第三話 能力だけがすべてなのだろうか?
「大丈夫かい?メル」
男の脇をすり抜けるように駆け寄り、彼女は私の容態を確認し始めた。
脇をすり抜けられたことに驚いたのか、男子生徒は唖然としていた。だが、我に返ったのか声を荒げて彼女に向かっていった。
「Dクラスが一人増えようと関係ねぇよ。というか、こっちに来なかったほうがよかったんじゃねぇの?俺らの目的はそっちの女だけだからさ、今なら見逃してやるぜ?」
「確かに、私は場違いかもしれない。だけど、初めてできた友達なんでね、ここで殺されるわけにはいかないんだ」
「へぇ」
男の眉がピクリと動く。よほど頭に来ている!この言い争いを辞めさせないと...!
混乱している中、私は彼女を止めようとした。戦闘態勢には入っていないが、戦う気だということはわかったからである。
しかし、彼女は腕を水平において逆に私を止めた。
「ここは穏便に行こう。ここで負傷したり死亡者が出るのは誰も特はしない。ここは彼女の謝罪だけで十分じゃない?」
「いいや、俺は頭に来てんだ。お前も、そこの女も。だから両方殺すことにした。Dクラスのくせに生意気だからな」
「そう」
男らが能力を発動し、彼女に水と雷のコンボ技を放つ。
危ない...!
その攻撃は彼女の胸部を...。
その攻撃は私の胸部を狙ったが、少し背をそらして回避した。
「何!?」
目を見開く男たち。
おっとそうだった。こいつらにとってはあの攻撃は早い分類に入るのか。と、私は思い出した。
やれやれ、改めてまだ壁があることを思い知らされるな。
「てめぇ、一体どんな能力を使いやがったんだ?」
「身体強化さ。特別なものでも何でもないでしょ?」
まあ、うそだが。
それにしても、今の戦闘音で誰かしらの教員にはばれただろう。面倒ごとは今のところやりたくないため、私は撤退することを第一優先に切り替えた。
「悪いね。今は争うわけにはいかないんだ。このまま撤退させてもらうよ」
「はっ」
男はイラつきながら私たちを鼻で笑い、冷気をこぶしにまとわせた。
「誰が逃がすかよっ!!」
男がそのこぶしを振りかざすと、冷気がこちらに押し寄せてきた。
この冷気はきっと触れたら、触れた箇所は二度と使えなくなってしまう。
のんきに考えながら、私は高速スピードで彼らの背後に回って気絶させ、メルを抱き上げてその場を去った。
「ふぅ」
ここまでくればいくら教員であろうと私たちを怪しむことはないだろう。徒歩だからな。そう思った私は一安心し、メルをおろした。
先ほどまで彼女の顔は青かったが、今は雪のような白い肌に戻っていた。
「ありがとう。それにしても、ディアディってすごく強いんだね」
「あー」
私は彼女から目線をそらしつつ、苦笑いを浮かべていった。
「それなりに特訓したから、かな?」
「ならさ、いつか私に戦い方を教えてよ」
「戦い方?」
私は首を傾げた。この世界はバランスよく作られているはずなのだが。いや。
そこまで考えたところで、私は考えるのをやめた。こんなことを考えるのはあとにしよう。
「そう。百年前からかな?能力に差ができるようになったの。そして今も差はあって。だから私、もっと強くなりたい。なめられたくない!!」
彼女の発言よりも、私は彼女の目のほうに注意を向けていた。
彼女の目は、先ほどの発言よりも直接訴えかけているようにも見えた。
「わかった。それなら一か月後に鍛えてあげるよ」
「どうして一か月も?もっと早く教えてくれても...」
「まずは一か月間。考えて考えて、自分の答えを見つけるんだ。そして自分の答えを持ったまま、私と戦えばわかる」
とりあえず、大丈夫そうだ。
それなら私はここにいる必要はない。そう思った私は、彼女に背を向けた。
「それじゃあ、また明日ね」
それだけ言って、私はその場から去った。
彼女は唖然としてこちらを見ていたが、気にすることはなかった。
あの女にやられた俺は、プライドをズタボロにされたせいか、ものにあたりながら学園についていた。
「ちっ」
昨日のことを思い出してしまう。
圧倒的なスピードで俺たちをほんろうし、一瞬で俺たちを気絶させてきた。にしてもあの実力。とてもDクラスの生徒とは思えなかった。
そんな時だった。前方から一つの足音が聞こえてきた。足を止める。するとそいつも同様に足を止め、俺のほうを見つめてきた。
「なんだか元気なさそうじゃん。どうかしたんか?俺でよかったら話聞くぜ?」
背が俺より高かったせいか、その言葉が高圧的に言ったものだと錯覚してしまう。この男は...。
「急に呼びかけて悪かったな。俺はセガっていうんだ。あんたは?」
「...。ダイア。Bクラスだ」
「よろしくなダイア」
Aと書かれたバッジがきらりと光る。
俺は思わずうおっ。と声を漏らしてしまっていた。
「ああこれか。こんなのただのお飾りよ。気にすんな。それよりも。だ」
彼の黄色の瞳が俺のほうを見つめる。
「なんでそんな元気がねぇんだ?」
「...」
「なるほどな。失礼なことを聞いて悪かった」
セガはしばらく俺を見つめた後、背を向けた。次第に大きかった背中は小さくなっていき、気が付けば彼の姿はもうなかった。
俺の心を読んだのか?それだけの能力ならAには行けない。
「いやな予感がする」
静かに、俺は呟いた。
「ディアディねぇ」
誰もいない廊下で、俺はわくわくしていた。
Bクラスが束になってようやく一人のAクラスに勝てる。それぐらいAとBには決定的な差がある。そんな中、DクラスがBクラス生徒2名を圧倒。俺からすれば、その女はおいしすぎるターゲットだった。
「いつか戦ってみるとしようか」
そしてまた俺は歩き始めた。
反応が良ければ続編を作って投稿してみようと思っております。面白ければブックマーク等をしていただけると幸いです
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