表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

13.侍女に敗北した侯爵令息の穏やかな日常

最終話です。

 数週間にわたる聖女騒動も落ち着いて、ようやく穏やかな日常が戻ってきた。

 異世界との行き来は禁忌ではないが、あまりに難易度が高いため、これまで実行されることはほぼなかった。第三王子を担ぎ上げた者たちが聖女召喚できたのは、かなり精密に記された過去の記録が発見されたためだが、それでもすんなり事が運んだわけではなく、ネックとなる魔力供給を強引に解決すべく、実に28人の魔術師が集められたと聞く。ご苦労なことだ。


 その大層な魔法を、まさか私自身の手で実行することになろうとは、アリーといるとまったく退屈する暇がない。

 とはいえ、今回の大魔法に関しては、アンナの力なくしては実現しなかったことを認めよう。少なくとも、こんな短時間での実現は不可能だった。


 アンナといえば、あの鋼の表情筋に私は人生最大の敗北感を味わったものだが、今回またしても、敗北を喫することとなった。


 あの、アリーにそっくりの人形のことだ。

 ただ似ているだけではない。アリーの愛らしさが抽出され、さらに凝縮されているのだ。

 それは、奇跡と呼んでもよいほどのもので、かなり控えめに言っても、めっちゃ可愛い。それを凌駕するのは、アリー本体以外にはない。つまり、その人形は世界で2番目に可愛いのだ。

 なぜ、あのようなものが生み出せるのだろう。天才かも知れない。まったく勝てる気がしない。恐るべし、アンナ。



 実は、なにを隠そう。その国宝にしてもいいくらいの芸術作品が、なんと、今、私の手の中にあるのだ! ついに、ついにである!

 しかも、人形を私にもたらしたのは、その本体であるアリーだ。


「サルーシャ様が、すごく気に入ってるご様子でしたので、アンナに頼んで譲ってもらったのです。

 ちょっと、わたくしに似てますよね? なんだか恥ずかしい気もしますが、今回わたくしのために頑張ってくださったサルーシャ様へのお礼ですわ」

 なんて言って、やや頬を赤らめてすごく可愛かった。やはり本体はすごい。


 私は喜びのあまり、本体の頬に口づけ、そのまま抱き上げクルクルと回った。もちろん、人形のアリーちゃんも一緒だ。

 クルクルし過ぎてアリーが少々目を回してしまったので、そっとアリーを椅子に降ろして謝った。


「ふふっ、サルーシャ様、そんなに喜んでくださるなんて。なぜ、それほどそのお人形がお好きなのです?」


「もちろん、君にそっくりだからだよ。言うまでもないが、本体である君のほうがもっと可愛いけれど」


「ご冗談を! もうっ、恥ずかしいですわ!

 ⋯⋯サルーシャ様、セイカ様がおっしゃってましたけれど、サルーシャ様は本当に、幸せで満たされていらっしゃいますか? 幸せなのは、わたくしばかりなのではないかと、たまに思ってしまって」


「ああ、アリー。私はきっと、君が感じているよりもずっと、幸せで満たされている。この気持ちを取り出して、見せてあげることができたらいいのに。

 アリー、これからもずっと、私の側にいてくれるかい?」


「もちろんですわ。それは、わたくしの願いでもありますもの」



                    *



 セイカ嬢から語られた、異世界のサルーシャの物語。それを聞いた時、なんとも言い難い不快な、戦慄にも似た衝撃が走った。


 彼が、私の内側で、呼吸している⋯⋯。そんな、説明のつかない感覚に襲われたのだ。



 絶望し、己を否定し、心を閉ざしたその男は、暗闇の中できっと願い続けたはずだ。


 自分を許せる日が来ることを。

 ひと筋のあたたかな光を。

 すべてを溶かすような愛をーー。



 時間を越え、次元を越えて、彼の願いは聞き届けられたに違いない。

 兄という存在は消え、そして、いつも傍にはアリーがいる。

 この世界は、この人生は、泣きたくなるほどに優しく、あたたかい。



「私は、この上なく満たされていて、幸せだよ」


 私は、自分の胸に手を置いて、微かな声で語りかける。


「お前も、今、そうであってくれたらと、思う」


 ふと、胸の奥がじわりとあたたかくなったのは、きっと気のせいではないと信じている。



最後までお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
もうこのシリーズ、永遠に読み続けたいくらい好きです!ほぼ毎日読み返してます笑 アリア嬢の勘違いパワーが炸裂し、サルーシャ様のヘタレが露見し、アンナのキャラが爆発しと目白押しです。アリーちゃん人形、私も…
第4弾も前3作品に続き楽しく(顔のニヤニヤを抑えるのが大変でした)読みました。 アリーの天然さは緩やかにパワーアップしてて アンナの隠れた才能が具現化されたり サルーシャのヘタレ具合の表面化と闇の部…
乙女ゲームのバッドエンドサルーシャ様の 無念と絶望が構築した理想郷? アリア嬢の存在が圧倒的世界平和…! セイカ様もお家に帰れて良かったです。 途中はどうなることかと心配しましたが、 さすがアリア嬢…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ