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ばかかぶり

 人を避けないといけないバレーボールが人に向かって飛んでく。

 相変わらずの夏の水圧に舞台は石のように割れなくて逆に一つになる。その名も多目的、だから、本気でなにもかも足しそう。

 体育大会の練習で相手が必要な時、外が暑すぎるか寒すぎる時、グラウンドを何かの事情で使えない時。今日は合同体育の行われる十分条件その3に該当する。4組の子達には恵みの雨すぎる。私達はもともと室内なので。

 暑いのも暑いのだけど、体育の先生って実に体育系で、基本耐えられる精神みたい。先週だって、陰のかかったスタンドに座っていただけだった私すら汗かく暑さだったのに、さっぱりだった。

 もしかしてあのキャップは防暑の課金アイテムなのか。サングラスとか、もしくはホイッスルかもしれないな。

 さて室内ではエアコンの前にどーんと座ってらっしゃるから、あの人たぶん自分には体育系じゃない系なんだ。

 壁まで転んだバレーボールをしーちゃんがうずくまって取る。それからボールは誰にも当たらず底を一回通って3組の地まですり抜ける。やって来たボールを取ろうとした子が初回失敗して再び底に会う。

 クラス対抗ドッジボールがまだそんなに進行されてない。4組もうちの3組も15人ぐらいは生き残っている。私みたいな不参加者も何人かいるし、人が減るほど当てづらくなるから、半分も経ってないわけだ。

 しーちゃんはいつもより耐えず外野にいて菊川さんと東瀬さんは生存、市橋さんは人数チェックが終わるやトイレ行きますっ言い出して未だに帰って来ない。ずっと帰らないつもりなのかな。そうなのかな。雨も降ってるし外にはいないと思うけど、どこにいるんだろう。マットの上よりいい場所かな。あ、菊川さんが投げたボールが捕まれた。


 「捕られちゃたー」

 「捕られちゃって、なんでここに来んの」


 ボールを捕まると投げた人がアウト、回転率上昇のために導入したらしいが、そもそも捕ろうとする人があんまりいない。みんな避けに忙しい。


 「今更っしょ?」

 「わざと捕られたとか」

 「ないない、当てて跳ねるまで計算したらもうプロよそれは」


 でもこのような事が起こらなくもない。避けの動きでもなかったしゃがみから肩に当たって具合良く捕りやすい感じに跳ねたから、不運ではある。誰に不運なんだ。


 「分かるよ?言ってみただけ」


 少なくとも私に面倒い方向なのは間違いないから、いつものようにため息だけふうっとついてみせる。不満も霧散して今では断念の痕だけだ。


 「でさ、日南よ、なーにがあったー?しのっちとさぁ」


 驚いたせいで二酸化炭素を全部肺に詰め込んでしまう。咳く音が鳴らない。且つは東瀬さんが4組の子を当ててみせる。


 「だーって、朝から全然(ぜーっんぜん)会話してないじゃん?絶対なにかあった、そう」

 「なんにもなかったし」

 「嘘つけー」


 菊川さんはもう件だと結論を下したそう。肩を押す手があまりにもしつこすぎて、こんな人に恋愛相談しようと思った数年前の私をちょっとだけ恨む。

 しーちゃんだったら疑わずに受け入れてくれたはずなのに、少し比べて、凹む。自爆部門芸術点世界新記録である。


 「…一瞬、うっかりライン超えしちゃいそうになって」

 「喧嘩した?」

 「喧嘩はしてないけど…」

 「日南」

 「うん」

 「ライン超えしちゃいそうに、とか言ったけど、さ。今の状況だとそれってもうたっぷり超えたんじゃない?」


 早速反論しようとしてから口を噤む。

 本当に超えなかったと思うんだったら3日もちゃんとした話ができないわけがない。

 しーちゃんはもちろん、私だって実は分かってる。

 直前で止めたって言葉で我慢したことを掲げるが、直前まで行ったことをごまかしてるだけだ。んとそれでラインは、そうだ。

 菊川さんの視線から逃げたら今度はしーちゃんと目が合っちゃって、耐え切れず空へと逸らしてしまう。

 バレーボールが壁にまで転ぶ。


 「菊川さん、…私どうすれば」

 「分かんないけど、間違ったと思うなら謝るしかなくない?」

 「言いは簡単だろうね…」


 菊川さんの意見が100回正しいはずが、101回朽ちた私には遥か遠い。

 私はしーちゃんと違って自分の過ちに謝れないケチだから。


 「じゃあぁ、いっそ押し付ける?」

 「…バカなの?」

 「バカにはバカのやり方が合うかも?ね?」


 今日の雨で出来上がる海のほど広い笑顔にくらくらする。

 天才のやり方は真似できない。私は深海に沈潜して暗闇と交わればいい。


 「いかれたことばっか言うんだったらドッジボールしに帰れ」

 「分かった分かったー。あ、じゃあしのっちと話してみよっかなー?やきもちの刺激ぐらいは私にもできるしー」

 「しーちゃんに近づくんじゃない」


 菊川さんの意図に真っ直ぐ引っかかるそうで非常に不快なんだけど。それでも半径40,000㎞以内に存在しないことを願う。

 やきもちなんて、菊川さんがあえて刺激しようとしなくても自然と湧き上がる。


 「あー…そーなるんだ。まぁいっか。日南もドッジボールやりたくなったらいつでも来てよーい」


 雨は今も降ってるがアラシはまず通り過ぎたそう。

 もちろん、ドッジボールの現場に乱入するつもりは全然ない。どうして私が自分から当たりに行かないとならないんだ。

 しーちゃんが生き残っていたら身を投げでなんだかんだ守れたりなかったりもできたけど。ねぇ。

 顔にボールを当てられて涙を流したクラスメイトが先生の近くに運ばれて、当てちゃった4組の子はくっついて謝りに忙しくてルール通りに外野には行けなさそう。

 菊川さんは場所を決め、ただちに騒々しい中試合が再開される。

 菊川さんの復帰記念祝砲は空を振る。クラッカーは人に向けるといけないわけだ。

バカ被り(↕︎)

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