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1.ド天然令嬢、悪役令嬢と呼ばれる

「サ、サルーシャ⁉︎ 本物⁉︎ 本物のサルーシャなの⁉︎」


 朝、学園の廊下をサルーシャ様と歩いておりましたら、向こうからいらした女生徒が、サルーシャ様を見て声を上げられました。驚いてその方を見ると、この国では珍しい長い黒髪と黒曜石のような瞳の可愛らしいお姿。今話題の聖女様ではありませんか。


 聖女様といえば、王家と同等の地位を約束されたお方。わたくしは、すぐに簡易的ではありますが、臣下の礼を執りました。


 隣を見ましたら、サルーシャ様も胸に手をあて礼をしていらっしゃいますが、突然呼び捨てにされたからでしょうか、眉間に不愉快そうなシワを寄せています。


「や、やばっ、生の推し⋯⋯、目がつぶれるっ! ど、どしよ⋯⋯。

 あ、あの! 私、愛田聖香です!」


「サルーシャ・ミストレイクです。聖女様」


「はわわわ〜! 声がいい! ひや〜。⋯⋯ん? あれ? え、誰?」


「アリア・テオドールでございます。聖女様」


「アリア? って誰? なんでサルーシャと一緒にいるの?」


「私の婚約者です」

 サルーシャ様が、無機質な響きで聖女様の問いに答えました。


「え、婚約者⁉︎ そんなはずは⋯⋯! どういうこと? そんな設定なかったよね⋯⋯。わ、私のサルーシャに婚約者⋯⋯、バグ? ゲームと違うの?」


 聖女様が、なにやらひとりでブツブツおっしゃっています。


「婚約者ってことは、まさか⋯⋯! 悪役令嬢⁉︎ ⋯⋯には見えないけど」


 なんですって⁉︎ 今、たしかに聞こえましたわ! 「悪役令嬢」と‼︎ ま、まさか、わたくしのことですの⁉︎


「それでは、聖女様。私たちは授業が始まりますので」

 サルーシャ様が淡々と告げ、わたくしたちはその場を離れることに。


「あ、はい⋯⋯。では、また」

 聖女様は、どこか上の空というか、考え事に気を取られているご様子で、立ち尽くしておられました。


 サルーシャ様と二人になったところで、わたくしは先ほどの興奮が抑えきれず、つい言葉を発してしまいました。

「サルーシャ様! 聖女様が、わたくしのことを “悪役令嬢” とおっしゃってましたわ! お聞きになりましたわよね⁉︎」

 目をキラキラさせながら、サルーシャ様を見上げます。


「⋯⋯」


 わたくしの興奮とは裏腹に、サルーシャ様はなんとも言えない表情をなさいました。わたくし、それ、知ってます。「ちべすな顔」というやつですわよね。

 なんでしょう。ちょっとムッとしてしまいましたわ。



                  * 



 さて、その日のお昼休み。

 わたくしは、アデリン様とリリアン様に、朝の出来事を披露いたしました。


「わたくし、聖女様から “悪役令嬢” と言われましたの!」


「悪役令嬢とは、最近流行りの恋愛小説に出てくるライバル令嬢のことですね?」

 さすが、リリアン様はちゃんとご存知です。


「ほめ言葉のようには聞こえませんが、アリア様はなぜ嬉しそうにしていらっしゃるの?」


「まあ、アデリン様。悪役令嬢といえば、気品、知性、美貌、芯の強さ、そのすべてを兼ね備えた、貴族女性の誉れなのですわ! わたくし、ぽやんとしてるとか、ボーッとしてるとか言われることが多いものですから、悪役令嬢なんて言われることは、人生で一度もないと思っておりましたの! それが今日! 思いがけなく! 夢のようです!」


「ぷっ、くっ、ふふっ、それは、良かったですわね」


「ええ! でも、わたくしの中の悪役令嬢のイメージは、アデリン様でしたのよ?」


「まあ、それは喜ぶべきところなのかしら?」


「ええ、もちろんです! わたくしの、もう、全アリアの憧れの的なのです!」


「⋯⋯全アリア⋯⋯の、憧れ⋯⋯」

 なぜかサルーシャ様が、ショックを受けたようなご様子です。


「あらあら、最上級の賛辞をいただいてしまいましたわね」

 アデリン様が、サルーシャ様に勝ち誇ったような笑みを向けました。その表情、すごく悪役令嬢っぽいですわ! 素敵!


 次の瞬間、サルーシャ様とアデリン様の間に火花が散ったように見えました。気のせいかしら。


「サルーシャ様、殿方は令嬢にはなれないのですよ」


「うっ」


 リリアン様が、当たり前のことをサルーシャ様に告げています。


「ふふっ、これ意外と楽しいですわねぇ」


 アデリン様が、目を輝かせていらっしゃいます。悪役令嬢ごっこに目覚めてしまわれたようですわ。

 ふと見ると、リリアン様は真面目な面持ちで、小さくつぶやきながらメモを取ってるご様子。

「⋯⋯サルーシャ様が、オモチャに⋯⋯と。アンナさんに報告せねば」


 こんな時もお勉強かしら。さすが優等生のリリアン様は違います。




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