12.ド天然令嬢、聖女との別れを惜しむ
「なにか思い出したのですか?」
セイカ様が、ちょっと顔を赤らめて口ごもっていらっしゃいます。
「えっと⋯⋯サルーシャの、フィギュア」
「フィギュアとは、なんでしょう?」
「本物そっくりに作られた、お人形です。ずっと欲しくて、でも高くて買えなくて⋯⋯。そうしたら、お母さんが、誕生日にプレゼントしてくれたんだ」
「まあ、それは宝物ですわね!」
「ほう! やはり、人形はいいものだな! セイカ嬢は良い趣味を持っている」
サルーシャ様が賛同すると、なぜかアデリン様とリリアン様が冷めた眼差しでサルーシャ様を見ていらっしゃいます。
「そのお人形には、セイカ様だけのものだとわかる特徴はありますか?」
「あ、はい。お母さんからもらった時にかけられていたリボンを、台座に結んであるの」
「素晴らしいです。では、そのリボンを含め、お人形の全体像をしっかり思い出してください」
その数秒後、「カチリ」とはっきりした音が響くと、魔道具の文字のすべてが輝き出しました。
「よくできました。これで、完璧に座標が特定されましたね。
では、これから転送の魔法陣に魔力を送り込みます。これには膨大な魔力が必要ですが、ラッキーなことに、ここには魔力お化けのサルーシャ様がいらっしゃいます。
さ、サルーシャ様、出番ですよ」
「え、も、もう? まだ、みんなにちゃんとお礼もお別れも言えてない!」
セイカ様が、焦った声をお上げになりました。わたくしも寂しい気持ちで胸がいっぱいになってしまいます。
「大丈夫です。その魔道具は1度しか使えませんが、セイカ様があちらに帰った後も、短い時間ですが、わずかに空間のつながりが残ります。ですので、数分間ではありますが、魔道具を通じてこちらとの会話が可能です。セイカ様が無事に帰られたかどうかも確認したいですしね」
「そうなんだ。ありがとうございます! じゃあ、あとでまたきちんとお礼を言うね。なんか、名残惜しいけど、帰ります!」
「無事のご帰還を祈っております!」
「では、始めるぞ」
サルーシャ様が両手を広げて魔法陣に魔力を注ぎます。すると目を開けていられないくらいの光が魔法陣からあふれ出し、その中心にいらっしゃるセイカ様のお姿が一瞬、光の粒のようになったと思ったら、すべての光が消え、セイカ様のお姿も消えていました。
「⋯⋯すごいですわ!」
「成功、したんですね」
わたくしたちが呆然としておりますと、セイカ様が消えたあたりの空間から声が。
『アリアさん! みなさん!』
「セイカ様! 無事にお帰りになりましたか!?」
『うわ、ほんとに聞こえる‼︎ ありがとう! 全部、全部あの日のままです! 本当に戻って来れたよ! あ、ありがとう、ご、ざ⋯⋯ますっ」
良かった。声を詰まらせるセイカ様の様子に、わたくしたちも嬉し涙がこみあげてきます。
『アリアさん、私を助けてくれて本当にありがとう。アンナさん、完璧以上のすごい天才侍女! このご恩は忘れません。アデリン様もリリアン様も、私のために協力してくださって心の底から感謝しています!』
「本当に良かったです! お母様とお幸せに」
「無事にご帰還が果たせたのは、セイカ様のお心のありように依るところも大きいのですよ。私たちの力だけではありません」
「そのとおりです。セイカ様のおかげで、アンナ師匠の素晴らしさを再認識できましたし」
「私、セイカ様のこと嫌いじゃなくてよ。会えなくなると思うと、つまらないですわ」
みなさん、時間がないことを気にして、一斉にしゃべり出します。
『ありがとうございます! アデリン様って、アリアさん憧れの “悪役令嬢” みたいですね。カッコいいです』
「そうなのです! セイカ様、ほんとによくわかっていらっしゃいます!」
『あと、サルーシャ⋯⋯様。いろいろ失礼なことをしてしまってごめんなさい。
アリアさんの言うとおり、サルーシャ様は私の知ってるサルーシャとは別人でした。サルーシャ様は、とても⋯⋯幸せで満たされているのだと感じました。すべて、アリアさんのおかげなんですね。
勘違いしていたとはいえ、お二人にはご迷惑をおかけしました。
余計なお世話かもですけど、アリアさんとずっとお幸せにね』
「ありがとう。セイカ嬢も、幸せな人生を」
『うん! ありがとう! みんなに会えて、ほんとに良かった!』
その声を最後に、通信は途絶えました。
わたくしたちは、やり切った達成感と一抹の寂しさを抱えて、ゆっくりとその部屋を後にしました。
皆、無言でしたが、それぞれに、どこか満ち足りたような笑顔を浮かべていました。




