ぶんりごう
今泉 巴
藤生 りき
三輪 愛実
「日南さん、先輩たちに呼ばれてるよ?ほらあっち」
開いたドア前の3人、紙一つを一緒に持っている先輩二人の姿には見覚えがある。学期初めと同じ目的なんだろう。足取りが重くはないけどやる気もしない。しーちゃんに理解を求めて教室から出る。
「日南です。呼ばれたと聞きまして」
「あ、日南たーん!日南たんって本当頭良いねー。3科目満点って、なんでこの学校に来たのか分かんないぐらいだよ!…ほら、正直、ココって勉学に良い所ではないと思わない?」
同調を吹きまくる嵐に飛ばされないように雑草でも掴んで耐えよう。私も今泉先輩の陰口の内容には同意するけど、それで賑やかわいわいするのは違う気がする。
「日南さん、そんな頭良いんだ」
私の顔を見つめる三輪さんから感心の雰囲気は出ない。ネガティブ方向とも違って、ただ無関心的な感じだ。
「そーだよー?だから文理部に最初から誘ったのにさ、断れっちゃったんだよねえ!それほどの才能があるのに、三輪たんだってもったいないと思わない!?」
「え…さ、さー…」
「こーら巴、後輩を困らせない」
「えぇー?三輪たん、アタシ困るぅ?」
「それが困るポイントだからね?」
「まっ知ってるけどーん。三輪たん、三輪たんで遊んじゃってごめんね?」
「あっはい!いいえ大丈夫です!」
気道を見せるまでぎちぎちした声にちょっと耳が痛くてうっかり首を回してしかめる。揺れる教室の奥の像にはUHDなしーちゃんの影をちゃんと映せない。探すにもいかないし、先輩たちの方に気を戻す。こっちは720pかな。いや480p?片方は144p、にしたい。ローディングでも遅いと言い訳として良いわけだけど。
「だから困らせないって」
「謝っただけなのにーぃ」
「じゃあなんでウィンクしたか言ってみ?」
「ハニートラップ。いっはゃー」
「有罪」
いかにも失礼すぎる暴走妄想に過ちを感じないほど、帰りたがる気持ちに私は濡れている。今すぐ向こうの机にうつ伏せて眠りでも取りたい。
相手が菊川さんとか市橋さんぐらいだったらガチで帰ったけど、親しくもない先輩が相手だと流石に出来ない。
あんな作り出した明るい空気、吸血鬼ではないけど私の弱点である。体じゃなく魂が煤け消えそう。
「もーりっきたんも一緒にハニートラップしてもらっても足りない始末なのに!」
「うるさい、話が進まないんだよ。バカは帰れ」
「バカはアタシの気持ちも全然分かってくれないりっきたんだもーん!」
「あぁもー乱さないで帰れって!」
「ひひっ、そーなったから日南たん、三輪たん、アタシは先に行くねー部室でまた会おー?りっきたん後は任せた!アタシの分まで生きてくれい!」
三輪さんはどうなるか知らないけど私とは部室で会うことないと思うけど。もう答えは決めてる。なんなら入学前文理部のことを知らなかった頃から決められてた。
少しでも入るつもりがあったら少しでも真剣に聴いたかもしれない。真剣にあれ聴いても損だけど。
今泉先輩との擦れを電気信号に、神経系が死後の世界の入り口まで散歩にいった精神を呼び寄せる。さっきまでの漫才が覚えられない。浮かべようとすると頭が痛いのでトラウマ的なやつなんだ。そう思うことにしよう。
「…本当助けにならないんだから…ごめんね?二人共、うちの巴が」
「スゴい方ですね…」
「日南は4月にもあれ見たけど三輪は初めてだもんね。初めてもなにもないと思うけどねあんなの。二度目とかマジごめんだわ」
答えは出来ないのでまず無敵の曖昧笑顔にしとく。否定しないのは時々肯定を潜在したりもする。私とは関係ないけれどそれはもう興味深い変化だと思う。
初めてもなにもないことは、片方だけでもなくて。
ほんの少しだけ、藤生先輩を睨んで、瞼で隠す。
「あーもう時間もないし…文理統合研究部の詳細な紹介は部室に来てくれたらするね。簡単にだけ言うと、成績の良い仲で一緒に勉強して一緒に進もう、なんだから、気になったらぜひ来てみてね。日南は気にならなくても来てほしいけど。相変わらず入ってくれるつもりはないの?」
「はい。今はやりたいことがあるので」
教室を振り向かないで心の中でだけしーちゃんを描く。
日南画伯の作品の特徴としては唇の生々しさだけが類を見ないぐらい溢れ出すことを唱えられる。
「それは良いことね。でも残り時間にだけでも来て良いよ?」
「ごめんなさい」
しつこくまつわり付く草の筋をきっぱり燃焼させる。余地を残すと次が出来てしまう。しーちゃんと話したり寝たり出来る大切な10分をこれ以上崩したくない。
「あーでも、たった一度だけでも良いから、だめー?説得出来なかったことで一言言われ」
「日南さーん、委員長から渡すものあるらしいけど、まだぁ?」
先輩との間に憚りなく割り込んだ誰かに唖然とする。一番変な人がここにいた。委員長とも言う。三輪さんの表情も東瀬さんや今泉先輩みたいに変になってる。分かる。気が合うね。
「行っても良いよ。考え直してくれるともっと良くて…」
「失礼しました」
「…またねー」
教室に帰って来ると東瀬さんがドアを閉じてしまい、ウィンクしながら窓越しの廊下からは見えなさそうな構図でピースを披露する。ギャル委員長って初めて見る属性のような。
私には藤生先輩も東瀬さんも違わない。勿論それは今泉先輩も同じで、甚だしくは三輪さんだってそうだ。
わずかの時間を絞ってしーちゃんに捧げようとしたが、肩を捕まれてしまう。首を回すと爪にほっぺを迎えられる。小学生の遊びじゃん。
「日南さん、貰いたいことがあるんじゃなーい?」
「…離して」
「今送るねーん」
チャイムが鳴り東瀬さんはスマホを持った手を振ってバイバイを印す。へなへなと自分の席に帰って座るしかない。まだ先生が入って来ない内にポケットからスマホを出す。
先週の写真が届いた。
ため息をつくこと以外私が出来るものなら机にぴたりと付くことぐらいかな。
ドアの動く音と誰かの入って来ての足音。先生だと思い込んでさっき曲がった体を戻しながら教科書を出して前を向いたら、反対側で三輪さんが黒板の前を通り過ぎている。
なに一つ上手くいかない。
文理合
分離合