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アミィの情報収集 ② ノームのオヤジさんとオムライス

「アミィ、先ほどの店主が言っていた装飾品のオヤジとはこの御仁ではないか」


リンゴを食べ終わり、お店を見回していたザクロが立ち止まる。

お店に並ぶつくりは少々粗いが見たことのない意匠が施された銀細工の指輪や耳飾り、使い勝手のよさそうなカップや小物入れが見事な刺繍の入った敷物の上に並んでいた。


敷物の向こう側テントの中に目をやると、顔だけ見れば確かにオヤジなのだろう

とても小さな人が胡坐をかいて座っていた。


ちっさいおじさんだ…


ついつい見つめていると、おじさんと目が合った。

「おや、ノームは初めて見るかい?異国の方」


「ごめんなさい、私、失礼でしたね」

私は慌ててペコっと頭を下げる。

いや、構わないよ。ノームは珍しいからねと言いながらおじさんはひらひらと手を振った。


「おや、その髪飾りは見たことがない代物だ。お前さんの国のものかい?

ちょっと見せてもらってもいいかな」


ノームのおじさんは興味津々の顔でモノクルをかけて手をだす。

そういえば果物やの女主人がいい値を付けてくれると言っていた。

以前暇つぶしにと太めのお箸を削って作った私のお手製なのだが、

この世界にかんざしはないのだろうか。


私はすっと髪から抜いておじさんに渡した。まとめ上げていた髪がするっと落ちて前に垂れる。


――あれ、毛先の色が紫になってる…


視界に入る自分の髪が黒から紫へとグラデーションになっている。

ザクロにもエーレにも何も言われなかった…


――男性はそういうのには疎いから、気にならなかったのかしら


装飾品には興味なさそうにほかの市をのぞき込んでいるザクロをちらっと見て

肩をすくめる。


「ほうほう、この棒一本で髪をまとめていたのかい?

お前さんたち、ずいぶん遠いところから来たんだね。この国の女性たちは頭に布を付けるぐらいで、

 まとめ上げることはあまりしないからね。

 ふむふむ。非常に滑らかな手触りだ。この先の部分は少し粗いが猫人…いや幻獣カーバンクルかな?」


かんざしを撫でたりかざしたりコツコツと指でたたいたりして観察するおじさんの口から

聞き覚えのある言葉が聞こえた。


「おじさん、カーバンクルを知っているんですか?」


きょろきょろとしているザクロも「ほぉ・・・」とこちらに耳を傾けている。


「あぁ、だれでも知ってるさ。とおいとおい昔の今は忘れられた神様の眷属だろう。

 本当にいるのかは知らないけれどね。猫のような姿をしている」


あ、それ禁句


案の定ザクロがざっと前に出て口を開く

「我は猫では…」

私はとっさに背伸びをしてザクロの口を押えて小声で注意する。

「だめよ、正体をばらすようなこと言っちゃ」

ザクロがひどく不機嫌な顔でプイっとそっぽを向いてまた一歩さがる。

おじさんはかんざしに夢中で気がついていない。


ふぅ、あぶない…


私は額の汗をさっとぬぐうしぐさをして息をつく。


ノームのおじさんは手のひらに乗ったかんざしをじっと見つめ、ころころと回しては光に透かした。


「いやぁ、こりゃあ見事な細工だ。少々荒削りな部分もあるが……黒檀は固い。ここまで滑らかに削って意匠を掘るのは難しい。これはお前さんの国では普通に使われるものなのかい?」


確かに、硬くて掘るの大変だったな…ゆっくり少しずつ削ったからいい暇つぶしだった。


「そうですね…かんざしはみんなが使うというわけではないけれど、珍しくはないです。

 それは私の手作りで、二本が対になっているんです」


そういってカバンからもう一本のお箸…ではなくかんざしを取り出した。

こちらも猫のモチーフに削られている。


「ほう、これはかんざしというのか。お前さん、なかなか器用な手をしてるじゃないか。

 対になっているのには何か意味があるのかね」


「いえ、かんざしは対になっているものではないです。材料にしたものがこう、二本の棒で物をつまんだりするのに使うものなので、この作品は対になっているんですよ」

一本のかんざしでお箸のように使うしぐさをする。

この世界にお箸なんてあるのかしら・・・


「ほお、器用なもんだ。それも見たことない道具だな。ふむふむ……

これは対で持っておかないといけないというものでもないのであれば1本売ってはくれんか」


ノームのおじさんのモノクルがきらりと光る。商人の目というやつか。

ここは私も小物作家だ。受けて立とうではないか。


「そうですね…条件次第でしょうか」

にこっと微笑んでおじさんを見返す。


ふむ…と腕を抱えておじさんは考え込んだ。


もともと1000円ぐらいのお箸を暇つぶしで削った普段使い用のかんざしだ。

1本2000円ぐらい…さっき聞いたお金の価値でいうと小銀貨2枚ぐらいになったら

儲けもんってとこかなぁ。

そんなことを考えているとおじさんがポンと手をたたいて両手を前に出す。

右手が親指を立て、左手は小指を立てている。


「大銀貨1枚と銀貨1枚でどうだ」


「……え?」


予想よりはるかに高い額に言葉が詰まる。「換算すれば、およそ一万五千円ほどだ」

別の市をのぞき込んでいたはずのザクロがそっと耳打ちしてくれた。


――た、高い……!


驚きでうーんとうなっていると、おじさんは少し悔し気な顔で追加で左手の人差し指が上がった。

「追加で小銀貨2枚だ!!これ以上は無理だよ」


わぁ値上げされた。すごい。


「え、ええ……それで構いません。お譲りします」

引きつった笑顔を浮かべながらも、私はしっかりとうなずいた。


受けて立つなんて言っておいて、この有様よ……


おじさんは手慣れた様子で別の小物入れを取り出すと、硬貨を出す。

そういえば、さっきのお店であまり大金貨は持ち歩くものじゃないって聞いたな…


「おじさん、もし可能なら小金貨より小さい硬貨でもらえないかしら。

この後市でお買い物をするから」


「そうかい。まあこんな市場で大銀貨なんか出したら釣りが困るか」


そう言っておじさんはジャラジャラと硬貨を袋に詰めて渡してくれた。

見ていたかんざしを丁寧に布に巻いて木箱に収めている。


並べられた品の中から細めのストールのような布を指さしておじさんに

購入することを告げる。大銅貨1枚だ。


布をターバンのようにするすると頭に巻いておろした髪を整えると

おじさんは「なんと・・・」っと言いながら目を丸くしている。


「おじさん、私アミィって言います。まだこの町には来たばかりだけど、

カフェと小物を売るお店を開こうと思うの。開店したら、ぜひ見に来てくださいね」


「ほぉ…それはそれは。わしはバルメステリオ。商業区にも店を持っとる。

わしの店でそろわんもんはない。いろんな食器も置いとるからの。

必要なものがあったら見においで。かんざしのお礼だ、サービスするよ」


さすが商人、しっかり自分の店も売り込んでくる。

バルメステリオさんの軽快で明るい笑顔に見送られ、

ザクロと共に先へと進む。


通りの先では、市場のざわめきがまだ絶えず続いている。

財布の重みは心の余裕へと変わり、自然と歩みは軽かった。


「…アミィよ。あれなる穀物はおむらいすの中に使われているものではないだろうか」


ザクロはお店に置いていた本に書いてあったオムライスがたいそう気になったらしい。

さっきからずっと周りの市を見て回ってると思ったら、この食いしん坊さんは何を探してたんだ。


ザクロが指さす方を見る。何やら麻袋のようなものに黄金色の粒が詰まっている。

「籾摺りされてないのによくわかったな・・・」


どこか眠そうにしているおじさんに声をかける。

「おじさん、これは何ですか??」

袋を指さすとおじさんは少し眉を寄せる。


「これはコメってんだ。おじょうちゃん異国のひとかい?」

「ええ、南の海の向こうから来たの。私の知ってる米は白いのだけれど、本当にお米?」

「あぁ、間違ってないよ。これはまだ殻を外してない分なんだ。殻を外したものを食べる分だけ東門の方にある共用の洗い場にもっていくと白くしてくれるよ」


ちゃんと精米技術もあるらしい。これはオムライス作れちゃうかも?

むむっと腕を組んで悩んでいると、おじさんは後ろの小さな袋を取り出して見せてくれた。


「ふつうは殻を外した状態で保存するんからあんまりないが…少しなら白いコメもあるよ」


精米されてる米!すぐに炊けるお米!!

日本人だもの。お米はうれしい。

「あぁ…これでお魚があったら最高なのに」

ぼそっとつぶやくと「魚ならもう少し言ったところに干物のうってる店があるよ」

とおじさんが教えてくれた。


市場…最高・・・


「アミィ、オムライスを所望する…」

日本と変わらない食生活ができそうで感動していると、

食いしん坊にゃんこにツンと肩をつついて催促された。


「はいはい。おじさんそちらの白いコメを一袋ください」

中銅貨3枚を渡して袋を受け取る。一升分ぐらいかな…


お米が重いので一旦お店に戻ることにした。

戻る途中でザクロが卵やケチャップ、玉ねぎなどを

「あちらだ、アミィ」と次々と指さして購入を促す。


やっぱりオムライスの材料探してたのか…


少しあきれはしたが、荷物は持ってくれたので許すことにした。

情報収集のはずが、すっかり食材探しに夢中になる二人。


次は神殿方面に向かったエーレの情報収集です。

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