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とりはなし

 テストの後の学校は閑散である。大体の部活は来週から活動再開だし、テストの終えた生徒なら一秒でも早く帰りたいわけだ。本当に一秒早く帰ったってなにも変わらないのに。

 若者の大騒ぎというか、赤信号の時に少しでも前へ行こうとする運転手も多いので、人間の心理像と言っても過言ではなさそう。

 業務を終えた先生も帰って教員室も今まで見たことないぐらい空いてる。プラスチックの箱と数枚の用紙のお使いを済まして鍵付けの出席簿まで差し込んでから教員室を出る。


 「しーちゃんお待たせーほら」


 誰もいない廊下で手を繋いで私たちは別館2層に向かう。数字型パズル部は、再開する活動もなにもないからいつも通り、とも言えるのかな。めったなパラドックスだ。


 「しーちゃんはテストどうだった?」

 「そこそこかな。もぉかは?どうせ上手く解いたよね?」

 「どうせって。知ることだけ解けるよ私だって」

 「100点おめでとう」


 100点を自信する科目もあるけど、じゃない科目だってあるのに。そう駁するとしーちゃんから可愛いねたみの視線を受けるので、視線は欲しいけど口は閉める。

 口と逆に開いてるここには錠を下さなくたって誰も入らないし誰も責めない。先生もよく来ない場所ではあるけどいくらなんでも見回りぐらいするから分かっているはず。そもそも問題にする気がないらしい。それもそう、入ったといえ机と椅子、アナログの時計、パズルの紙しかないのになにが出来るというのだ。私たちは吸血をしてるけど。

 昔は第二美術室として使われたらしいけど、その跡は染みにだけ残ってる。道具とかないし、作品は、現代美術的にこの場所その自体が作品だと大げさに言ってみるか。

 まぁだから、当然誰もいないと思ったけど。先客がいる。


 「あ、部長ーと後ろに副部長もいる、やっほー。テストの日に部活?熱心だねー名を貸したやりがいがある!」

 「東瀬さん、なにしに来た?」


 東瀬さんはうち1年3組の委員長であり、数字型パズル部の部員でもある。つまりのこと幽霊さんだ。吸血鬼を自称した者として親近感は、全然感じない。


 「おや、歓迎されない感じ。もしかした邪魔だった?分かっててももうちょっと邪魔しちゃうけどー?」


 話し方や手振り身振りが演技を演じるにしか見えない。なるほど、これが演劇部。自分で立てた棘も忘れて純粋に感心しちゃう。


 「ま、担任に部室の様子チェックを任されただけだけどね」

 「…委員長も大変だね」

 「副部長よ、それは甘くないかい?様子チェックなんてざっと回って1、2分で終わるくない?うち5分はここにいたぞー?」


 東瀬さんが5分いたか5年いたかは知らないけど。別に嘘だとも思わない、というか、嘘でもなんでもどうでも良い。


 「それに様子チェックなんか、見ないで大丈夫だったと伝えても問題ないし」

 「委員長なのにそれで良いの!?」

 「委員長が真面目でなければならないとかあるのー?」


 ずいぶんと不真面目な返しと、また一度演劇的な手の動き。冗談にも聞こえるけど、真実として真実を隠そうとするようにも見える。だからさらにもっと、演技だと意識することになる。

 東瀬さんの本音は東瀬さんが見せてくれないとちっとも分からない。こっちはそんなに隠せないのに。情報の不均衡の理不尽さを抗議し、聞く者などいない。


 「東瀬さんは真面目だと思うよ、あたしは」


 しーちゃんがもらした声に東瀬さんは曖昧な微笑みで返す。応えてくれるつもりはないみたい。


 「では真面目ちゃんな委員長のモードで行きましょうか。わたくし東瀬は担任の頼みを口実として劇本の舞台の素材かそのアイデアに使えるかどうかを調べて居りました。

 それに入ってから部室にも来たことありませんから、一回ぐらい行った方が良いでしょうかーと。正直担任の頼みとかどうでも良いのですよねー」


 全く真面目じゃない真面目ちゃんである。真面目じゃないまた一人な私もそれには引く。ありもしない眼鏡を指先で押し上げる真似をする東瀬さんはどこまで演技にハマっているのか。


 「話し方だけそうしても」

 「いやいや、話し方は大事だよー?演劇部員として反論するから」


 そりゃ演技には話し方がとっても大事だろう。無言劇ってのもあるけど。逆に声優のお仕事みたいな、動きが見えない部類もあるから、話し方と動きはほぼ同じぐらいで演技を成す重要要素だと唱えるはずだ。

 いや、でも演技について話してんじゃない。話し方を論したんじゃなくて内容が全く違うことを指摘しようとしたけど。完全に東瀬さんのペースに巻き込まれちゃった。市橋さんみたいにゆるく見えるも全然緻密で、この上なく危険だ。正直ちょっと苦手なタイプ。きっと多くの人が苦手だと自信する。


 「で?舞台になりえると思う?」


 東瀬さんの意見に反意を表すように、平穏な話し方をして顔では不快さを鮮明に輝かす。どっちが真意かは演劇部員じゃなくても分からないことないと思う。下手で下手でお笑い種にもならない。


 「さぁ?話ぐらいはしてみよっかなーって」


 それを分かるはずの東瀬さんは、さらに余裕を見せながらアメリカ進出を目指すようなとぼけた手振りを披露する。被害妄想がそれを愚弄だと感知する。そうかも。感覚だけの根に妙な説得力を感じる。


 「なら早く行った方が良くない?」

 「そうかなー?その前に部長、写真撮って良い?1枚だけ」

 「…好きにして」

 「やった。んじゃーぁ、二人ともこっち見て笑うことー。笑わなくても良いけど笑った方が可愛いよ?ポーズは自由で!」


 スマホを出して今にも撮ろうとしてる。舞台の背景を探索したという言い訳はどこに飛んで行ったのか。一皮剥いた姿もすっぴんだとは思われない。


 「じゃ撮るよー。はーい、チーズケーキー」


 いつまでも怒らす東瀬さんにとうとう腹立ってしまう。

撮り話

取り離し

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