表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/25

かさみだれ

 今日も雨はしとしと。五月雨の五月って昔の陰暦での五月(さつき)なのに、今度の雨は代入や変換ミスかな。昨日の昼頃がら全く止まない。大した雨量ではないとしても気分を落ち込ませるぐらいにはたっぷりだ。

 傘はちゃんと持って行ったけど服が濡れなくもないし、その服を外で乾かせない。掃除の時邪魔ばっかしてた室内用の乾燥台がやっと仕事してくれてる。嬉しくない。

 料理の時も掃除の時も窓を開けたら雨粒が入って来るのに閉めてはやれないし、とにかく被害がハンパない。


 「しーちゃん、まだー?なにか問題?」

 「あっごめん、予報確認してたよ。今出る」


 雨中には手も繋げない。最速最中最悪の被害である。

 単色で飾りもないシンプルな黄色と空色の傘をそれぞれ手に持って家を出る。同じ傘を差すイベントは憧れるが濡れることに気が向くと意欲がなくなる。その前に当為性がないから提案すら出来ない。

 軒下で傘を広げる。きれいなしーちゃんの空色の傘と違って私の黄色い傘は片方の骨が折れていてそっちだけちゃんと広がれない。

 折れた部分を左の隅っこに見えるように傘を差して通学路に出る。なんとなく障るから後ろの方に回したいけど時々後ろ髪が掛かる。痛いのは嫌なので事前回避力に極振り、ってやつだ。


 「雨止まないの?」

 「夕頃には止むけど、明日また降るらしいよ」

 「はぁ、憂鬱」


 水たまりを踏まないように気をつけながらそっとしーちゃんを振り向く。傘に遮られて顔がちゃんと見えない。憂鬱である。


 「予報は予報だから、外れるかもだよ?」


 それほど本気でなくても私を慰めてくれようとするしーちゃんの優しさを知らない空なんて本当バカだ。しばし空に恨みをぶち当ててみる。

 傘を持った腕が痛くて反対の腕に運ぶ。日傘持ちのキャラたちは腕の耐久がすごいと思う。私には出来ない。本当、吸血鬼じゃなくて良かった。もし吸血鬼だったら筋持久力に補正が掛かったかな。ファンタジーがひどい。


 「しーちゃん、前気をつけてね」


 自転車が並んでて道が狭くなる。傘を持った二人が並んで通れるか曖昧で、リスクを取る必要はない。間違って雨で濡れた輪に脚を掻かれたらタイツが目立つほどに汚れる。強度においては破れるかもしれない。大惨事だよ。

 並んで歩いてた隊列を乱して、あたふた飛び出て先頭に立つ。あまり興味のない自転車を余計に見下ろしながら進む。広くなると空間の余裕を取って足の動きで自然に後ろへ向く。安全距離を確保して付いて来ると思ったしーちゃんの傘と私の傘が接触事故を起こす。

 少し上を向いてた私の傘がしーちゃんの傘を上げてしーちゃんの前面が雨にちょこっと当たる。速く戻したけどよく見ると濡れた所が見える。

 向き合ったしーちゃんとお互い気まずい微笑みを交わす。謝っても良いけど、そしたらしーちゃんは逆に謝って来るだろうだし、意味のない責任の論いが始まってしまう。


 「行こ」


 だから、軽いぐらいで良いと思う。

 雨の中で手は繋げないけど、心の中では思いっきり掴んで弄りながら、またもや並んで歩く。うずうずするけどどうにか我慢するに、右手に爪跡が残りそう。血だけ出ないことを祈る。耐えて私、堪えて右手。

仮-五月雨

傘乱れ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ