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4.ド天然令嬢、聖女の出会いを邪魔する

 今日の午後、学園の回廊を歩いておりました時のこと。ふと、植え込みのほうから、鳥の小さな鳴き声を耳にしました。木の上ならともかく、声のするのは植え込みの中。気になって見に行きましたら、可愛らしい小鳥がもがいているではありませんか。足に何か紐のようなものが絡まっている様子。もがくうちに植え込みの植物にも絡まり、さらに取れなくなってしまったようです。


 わたくしは、小鳥をそっと持ち上げ紐をはずしました。見ると、いままで暴れていたせいか、羽に少し血がにじんでいます。でも、大丈夫。このくらいの怪我なら、わたくしでも治せそうです。

 魔法の才はまったくと言っていいほど無いわたくしですが、実はほんの少しだけ治癒魔法が使えるのです。すり傷を治す程度の生活魔法レベルではありますが、子どもの頃は、ちょっとした傷なら自分で治せてしまうので、お転婆に拍車がかかって家族からよく叱られたものです。


 ささやかな治癒魔法でも、無事に羽を治すことができたので、やっと小鳥を空に帰そうとした時、今度は遠くから女性の話し声が聞こえてきました。その声は、だんだんこちらに近づいているようです。


「あ、ここ、ここ。ここでサルーシャが小鳥を拾って、私が治癒してあげるのよ。それが私たちのファーストコンタクト! でも、この前もう顔を合わせちゃったけどね。

 だけど、やっぱストーリーは重視しなくちゃ。タイミング的に、もうサルーシャが来てるはず⋯⋯なんだけど。

 あれ? 誰だろう? なんで違う人がいるの?」


「聖女様?」

 おしゃべりしながら近づいて来たのは、先日お会いした聖女様でした。おひとりとは思えないほど、ずいぶんとなめらかなひとり言をお話しになる方ですわね。


「ええと、あなたは⋯⋯」


「アリア・テオドールでございます。聖女様」


「思い出した! サルーシャの婚約者!」


「はい、悪役令嬢のアリアです」

 わたくしは、満面の笑みで答えました。


「あっ、ご、ごめん、嫌なこと言ったよね?

 気にしてる? アリアさん、だっけ。全然悪役令嬢じゃないよね。失礼なこと言ってごめんね?」


 ガーン。

 ショックのあまり、わたくしの顔から血の気が引いていきます。

「あ、悪役令嬢ではない⋯⋯と? そ、そんな⋯⋯!」


「あ、な、なんで? 悪役令嬢って言っちゃったのは、ポジションというか⋯⋯。でも、キャラが違ったし⋯⋯。

 えと、ま、まさか、悪役令嬢が良かったの?」


「当然です!」

 ガッカリして、涙がにじんできました。


「マジで? それはまた、どうして⋯⋯」


「だって、すごくカッコいいじゃありませんか‼︎ 悪役令嬢はわたくしの憧れです!」


「そ、そうなんだ⋯⋯。カッコいいっていうのもわからなくはないけど⋯⋯。

 なんか、重ね重ねごめんね?」


「いいえ、ひと時の夢を見せていただけただけでも幸せでした⋯⋯」

 ついに、涙がこぼれてしまいます。


「な、泣かないでよぉ! そんなに悪役令嬢が良かったんだ? でも、悪役令嬢っぽくなくても、アリアさんにはアリアさんの良さがあるでしょ? そこに自信を持ったほうがいいっていうか、ね?」


「聖女様⋯⋯。なんてお優しい。そのお心、本当に聖女様ですね」

 涙がポロポロ。


「いや、それほどでも⋯⋯。ああもう、泣かないで〜」


「で、わたくしの良さとは、どんな?」


「えっ? あっ、あの、えっと、雰囲気が柔らかい、みたいな? 人を緊張させない感じ? 安心できるっぽい?」


「⋯⋯カッコよくはありませんわね」


「いいじゃない! アリアさんみたいに可愛くて、朗らかで、優しいほうが素敵だよ?

 ⋯⋯なにこれ。なんで私が慰めてるんだろう⋯⋯?」


「ありがとうございます。聖女様は、やっぱり素晴らしいお方です」


「いやいやいや。そんなことないし。

 あとその『聖女様』っていうのやめて? 私は聖香っていうの」


「セイカ様。取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」


「いえいえ、こっちこそいろいろごめんなさい。サルーシャの婚約者って聞いて、テンプレの設定を想像したけど、アリアさん普通にいい子だし。ちょっと変わってるかもだけど」


「てんぷれのせってい、とはなんでしょう?」


「あー、わかりにくいよね。どこから説明すればいいのか⋯⋯。

 私が異世界から来たのは知ってるよね? 私のいた世界は、すごくたくさんの物語であふれていたの。小説はもちろん、絵で物語を読ませる “マンガ” とか、絵が動いて声も付いてる “アニメ” とか、あと、動く絵と声で見せながら、自分が主人公になって物語を進めていく “ゲーム” っていうものもあるんだ」


「まあ! 絵が動いたり話したりするんですの!? 魔法みたいですわ! しかも、自分が主人公になるなんて、夢のようですわ!」


「うん、私も大好きだった。

 それでね、あなたたちがいるこの世界は、私の知っているゲームの物語にすごく似ているのよ」


「え!? それはどういう⋯⋯??」


リーンゴーン。


 その時、次の授業の始まりを知らせる鐘が鳴りました。


「あ、私、地理と歴史の特別授業に出なきゃなの! ごめんね、続きはまた今度!」


「え、あ⋯⋯」


「あ、そういえば、小鳥は?」


「はい? 空に帰って行きましたが⋯⋯」


「そっか、良かったね! じゃあ、アリアさん、またね〜」


 セイカ様の語ったことは、あまりに衝撃的でした。絵が動いたりしゃべったり、というのはもちろんすごいけれど、自分自身が物語の主人公になれるなんて!

 しかも、最後の「この世界は、知っている物語に似ている」という発言!

 この世界のことが、別の世界ではひとつの物語として存在しているのでしょうか? そうだとしたら、最大級の摩訶不思議! 夢があるなんていうレベルじゃないですわね!


 すごくワクワクしますわ‼︎ 絶対、近いうちに続きをお聞きしたいです!



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