとうございました」


生徒「え~…もう辞めちゃうんですかー?」


クロマ「本来ならもう少し早くこの国を出ていたのですが、わがままを言って居させてもらっていたので、そろそろお暇しないとです」


生徒「なら仕方ないですね…」


クロマ(嘘も方便ですよね…)


生徒「またいつか教えに来てくださいね!」


クロマ「はい、是非機会があればまた会いましょう」


私は顔見知りのある生徒達に挨拶を済ませ、職員室へと向かった。

どうやら北の森の件は良い噂が広まっていたみたいで、私の別れを惜しんでくれる生徒は数多くいて、旅が終わればここでまた教師をしたいな、なんて思える日々だった。


アリス「うん!ありがとう!」


生徒「また会いに来てね!」


アリス「またね!」


廊下を歩いて職員室に向かっていると、アリスが友人と別れの挨拶をしていた。


クロマ「アリスは私より人付き合いが上手そうですね」


アリス「…クロマさん!?びっくりするからいきなり話しかけるのはやめてくださいよ」


クロマ「うふふ、ごめんなさいね」


アリス「クロマさんも挨拶していたところですか?」


クロマ「ええ、生徒達には済ませたので職員室でお世話になった方々に挨拶しに行くところです」


アリス「私は終わったので着いていきますね!」


相変わらずの様子だが、日々の勉学とトレーニングで基礎能力が飛躍的に上がっているでしょう。

私も魔力そのものへの理解度が上がり、言語化は難しいけれど知覚することも、何となく意識的にできるようになってきていた。


アリス「なんですか?」


私がアリスをじーっと見つめて考え事をしていると、不思議そうに問いかけられる。


クロマ「なんでもないですよ、アリスが日々頑張っていることを思い返していました」


アリス「出来る限り頑張りましたけど、なんだかんだ模擬戦ではクロマさんに1本も取れませんでしたから、まだ足りないです」


クロマ「向上心が高くて感心しますね」


なんて話していると職員室についたので、アリスには外で待っていてもらい私は中へと入る。

複数人に挨拶を済ませてエリーさんを探すも、見つからず近くにいた先生に話しかける。


クロマ「すみません、エリーさんがどこにいるか分かりますか?」


先生「あぁ、エリーさんなら校長室に向かったよ。かなり焦っていてびっくりしたな」


クロマ「ありがとうございます、校長室ですね失礼します」


焦っているエリーさんなんて、私は見たことない。

何かあったに違いないと感じ、私は足早で校長室に向かった。


クロマ「失礼します」


ノックをして「どうぞ」と扉の中から言われ、校長室に入る。


エリー「クロマさん…」


校長「クロマくん、どうかしましたか?」


クロマ「今日が最後の日なので挨拶回りをしていたのですが、エリーさんが見当たらず他の先生方に話を聞いたところ、校長室で話をしていると伺い、何かあったのかと思いまいて」


校長「そういうことですか、エリーさん話しても良いのではないですか?」


エリー「そうですね…」


クロマ「何があったのですか?」


エリー「実は、先日救援要請でグレイシス山に向かった先生がまだ帰ってこられず連絡もつかないのです」


校長「恐らく、何かトラブルに巻き込まれている可能性があると見ています。そこでどうしようか話していました」


クロマ「なるほど…では、私が行きましょうか?」


エリー「そう言ってもらえるとありがたいのですが、よろしいのですか?」


クロマ「ええ、恩返しさせてください」


校長「クロマくんは良い教師になれそうだね、またここに戻ってきて欲しいですよ」


エリー「本当にありがとうございます」


クロマ「短い間でしたが、お世話になりました。ありがとうございました」


エリー「こちらこそ、とても楽しかったですよ。またいつでも戻ってきてくださいね」


校長は、優しく微笑んで私のことを見つめてくれていた。

こういう別れの挨拶をするのは、苦手なのかもしれない。


クロマ「失礼しました」


扉の外に出ると、アリスが職員室から校長室前に場所を変え待っていてくれた。


アリス「エリーさん大丈夫でしたか?」


クロマ「エリーさんに何かあった訳じゃ無かったのですが、グレイシス山の方の魔物がかなりまずいみたいで、救援要請に向かった先生が戻って来てないみたいです」


アリス「そんなに強い魔物が急に出るなんて…」


クロマ「ロキの仕業の可能性がありますね…魔物の詳しい情報は聞いてないですが、グレイシス山に着いてから聞きましょう」


アリス「はい!行きましょう!」


私達は学校を出た後、宿に戻り荷物をまとめる。

ひと月の間しか居なかったけど、私達が過ごした温もりを微かに感じながら思い出を背負う。

この旅の数少ない出会いも、もうあまり残っていないから、全部背負って最後まで行くんだ。


アリス「長いようで短い1ヶ月でしたね」


クロマ「そうですね、とても良い経験ができました」


アリス「向かう先はグレイシス山ですよね!」


クロマ「はい、まずは先生の捜索ですね。先生が救援要請で向かったのが3日前、ここから1日ほど南に進めば着くので、気をつけながら向かいましょう」


アリス「分かりました!」


私達はラフストーン公国の正門の前でこれからの目標を確かめ合う。

アリスには話さなかったが、私は胸の内で最悪な状況も視野に入れながら最終目標のことを考えていた。


クロマ「では、向かいましょうか」


アリス「はい!」


公国を出て、林道を道なりに進んでいく。

ここから先はこれまで進んできた道とは比べ物にならないほど危険になっていくだろう。

魔界に通ずるゲートがある方角へと歩いている以上、魔物との接敵の可能性は上がる。


アリス「そういえば、私達魔界のゲートに向かっていますけど、魔界へ入ることって出来るんですかね?」


クロマ「どうでしょうか…そのためにスクロールも集めてますし、建て前で調べたいと話しましたが、魔物が住む世界を見たいのは事実ですね」


アリス「アークトゥルス家の許可が降りれば入れるって形なんですかね?」


クロマ「現実問題、許可が降りる可能性は低いでしょうね…」


アリス「そうなんですねぇ…」


そんな他愛のない話をしながらグレイシス山へと歩を進める。

夜が来れば魔物を実際見ることもあり、危険度が上がっていることを肌身で感じる。

交代で見張りをしながら夜を越して、次の日の昼にはもうグレイシス山へと辿り着いた。


クロマ「これは…」


アリス「想像以上ですね…」


私達がイメージする山とは比にならないほど壮大で、その連なった山々に気圧される。


クロマ「地図によると中腹に避難小屋があるみたいなので、ひとまずそこを目指しましょうか」


私は入口に建てられている地図看板を見る。


アリス「本当にこれを登るんですか…?」


クロマ「先生が気がかりですし、どの道ここを越えないと港町に行けませんからね」


アリス「ラングドック平原で登ったのは丘ぐらいの高さだったんですね…」


クロマ「確かに、ここと比べれば最初に登ったのは全然余裕でしたね」


私達は文句半分、鼓舞半分を口々に言い合いながら徐々に中腹を目指して進んでいく。

山に入って進むにつれ、まるで季節が変わったと錯覚するほどの寒さに襲われ景色も白銀の世界へと変わっていった。


クロマ「こんな山だと魔物もかなりいると踏んでいましたが、全く遭遇しませんね」


アリス「確かに、山に入る前は複数体見かけたのに、山には全く居ません」


違和感を感じ、寒さも相まって鳥肌が立つ。

そのまま警戒度を高めながら着実に進んでいき、やがて避難小屋が見え始める。


アリス「大きい!」


クロマ「避難小屋という名前に似つかず、小屋では無いですね」


木造建築で作られた避難小屋は、20人近く泊まれるんじゃないかと思えるくらい、立派な建物がそびえ立っていた。


クロマ「失礼します」


受付「こんにちは」


クロマ「お伺いしたいことがありまして、少しよろしいでしょうか?」


受付「どうかされましたか?」


クロマ「ラフストーン魔術学校から派遣された魔術師の方が帰らないと話を聞いて来たのですが、何か知っていることは無いかと思いまして」


受付「そう方でしたら、2階の救護室で休んでおります」


クロマ「そうなんですか!?ありがとうございます、様子を見てきてもよろしいですか?」


受付「はい、関係者でしたらご自由にどうぞ」


私達は許可を貰い2階へ向かう。


クロマ「失礼します、大丈夫ですか?」


魔術師「あぁ…クロマさんかい?来てくれて助かるよ」


クロマ「お久しぶりです、カート・ジルマンさん。お身体の方は大丈夫ですか?」


カート「辛うじて意識はあるって感じかな…悪いね、救援しに来たのにこんな有様で」


欠損などは無いが、明らかに重症だ。

2階に案内される際に受付の方から、病院に通報し救急隊が向かっていると聞いている。


クロマ「いえ、大丈夫ですよ。私とアリスが何とかしてみせます」


アリス「はい!カート先生任せてください!」


カート「アリスさん…はは、頼もしい返事だ。2人に任せるよ、私も回復し次第向かう」


クロマ「そんな、ジルマンさんは回復したら魔術学校へ戻ってください。ここでは応急処置しか出来てないですし、エリーさんが心配してましたよ」


カート「そうかい?じゃあそうさせてもらうよ」


クロマ「はい、行ってきますね」


アリス「失礼しました!」


私達は救護室を後にし、避難小屋で休憩している旅人の方から通話機を借りて、魔術学校へと一報を入れる。

エリーさんは一安心したような安堵の声を漏らし、私も不安が取り除けたのだと高揚感を感じた。


暫し休憩したのち、私達は再び頂上を目指してグレイシス山を登り始める。


アリス「他の旅人の人も何人かいて、聞いたところによると現れた魔物は魔人種みたいです」


クロマ「この雪山に魔人種ですか、私はこちらもドラゴンかと思いましたが」


アリス「接敵した時の目撃情報を整理した感じ、ゴーレムだと思います」


クロマ「それはまた厄介ですね…」


アリス「まずは頂上につかないとですね!」


クロマ「はい、中腹からとはいえまだ少しありますね…」


上へ上へと上るにつれて木々は無くなり、岩肌が少しづつ露出し始める。険しい道のりに変わっていく山はまるで私たちを拒んでいるかのようだ。


アリス「や、やっと頂上につきま…」


クロマ「アリス!屈んでください!」


アリス「なっ!」


頂上につき開けた空間が現れたと思ったら、眼前に巨体が見える。


クロマ「あれがゴーレム…」


アリス「ラングドック平原で見たオークより2回りくらい大きい…!」


じっと何かを見つめるように動かないゴーレムだが、明らかに侵入者を警戒している。


クロマ「隙をついて、などは無理みたいですね」


アリス「飛び出しましょう!」


クロマ「私から行きます」


私が飛び出したのと同時にアリスも飛び出すも、ゴーレムは素早く反応してくる。


ウオォォォォォ!


機械音にも似た声を出し、私達に襲いかかる。


クロマ「…!?」


アリス「はっ!」


振り下ろされる拳を躱して、攻撃態勢をとる。


アリス「メガ・フレイム!」


炎魔術はゴーレムの拳に命中し、明らかにダメージを与えているように見えるが。


アリス「なんと…」


煙が晴れて命中したであろう拳を見るも、傷はおろか当たった痕跡すらない。


クロマ「メガ・ストーン!」


私も重ねて岩魔術を放つも、当たるが効いてない様子。


クロマ(オーラと目を見るに、こいつはスクロールを付与されていない…それでいてこの耐久、やはりゴーレムは厄介ですね)


アリス「クロマさん!このゴーレム、スクロールないですよね!?」


クロマ「はい!恐らく装甲が固いだけでしょう」


幸いなことに、ゴーレムの動き自体は素早いものではないため、攻撃を避けるのは容易い。だが、ここまま攻撃が通らないのであれば体力も魔力もこちらが尽きるのが先だ。


アリス「このままではジリ貧です…」


クロマ「継続的にダメージを与えるやり方では、どうにもなりそうにありません」


アリス「てことは、大技一撃で倒すしかないってことですね」


クロマ「魔術学校で底上げした魔術の出しどころです」


私達は二手に別れてゴーレムを挟む。

ただでさえ素早く動けないゴーレムは、2人を同時に狙おうと攻撃を続けるため、より避けやすい単調な攻撃に落ちる。


アリス「ふっ…!」


クロマ(身のこなしが軽やかになって、避けるのも上手くなってる)


アリス「いきますよ!」


クロマ「はい!」


反対側でアリスがゴーレムに向けて杖を構える。

避けてから体勢を整えて構えるまでも格段に素早くなっている。


アリス「『荒れ狂う焔よ、全てを照りつけろ』ギガ・フレイム!!」


詠唱と共に杖の正面に、辺りの空気が震えるほどの火球が生成され、ゴーレム目掛けて放たれる。


ウオォォォォォ…!!


氷塊の巨体に火球が命中し、炎に包まれる。

その姿と唸り声を聞くに第4等級と比べ効いている。


クロマ(アリスに先を越されましたね、第3等級まで習得できているとは、負けていられません)


昂る心臓を落ち着かせ集中力を上げる。


クロマ「『絢爛たる紅蓮の劫火よ、全てを振り払い咲き誇れ』ヘル・フレイム!!!」


以前は失敗に終わった第2等級魔術へのリベンジ戦、前回は全く感じられなかった身体中の魔力を、今は手に取るように感じ取れ、効率的に魔力を杖へと集約させる。


ヒュゥゥゥゥン


アリスの第3等級と比べれ2倍ほどの大きさの火球を、天に掲げた杖の真上、頭上に生成させることに成功する。

その火球の風圧で服や髪が靡く。


クロマ「これで…決まってください…!」


ほぼ全ての魔力を消費し、ゴーレムへ向けて火球を放つ。


ウオォォ…オォ……


アリス「ふぅ…明らかに…唸り声が弱いですね…」


空色の氷塊は炎の紅色に飲み込まれ、巨体は徐々にその大きさを失っていく。


クロマ「はぁ…!はぁ…!」


アリス「クロマさん…!」


クロマ(これが…第2等級…こんなにも…消耗しますか…)


私がフラついてへたり込む所に、アリスが駆け寄って来てくれる。


アリス「やりましたね、クロマさん!」


クロマ「ありがとう…ございます…アリスも…頑張りましたね」


アリス「えへへ、お互い努力の成果が出せて良かったです」


2人でゴーレムが消え去るのを最後まで見届ける。

ゴーレムが消えた頂上には、それはそれは美しい絶景が広がっており、私達に祝杯を上げているようにも感じた。

先に道が続いているのは確認できたが、この状態での下山は危険と判断し、中腹の避難小屋へと行きより時間をかけて戻る。


受付「大丈夫ですか!?」


クロマ「はい、怪我をした訳では無いのですが…魔力の消費が…」


アリス「私はまだ大丈夫なんですが、クロマさんがかなりフラフラで…」


受付「分かりました、一緒に2階まで行きましょう」


受付の方が肩を貸してくれて、3人で階段をのぼり救護室へと向かう。


カート「大丈夫かい?まさかまた会う時が、救護室だとは思わなかったよ」


クロマ「私も…思っていませんでしたよ…」


アリス「カート先生、頂上を陣取っていた魔物は倒しましたよ!」


カート「本当かい!?すごいね、私なんかじゃ歯が立たなかったよ、本当に不甲斐ないね」


ジルマンさんに良い報告ができた私は、意識を手放してしまう。


アリス「本当に凄かったんです!第2等級魔術なんて初めて見ました!」


カート「アリスさんも凄いよ、その歳で第3等級魔術なんて私は見たことないからね」


アリス「えへへ、でも私だけじゃ絶対勝てなかったので、やっぱりクロマさんは凄い人ですよ」


眠っている私の隣で話す2人。暫くして救急隊が到着し、ジルマンさんは運ばれて行った。

意識自体はハッキリしていて、会話も問題なく出来ていたが傷は深いようで、一刻の猶予も許さない状況だったらしい。



クロマ「……んっ…?」


アリス「あ!大丈夫ですか?」


クロマ「ここは…」


アリス「避難小屋の救護室です。一緒に来たの覚えてないですか?」


私は断片的な記憶をかき集め、徐々に視界が明瞭になる。


クロマ「思い出してきました。どれくらい寝ていましたか?」


アリス「う~んと…4時間くらいですね」


クロマ(アリスが森で気絶した時より長いですね、やはり第2等級魔術はそれほどの消耗なんですね…)


アリス「本当に大丈夫ですか…?」


クロマ「え、あ、はい。大丈夫ですよ」


アリス「もう日も暮れますし、今日はここに泊まらせてもらって、次の日山を超えて港町に向かいましょうか!」


クロマ「申し訳ないです、本当なら今日港町に着いてそこで1泊する予定だったのに…」


アリス「私もこう見えてもう1歩も動けませんから、お互い様ですよ!」


クロマ「では、頼みに行きましょうか」


アリス「はい!」


二人で1階に降りて受付の方にお礼を言う。そして意識が戻ったことと、体力的に1泊させて欲しいことを説明すると、快く許可してくださった。

私達は2階救護室の隣の宿泊部屋に移動し、室内のベッドに腰を下ろす。


クロマ「アリスはすごいですね、難関だと思っていた第3等級をこんな短期間で習得できるなんて」


ダブルベッドに並んで座り、アリスの頭を撫でながら健闘を褒める。


アリス「ありがとうございます。クロマさんと魔術学校での授業のおかげですね!」


クロマ「良くできた弟子ですね、アリスのおかげで私も頑張れます」


アリス「私のおかげって言い過ぎですよ…ていうか最後のスクロールが手に入ると思っていましたが持ってなかったですね」


クロマ「スクロールは持ってなかったのは確かですが、通常の魔物とはスケールが違いました」


アリス「自然発生する魔物とは違うってことですよね」


クロマ「はい。私が森で遭遇したロキが1枚噛んでいると考えてます。スクロールの話ですが、重力、爆発、毒とこれまで3つ手に入れてきましたが、最初に聞いた話ではあと1つあるはずなんですよね」


アリス「うぅ~ん」


アリスが絵に描いたように顎に指を当てて考え込む。


クロマ「それに魔界に入って戦うのであれば必要という話で、入るのに4つ全部必要ということも無いですし、このまま港町へ向かいましょう」


アリス「それもそうですね!」


クロマ「これからの予定を整理しましょう」


アリス「はい!このまま港町へ向かいそこで情報収集を行う。可能であればそのまま海を越えて火山地帯を目指すって感じですかね?」


クロマ「はい、アークトゥルス家との接触は危険でしょう。魔界へのゲートが本当にあれば破壊さえしてしまえば魔物がこちら側に来ることはないと思われます」


アリス「魔界のゲートから現世に来てるんですもんね」


クロマ「魔物の根絶、叶うのであれば私達で成し得たい…」


アリス「もう私達みたいな想いをする人達は、現れて欲しくないですもん」


お互い震える手を握り合い、決意を固める。


私はこんな所で倒れてる場合じゃないんだ。アークトゥルス家は障壁になるだろうけど、例え相手が国家反逆罪で追放された第2等級魔術師だとしても、私だって今は第2等級魔術師だ。

何があろうともう怯まない。


クロマ「今日はこのまま休みましょう」


アリス「はい、分かりました」


部屋でゆったりと体を休めて、時々外に出て景色を楽しみながら、メンタルも回復させていく。


完全に日が沈み寝ているアリスを置いて窓の外を見つめる。暗がりの月明かりに照らされる白銀の雪化粧は、この世に不条理なんて無いみたいに思える。

それでも、今もどこかで誰かが魔物に襲われているかもしれない。


クロマ(全てを解決させるのは遠い道のりかもしれないけど、この世界を平和にするために、私が…私達が…世界を変えるんだ…!)


高い標高から見据えるは、ラフストーン公国とサルメール砂漠までは微かに見える。

今までの軌跡を振り返って、兜の緒を締め直す。


クロマ(…アリスとこうして旅を続けれるのも、この先長くは無いんですね…)


アリス「んにゃ…んん…」


寂しさを抱えアリスを撫でると少し反応する。


クロマ(起こす前に私も寝ますか…)


同じベッドに入り目を閉じて、私は意識を手放した。




ロキ「早い…素晴らしいよぉ…!」


灯りの無い深夜の避難小屋の屋根上に、男が空を見上げて仰向けで寝転んでいる。


ロキ「こんなにもすぐにものにするなんてぇ…やっぱり僕の目は間違ってなかったねぇ…」


不気味な笑みを浮かべて、目を見開いて手の甲を見つめる。


ロキ「話したかったけどぉ…会いに来てくれるなら待ってよっかなぁ…また会ったら、殺したくなっちゃうかもだしぃ…!」


魔の手が忍び寄って来ているのに、まだ私は気づくことが出来ていなかった。




カーテンの無い避難小屋の部屋では、朝日が直で当たり朝早くに無理やり起こされる感覚を味わえる。

良いプロモーションでは無いが、事実なので仕方ない。


クロマ「朝早く起きれるというのは、山ではメリットかもしれませんね」


アリス「疲弊した分ものすごく早く寝たので、その分早くに起きれましたね」


クロマ「確かにそうですね」


起き上がって体の調子を確認する。2人とも何も心配事は無さそうで、疲労感は完全に抜けていた。


クロマ「では、朝食を頂いて準備をしましょうか」


アリス「はい!」


避難小屋で販売されていた軽食を購入し、腹ごしらえをすませる。

その後は部屋に戻り、荷物の確認をし後片付けをしてから部屋を出た。


クロマ「本当にありがとうございました」


アリス「ありがとうございました!」


受付「いえいえ。お元気になられて良かったです」


クロマ「それでは失礼します」


受付「お気をつけて」


受付の方にも挨拶を済ませて、昨日登った山道を再び登る。

同じ道を進み頂上を目指したが、やはり魔物が現れることは無かった。

特に戦闘が起こることもなく頂上につき、これから向かう先を遠目で見る。


クロマ「降りて少し進んだところにある街が、話に聞いていた港町でしょう」


アリス「その先にうっすらですが、火山地帯も見えますね」


クロマ「それでは最後の街へ行きましょうか!」


アリス「はい!」

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