第三章【最奥へ】 決め台詞だって決まらないことはある。
スライムオーガが立ち上がるまえに、俺は庭へ飛び出た。
「痛っ」
ガラス片でちょっと足切っちゃった。
ゲームでも熱中しすぎてこういうミスをする。
視界は家の中より良好。それも当然と言えば当然である。ここには各局の照明スタッフがいるのだから。
漏れなくお茶の間に放送だろうなちくしょう!
「ん?」
スライムオーガの体の端々から塵まじりの黒い煙がでていた。緑野郎や狼野郎を倒した時のような。
ダメージが入ってると考えるべきか、ものすごい技を使う前段階だと考えるべきか。
「とにかく効きそうな攻撃、、」
リモコンで殴った時、効果があるようには感じれなかった。あのプルプルに衝撃が吸収されているんだろう。いわゆる打撃吸収。ゲーマーとしての勘が、こういう時は斬るのが正解と言っている。
散らばっているガラス片から、大きいものを選びとり、スライムオーガへ駆けた。
放送中ならお上品にいこう。
「こうかばつぐんですわよぉぉ!」
左肩をガラス片で切り付けると、すぱりと切れ目がついた。
「グオォ、、」
「効いてるみたいだな」
「グォォォ、、」
スライムオーガは、地面に伏せ、体を丸め始めた。
「グゥ、、」
そして、なせが悶えている。心なしか体が縮んでいるようにも見える。
「いや効きすぎじゃない?」
なにか変だ。少し切られただけでこの悶え様。あの黒い煙も気になる。
大技か?だとしたら一度距離を──
「タクちゃん!!」
「由芭!?」
突如、奥の茂みから由芭が──
「拓次くん!」
「萌芭さん!?」
なんで二人がここに、、!?
「、、っ!来ちゃ駄目だ!モンスターが!」
「知ってる!付与:断絶の青!」
由芭がそう叫んだ途端、由芭の周りに、宙に浮く細長い一本の青い布が現れた。
若干光を帯びたその布は、俺の右の拳からその先へと巻き付いてくる。
「なにこれ、、」
まるでボクシングのバンテージのようだ。恐らくこれは何かしらのバフ。
力がふつふつと湧いてくるのがわかる。打撃が吸収されるとしても、この力なら散り散りに吹き飛ばせるだろう。
布はとうとう肘まで巻きつき、少し余ったその先が夜風に靡く。
「これで決める!」
拳を握りしめ、精一杯に力を込めた。
それに呼応するように、布の光が強くなっていく。
ヘリがスポットライトのように、一際強くライトを当ててくる。
さぁ、お上品にいこうか!
「こうかはいまひとつのようです──」
「グォォォォ、、、、」
「──わね?」
スライムオーガは、一撃くらう前に塵になった。
〈チュートリアル(参)を完了しました。〉
「えぇ?」
決め台詞が決まらないことあるかよぉ、、。
「タクちゃん大丈夫?」
由芭が手を振りながら息混じりの小声で言った。
手を振り返そうとした時、後庭の反対側、門扉の方から数人の足音が聞こえた。こちらに向かっている。
「誰か来てるから逃げて」
俺もこそこそ声でそう伝えた。
なにごとか察したのか、手をこちらに軽く振って帰って行く。
なんで来たの?とか、なんでスキル使えてるの?とか聞きたかったんだけどね。まぁ仕方ない。
予想が正しければ、今はそれどころじゃないから。
「君、天田拓次くんで間違いないかな?」
門扉からやってきたのは、黒の革ジャン着たおじさんたちで──
「はい、、」
「ちょっと付いてきてもらえるかな?」
「モチロンデス」
たぶん俺を取り調べする刑事さんだ。
〈称号【予想的中─☆】を獲得しました。〉




