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6.ド天然令嬢、異世界の物語に涙する

 放課後、サルーシャ様との下校の時間まで余裕があるので、わたくしはひとり図書館に行こうと思い立ちました。

 わたくしは物語が大好きなので、今日は何を読もうかと書架を眺めておりましたら、後ろから声をかけられました。


「アリアさん」


「聖女様! じゃなくて、セイカ様。ごきげんよう。セイカ様も本をお借りに?」


「ううん、アリアさんを見かけたんで追いかけたの。ちょっと話があって」


「お話ですか? あっ、わたくしも先日の続きをぜひお聞きしたいと思っておりました!」


「よかった。ここじゃ話しにくいからあっちに行こう?」


 セイカ様はそうおっしゃると、一旦廊下に出て、並んだドアのひとつを開きました。


「まあ。セイカ様は学園に来てまだ日が浅いのに、談話室があることをご存知だったのですね!」


「ああ、ここはイベントで⋯⋯って、それはいいか。まあ、入ってよ」


 この談話室は、生徒たちが勉強会を開いたり合同課題の制作に使ったり、少人数で使用するための場所です。5部屋ほどあり、試験前になると希望者が殺到するので、ちょっとした争奪戦になることもありますが、今は静かなものです。


「あれから、私、いろいろ考えて⋯⋯。あ、座って? 大事な話なの」


「はい」

 大事なお話とはなんでしょう⋯⋯? 少し、緊張してきました。


「この前、ここは私のいた世界にあった物語とよく似てるって言ったでしょ?」


「ええ! すごく興味を引かれました! 詳しく知りたいですわ!」


「うん。⋯⋯その物語の主人公が、聖女とサルーシャなんだ。

 そのサルーシャは、少し難しい境遇でね。心に闇を抱えた人なのよ」


「まあ。どのような境遇なのですか?」


「生まれながらにして、人間とは思えないほどの強大な力を持っていて、小さい頃はチヤホヤされるんだけど、そのうち育つにつれて、だんだん周りから恐れられるようになってくるの。

 で、13歳になる頃、サルーシャに対して劣等感を募らせたお兄さんが、「そのうちサルーシャに次期当主の座を奪われるんじゃないか」という被害妄想に囚われて、ヤバい組織に頼んでサルーシャを殺そうとするのよ」


「こっ、ころっ⋯⋯!」


「実行犯は殺し屋なんだけど、凶器はお兄さんが呪いを仕込んだ魔道具だったの。強力な呪いには、相手を強く憎む気持ちが必要とかで。

 でも、サルーシャって天才じゃん? 殺し屋が魔道具を発動させる時、咄嗟に呪いを跳ね返したんだよね」


「そ、それって、お兄様が⋯⋯」


「そう。お兄さんは死んじゃって、サルーシャはそれで、お兄さんが自分を殺したいほど憎んでいたことを知ったの」


「なんてこと⋯⋯!」


「サルーシャの両親は、息子たちが殺し合いをしたこと、跡取りの長男が死んだことにひどくショックを受け、サルーシャとますます距離ができちゃって」


「そんな! 一番傷ついているのはサルーシャ様ですのに‼︎」


「そうだよね。いくら天才でも、まだたったの13歳やそこらで、不可抗力とはいえ実の兄の命を奪ってしまった。それより、今まで慕っていた兄から殺されかけた。

『それほどまでに憎まれていたのなら、抗わずこの命を差し出せばよかった』と涙を流してたよ」


「うっ、うっうっうう⋯⋯」

 なんという悲しいお話でしょう。涙がぼろぼろとこぼれます。


「それからサルーシャは心を閉ざしてしまって、笑わなくなった。

 そんなサルーシャの心を溶かしたのが聖女だったの。サルーシャを愛し、寄り添い、少しずつ彼の心を開いていった。

 そして二人は、力を合わせて魔王を倒し、世界を救って、ようやくサルーシャは自分を許すことができるようになる。彼らを称える花吹雪の中、二人はお互いに永遠の愛を誓うのよ」


「ああ! 幸せになるんですね! なんて素敵なお話なのかしら!」


「この物語は、乙女ゲームって言って、絵と声が付いていて、自分が聖女になって話を進めて行くの。サルーシャ以外にも第三王子や公爵令息とかの攻略対象とも恋愛できるんだけど、サルーシャが本当のメインヒーローだから、サルーシャとのストーリーを進めて初めて、真のエンディングが見られるようになってる」


「よくわからないけれど、すごく面白そうですわ! 素晴らしいです! 自分が主人公になって物語を楽しめるなんて‼︎」


「本当、そうなの。

 ⋯⋯あの頃、このゲームをやり始めた頃、2年前くらいかな。私の両親が離婚しちゃって⋯⋯」


「まあ、それは⋯⋯。お辛かったでしょうね」


「うん。悲しくて塞ぎ込んじゃって⋯⋯。そんな時、このゲームに出会って、サルーシャに出会って、夢中になった。

 サルーシャを助けたくて、幸せにしたくて、何度も何度もやり込んだんだ」


「セイカ様ご自身もお辛い時なのに⋯⋯、ううっ、ぐすっ」


「だって、私も救ってもらったんだもん。あの時、サルーシャに出会わなかったら、私、前を向けるようになるのに、もっともっと時間がかかったと思う」


「ああ⋯⋯、なんという美しいお話⋯⋯。セイカ様、わたくし、セイカ様を尊敬いたしますわ!」


「ありがとう。だから、サルーシャは、私にとって特別なんだ」


「ええ、ええ、そうでしょうとも。わかりますわ」


「良かった。アリアさんなら、わかってくれると思ってた。

 じゃあ、サルーシャを私に譲ってくれるんだよね?」


「⋯⋯⋯⋯はい?」



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