かすかあと
笹本 茉莉
「日南!この子は拉致させてもらうから、きちんとやるんだよー!」
あまりにもテンサイすぎて文字や単語の組合がミキサーにやられ粉々にいかれた。
片付ける物と言っても私専用のマットとバレーボール一つだけで、4組の体育委員と二人で整理するのってきっと人力の無駄遣いではあるけれど。
悪習にはてなく近い見かけの慣例に我らのテンサイ菊川さんは斜面で反抗して下去った。
里山さんだっけ、名前。4組の体育委員と菊川さんが話すの、今まで見たことない。もちろん合同体育自体が珍しいし、私って他のクラスにほとんど行かないから知らないだけかもだけど。
中学でも里山?さんのことを見た覚えはない。小学校やそれ以前は、知らない人を見たとして覚えているわけがないから論外で。
その日の流れで他人と楽しく話せる菊川さんはマジものの天才だ。
「…もぉか」
ただし今は私にとって天災なだけ。
マットを隅っこに片付けて、倉庫の中のボールを保管するカートを開けバレーボールを入れてロックしてから、ドッジボールのアンコールは私がボールになることで華麗に台無しにすることになった。
体育倉庫は暗いけど小さい窓から光は入って来るので見えないことはない。雨のせいでいつもよりはちょっと暗いぐらいだ。
しーちゃんの顔は暗さでなく髪に隠され上手く見えない。
どうもないいつもだったら平然のフリして髪の毛を退けしーちゃんを賞美したはずが。菊川さんのほどテンサイしてない私はやりきれない。
雨にも汗にも濡れてない髪がなぜあんなにもじめじめして見えるの。きっと暗闇に目を奪われたせいだ。吸血鬼を詐称するくせに、嗤わせとる。
「しー…ちゃん。どう、した?」
地震みたいに震える。日照りみたいに渇いた喉から響きにもひびが入る。大雨みたいに濡れて寒波みたいに寒い、すぐ雪崩みたいに崩れ落ちそう。
我々はこちらを嵐と呼ぶ。
小さい窓に激しい滴が、ここを金魚鉢にしたくてしょうがなくて穿ちたがる。明らかに朝より強くなってて、滅亡の日に下校の頃も悠々と心配できる。
確かに、嵐は前を見れなくする。しーちゃんから出る、絶対出てるたった一言も露に遮られる。
わけもなく口に集中しちゃったせいで彼女を渇望する凪いだブルーホールに惑ってしまう。
ダイブするならベッドがいい。
「もぉかは…只今、血を欲しがってる。絶対」
バカのやり方もわからない、底よりずっとそこのバカとして、自分の思いっていうのはもうとっくに研がれちゃってなに一つ理解に着くことない状態だったことを、理解する、って、たぶん誤認する。
「…しーちゃん…?」
「もぉか、堪えなくていい。あたしは大丈夫から」
「私は…」
純粋を前にした悪は開花し純粋な悪に目覚める。悪にも憎まれる私は萎びる。干からびて、醜さを天下に晒す。
花びらだって紅葉だって空をスケッチしてるから綺麗んだ。
雨ん地面にきしょいくっついた私を誰が花びらと呼べると。誰が、モノを紅葉と呼べると。
「もぉか。もう、なにも言わないで。なにも」
首にまで水に浸ったみたいに息しづらい。
ぴたりと腹這った私に合わせて水深など10㎝で十分なるそうだ。
侘しく渦巻く。惨めに10㎝の前も見れない。ずっと好きな相手があそこにいるのに。一日中2回、どんどん増えて3回、4回まで、ずっとずっと近くからも観てきた造形物を、私は。
「…よろしくたのむから、ほら」
私は水の中では話せない人なので、『でも』付けてデモに付けない。
未だに欲望を消せない私はゴミより人のようだ。3分間待ってやってほしいが休み時間が限界に突き当たる。私には考える時間も与えられない。
考えなくていいならいっそ楽かもしれない。これからもずっと、であればだけれど。
その前に、彼女の言葉を一つだけばらばらにするから。
「…うん。いただきます」
だって様式は守りたいもの。
見るの端麗さを引き払って恋しがってた感触を無慈悲に噛みちぎる。赤い洪水を喉に注ぎ込む。枯れてた生が死ぬほど生き返る。深く考えられない今は迷いに恨む。こんなに美味しいのに。
手の甲は熱くバレーボールのカートは冷たい。熱々の日、エアコンの空気が積もった寒い倉庫でぬるい私たちはしかし生ぬるくない。彼女が暖かいから私は涼しいにわかる。
痛みを我慢する彼女の涙が外並みに降ったら。
そして一生の傷を一生の絆に刻んであげたい。
私とゆう烙印を、生に。
3分どころか1分も経たないうちにチャイムが鳴る。私たちの3時間目は…これって保健に入るんかな。家庭か、もしかしたら社会かも。
授業はどうでもいいが鍵束を返却しなかったことで探しに来るかもしれない。
その時は、どう言い訳すればいいかわからないけれど、それが今ではないし全力に全力を掛ける。
もうちょっと踏み出した足に放った鍵束が引っかかる。乱暴に横へと蹴飛ばしてやる。金属のぶつける音が、まったく気に触れない。
口や手ぐらいで止まず体どこそこ接し始まる。彼女のスカートってなんでこんなに薄い感じなの。厚さには差がないはずなのに。
同じ人であってもこんなに異なる私と彼女みたいに?
サイハイの感触はむろん肌との区分け線まではっきり感じられる。
吸血鬼にならなかったって吸血しながら宣言する。どうにかなったのは、初めからだった。今更である。
揺らぎを誉れとみなす。すれ違うぶどうジュースは味がないからすれ違いだけする。血の後味を舌の下に隠したなら初めの味を永遠と漂わせる。永久機関として公表されたらあらゆる雑賞が受けられる。
ただし私はなにをくれると言っても彼女を選ぶから、起きない理論上の理論なだけ。
ステュクス川か三途の川か知らない所で水力発電のダムを建てて心臓を回す。書き直した吸血鬼の生命活動の原理を実証するように止まらず魂を吸い込む。
心を潰す。体を割る。もう唇の断層の数も数えられそう。
明確にくらくらする喜びを夢は許さないから奈落で間違いない。崖に腰掛け世界が90°だけ回るに俟つ。
それで、後へと倒れると空を侮るよ。前へと傾くと喜んで恍惚に落ちるよ。
世界の半分を持つ者すべからく余の半分に貪るべし。彼女は空を侮り私は恍惚に落ちる。
吸血鬼なんかが私より吸血が好むわけがない。私より吸血に上手いわけがない。
血で呼吸する。三日ぶりの生きを歓迎し死は想わない。未来を捨てた私に過去を振り向く余裕などない。ただ今を楽しむ。
短い考えともっと低い背でも彼女に触れられて良かった。誰かの言う通り100㎝だったら、様子だけでさえ彼女を支配するフリはできなかっただろう。
曰く賞美用のタペストリーに糸の触感などどうでもいい。
雨の音がしない。心臓の音もしない。まもなく目も鼻も、それから全身まで鹵獲されてしまうんだろう、口だけは残してほしいな。
一つに見えるのは一つだって認識する。たとえば金鎖がいくつかを結んだものであってもそれを一つだと言うみたいに。脳細胞を乱獲する。
バカのやり方がわからないバカ未満のバカにすら自分のやり方があるらしい。
理解できてないまま欲しがるだけだ。
理解する必要があるかと。
微か後
微か痕
彼スカート
滓カート