第七話 それぞれの思惑
メルがその日から特訓をし始めたのは言うまでもなかった。ただ、そのトレーニングに毎回付き合わされる私からすれば、たまったものではなかった。なんせ空き時間があれば私のもとに来て特訓をしてくれ。と頭を下げられるのだ。叡智の書。もとい教材を読み漁っていたいというのに。
だが、おかげでメルの身体能力や動体視力。そして対応力などのフィジカルは、最初に私と戦った時よりもはるかに伸びていた。
そうして迎えた試験前夜。私は一人、園庭でのんびりくつろいでいた。どうしてきたか。それは単純に、夜風に吹かれながら考え事をするほうが、よっぽどいい案を思いつきそうだ。と、ふとそう思ったからである。
「普通に考えて何も気に掛けることはないけれど、しいて言うなら問題はセガ。だな」
試験二週間前のあの日。私はセガと戦う約束をした。性格上、彼は一対一といったら必ずそれを実行する騎士道精神あふれた男なのだが、問題はそのあとである。私のこの力には時間制限がある。身体能力に関しては力を使ってはいないからよいけれど、力を使いすぎてしまった場合、体に大きな負担がかかり本来の身体能力すら発揮できなくなって志しまう。
もしセガが、今の私よりも身体能力が優れていた場合、力を使わざるを得ない状況になる。
そして最悪の場合、力を使ってもなお負かすことができなかった場合。たとえギリギリのところで倒せたとしても、リーダーが負けるわけにはいかないと応援に来たAクラスの生徒に負けてしまう可能性が出てくるのだ。
つまり私は試験中、セガとの戦闘以外は極力力を使わずにセーブし、一瞬にしてセガを圧倒することが、私にとっての生命線である。
はらはきまった。あとは、それを後日から実行するだけである。
「おい、こんなところで何してる」
私が園庭を去ろうとした時だった。一人の男が、私を呼び止めた。
だが、後ろを振り向かずとも、私はその男が誰なのかを知っていた。だからこそ、男に背を向けたまま男の名前を呼んだ。
「アワン先生。どうしたんですか」
「それはこっちのセリフだ」
アワンは困った表情をして、大きなため息をついた。
「なんで帰ってないんだ。寮に戻るか、自宅に帰りなさい。それともなんだ。リーダーだからって、明日の試験が怖いのか?」
「少し違いますけど。先生。セガの強さって、どれぐらいなんですか」
「そうだな。私も多くを語ってしまうと、Aクラスの担任アルベルト先生から怒られてしまうからな」
うねりながらアワンは考え、熟考した末に一言。
「だれも彼に攻撃を当てることはできない。っていうところかな」
「...」
誰も攻撃することができない?その一言だけでは、あまりにもヒントが足りなさ過ぎた。
「おい、なに笑ってるんだ。不気味だな。ほら、要件がおわったならさっさと帰れ」
どうやら口角が上がっていたらしい。アワンは私を軽蔑するような目で見ながらそう忠告した。
だって。だってだってだって。面白いじゃないか。
わくわくが胸の中でいっぱいになって、今にでも試したくなってしまう。それが私に通用するのか。私をどこまで追い込んでくれるのか。
そんな思いを胸にしまって、私は学園から立ち去った。
時は夜。あいつと戦えるのが楽しみだ。とウキウキしていた時だった。玄関の扉から物音がした。
思わず扉を開け、尋ね人の顔を見る。そこにいたのは、Aクラスの女子生徒。そして、俺をリーダーにした張本人であるシレラが立っていた。
「やあセガ。調子はどうだい?」
「わざわざそのためにここに来たわけじゃないだろう。建前なんていいんだ。要件を言ってもらおう。それに...」
いつもなら優しく受け答えするのだが、今回ばかりは機嫌が悪かった。なぜなら...。
「生徒が全員寝ている時間に来るってことは、よっぽどなことなんだろう。時間は、多めにとっておいたほうがいいからな」
「そうだね。きっとこの話は時間がかかる。それじゃあ、お邪魔させてもらうよ」
微笑を浮かべて、シレラは俺の部屋に入っていった。
しかし、シレラが俺に話したことがあるなんて、一体何の用だろうか。俺には、特別試験についての話。それぐらいしか分からなかった。
俺にとって良い提案であるといいんだが。そう心の中で長いながら、互いに席に着いた。
「セガ君。君は、ディアディという子と戦う約束をしたかい?」
一瞬、なぜそのことがばれたのかと驚いたが、別に後ろめたいことなんて何もなかったので、打ち明けることにした。
「そうだ。俺はあいつと会い次第、戦うことにした。それに何か問題でもあるのか?」
そう俺が言うと、シレラは不敵に笑ってこういった。
「彼女はどうやらDクラスのリーダーらしくてさ。そこで、私たちAクラスはDクラスをつぶすべく初日に仕掛けることにしたんだ。だから、君とディアディ君は戦えないかもしれない」
彼女のその意見はまっとうだった。彼女がDクラスのリーダーである以上、最弱の烙印を押されている彼女は、つぶしやすく脆い格好の餌であった。その判断に、普段の俺なら賛同していた。
だが、今回は違う。多少自分勝手ではあるが、俺はあいつと戦ってみたいのだ。次がある。俺は、とてもそうには思えなかったから。だからこそ、絶好のチャンスを奪われた俺の奥底からは、苛立ちなどの負の感情が沸き上がってきていた。
「勝手に決めんなよ。俺はなにがなんでもあいつと戦う。たとえ、お前たちと敵対しようともな」
「...。それは困るなぁ。そうだなぁ。じゃあ...」
困った顔をしながら、シレラが導き出した答え。その返答は、俺が裏切るかついていくか。大きな選択肢でもあった。
「必ずディダディと戦わせてあげる。その間に、私たちはほかのDクラスの生徒を倒す。その代わり、実行する日は初日ではなく四日目になるけどね。どう?」
「わかった。配慮してくれて助かる」
「うん。君との仲を守れてよかったよ。それじゃあ、私はもう寝るね」
そういうと、足早にシレラは俺の部屋から去っていった。
しかし、なぜ実行日を初日から四日目に変えたのだろうか。そこだけが、妙に引っかかった。
そうして俺は謎を抱えたまま、深い眠りについた。
反応が良ければ続編を作って投稿してみようと思っております。面白ければブックマーク等をしていただけると幸いです
次回はもっと面白い話にしようと心がけながら、今後も続編を書いていきたいなと思っております。応援よろしくお願いします!!