第五話 才能も努力も意味はない
開始直後、男と男子生徒がぶつかり合う。どうやら、はなから私に興味はなかったようだ。私を無視して、彼らは距離をとると能力を発動し始めた。
男が突如剣を出現させる。
「ほら、かかってこいや」
それに対抗したのか、男子生徒は静かに構えた。
「いつでも来なよ」
両者の間にしばらくの沈黙が流れる。そして男が靴音を鳴らしたその瞬間、事態は一気に動き出した。
男子生徒が男に手をかざす。すると、男は自らの意思に関係なく男子生徒のほうへ向かっていく。そして男子生徒のこぶしが届く範囲まで男が引き寄せられると、男子生徒は思い切り男を殴った。
男は思い切り吹き飛ばされ、背中から倒れた。
相手を引き寄せる。か、へぇ。
見ているうちに、男と男子生徒との駆け引きが面白く感じてきた。思わず戦うことを忘れ、見入ってしまう。
「てめぇっ!!」
剣を立てて男が起き上がる。筋肉質の体には少しの傷ができていた。
そんな男に、男子生徒は余裕と言わんばかりに笑って見せた。
「ずっと言っていただろう?わざとこのDクラスに来たんだって。いや、君が弱いだけか」
「っ!!」
男子生徒の挑発に乗った男は、怒りに身を任せ、刃を向けて男子生徒へ突進していく。
私が、馬鹿め。血迷ったのか。と思うのもつかの間、男子生徒は今一度手をかざす。だが、男も対策をしていたのか、次の瞬間構えはじめた。その構えは、引き寄せられた時にカウンターをするための構えであった。
血迷ったのはあっちのほうだったのか。否。結局バカは馬鹿なのだ。
次の瞬間、男ではなく、何かが男子生徒に引き寄せられる。男子生徒がそれをとるなり、あっけにとられた男は、接近してくる男子生徒に対応できずに、そのまま斬られた。
そう。男子生徒が引き寄せたものは、男が能力で生成した剣だったのだ。
「さてと」
男子生徒は男を気絶したと判断し、私のほうへ視線を向ける。
「こいつとの対決を邪魔せずに。そこに突っ立っていたことに感謝するよ。それとも、怖くて動けなかったのかな?」
男は私を挑発するが、私には効くはずがなく、無表情のまま彼を見つめていた。
「まあいいさ。さあ、さっさと終わらせよう。僕は女の子をいたぶる趣味はないのでね」
「そう」
「それじゃあ...」
瞬間、男が私に手をかざす。
「終わりにしようか!!」
しかし、男の能力は発動しなかった。
あたりが騒ぎ出す。それは、男も同じだった。男は目を見開き、一歩後ずさった。
「な、なんでだ!?無効化系の能力なんて聞いたことがない!!」
「別に、私は能力なんて使ってないぞ?」
私が起こした超常現象に、あたりは唖然とするほかなかった。無効化能力というのは、もちろんこの世界には存在しない。それは周知の事実である。ならばなぜか?その理由を知るものは、私以外にはいなかった。
しかし、驚くのはまだ早い。私は大きく手を薙ぐ。すると、手元にはいつの間にか剣が生成されていた。それも、先ほどの男が生成した剣とまったく同じものだった。
「一体、お前の能力は何なんだ!?生成もできるし無効化もできる。なんなんだ!?」
「さあ、なんなんだろうね?とはいえたとえ、私が知っていたとしても、あなたに教える義務なんて、どこにもないでしょ?」
そこまで言って、私は一歩踏み出したかと思えば、一瞬にして男子生徒の懐にまで移動していた。男子生徒は手をこちらに向ける。すると、手から衝撃波のような何かが放たれる。
土埃が舞い、あたりが見えなくなる。
「引っかかっただろう?僕は引き寄せるだけでなく引き離すこともできるんだ」
男子生徒は高く笑った。勝ちを確信して、彼は喜びに満ちた顔で笑った。
だが、そんな顔ができるのは一瞬だけであった。土埃から一つの影が薄く表れる。次第に色は濃くなっていき、影の正体が彼の前に現れた。
「ペラペラ能力について話して。能力を放すことは自殺行為だと、教わらなかったのか?大バカ者が」
人は極限状態に追い込まれると、自然と笑ってしまうのだという。私の目の前では、それと同じようなことが起きていた。男子生徒は膝から崩れ落ちて、笑っていた。
「バケモンかよ...」
そんな男に私は近寄り、そして言った。
「私の勝ちでいいよな?」
「ああいいよ...。僕は君に勝てない...。どうあがいても」
男子生徒の敗北宣言により、私はDクラスのリーダーを務めることになった。
これでいいのだ。これで、試験の時に強い奴と戦うことができるはずだ。そう思うと、先ほどまで戦っていたというのに、戦いたいという欲があふれ出てきた。
ああ。早く試験日にならないかな。と、その場を去る際に私はそんなことを思っていた。
反応が良ければ続編を作って投稿してみようと思っております。面白ければブックマーク等をしていただけると幸いです
次回はもっと面白い話にしようと励みます。応援よろしくお願いします!!