はるかなで
時と共にテストが過ぎ、噂は羽を失い落ちた。これで真実を気にする人はいない。調査もなかったし、これからも以前の件からの始まりはないだろう。今後再び噂になる事が起きたらまあそれはそれ。
わけもなくはない疑心に当たらないように多少は気後れでいた私たちも今はこの間の距離感に戻った。校内でも近い外でもまた晴れて手を繋いで通える。ためらってただけで、繋がなかったのでもないけど。
どっちみち気はつけるべきだったので頻度は減ってた。その間にいらだたしたりもしなかったのに、むしろ戻ってからは嬉しさが身に染みる。普通ない時足りない時に大切さを感じると言うのに、不思議なもんだ。こんな所でさえ私は普通じゃないと叫んでるのかな。
自覚もあるし全然認めるけど聞きたくはない。思春期にふさわしい複雑な段階である。思春期って、避けに余計に良い言葉な気がする。絶対夏な形式的春も今日で終わりだけれど。
だからつまり、真の夏はまだ始まってもないと言うことだ。
今日の午前中教室でエアコンがつけてなかった時は体育の授業で皆んなが出ていた1時間だけ。そしてその1時間は、大焦熱地獄のアーリーアクセスであった。思い出すだけで脳みそが溶けるみたい。
エアコンも扇風機もなく夏を過ごした祖先たちは、たぶん切々さがあまりだったと思う。先史時代の人でもこれくらいの暑さを覚えたら機械工学、電気工学を自ら迎える。
切々さの乏しい私がそんなことを学ぶ気や興味がないことが論旨証明の一つの根になれるのか。昔々つけといた歴史の風に当たりながら情けないことだけ考えている。春端っこに魂を捨てて来ちゃったかも。
数日前まで降ってた雨だってもう気が尽きたし、沸いた脳みそなら蒸発してもおかしくない。
しーちゃんの弁当だけ持って先に部室に着いたけど、そのしーちゃんはいつ来てくれるの。今なにをしているの。なに一つ聴かなかった私を責める。Laneのアイコンをタッチして、ため息を漏らしながら上へ2度スワイプする。本当もう、なにをやっているの私って。碧氏に設定したしーちゃんとのツーショットだけを親指で撫でる。左右に揺れるアイコンたちが障って、見やすくするため基本アプリ一つだけ置いた最後のホーム画面に右スワイプする。うつろな画面ほどのむなしさを虚偽として満たす。
誰かに見られたら同情されるだろう。しかし、それでも。
閉じた窓からでも遠くの明るさが分かる。私ってどんなに暗く見える?
今になって届いたLaneの通知音に、私は、両目をぎゅっと閉じる。
すぐに来れるなら連絡だってしない。もう内容を察しながらも、余地をなくしたくなくて、閉じた目を開けない。
しない足音が妄想を記そうとするのに、エアコンの音が現実を知らす。
髪は空を殴る。私は八つ当たりのいじり対象になる。
春奏で
遥か撫で