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招待

人が集まる場所をなるべく避けていたおかげか、レオブラウンはあの日以降、5人に出会う事はなかった。


本日は、祭りの最終日である5日目。

そして、ヴァルガルダにて王政府主催の式典が開かれる日。


この日を迎えるまでは大分長かった。




祭りが近づくにつれ、どんどん増えていく観光客。それに比例して、日に日に盛り上がっていく街。

気配に敏感なレオブラウンにとっては、地獄のような日々だった。


実際にこの1ヶ月の間、学校の授業中に2回倒れており、体調不良にて4回も早退した。

先生も同級生達も、レオブラウンの体質について軽く知っていた為に、問題にはならなかったが、大分心配をかけることになった。


そして、いざ祭りが始まると、


「レオの人混み嫌いが筋金入りな事は、私も百も承知です。ですが、これからもヴァルガルダで暮らしていくのであれば、今回も同様に祭りは避けて通れないもの。

なにも、街の人々や観光客と同じ様に一日中祭りを楽しみ、はしゃいでくださいと言っているわけではありません。美味しいものを食べる、興味のあるイベントに参加する。少しで良いので参加していきましょう

無理をせず、休憩を挟みながら、少しずつ楽しめば良いんですよ」


とか何とか言われて、シーラにすっかりと丸め込まれてしまった。

結局、レオブラウンはこの4日間毎日祭りに参加することとなってしまった。


シーラは本当に口がよく回る。

シーラがこれぞと決めた事を、レオブラウンとデオーテルがやめさせられた事など、これまでに一度たりともない。


(今日を無事に乗り越えれば、また平穏な日々が戻ってくる)


辛かった日々を思い出しながら、眼下に広がる街の様子を眺めるレオブラウン。



そう、彼はあの丘の上に再びやって来ている。

レオブラウンの事情を知っている為、流石のシーラも今日は誘わなかったのだ。

シーラとデオーテルの2人は家族と共に、式典に参加するため、朝から場所取りでもしているのであろう。



式典が行われる広場を見ているレオブラウンの顔はどことなく曇っている。

彼は式典と聞くと、どうしてもあの日のことを思い出してしまう。


今から10年ほど前、レオブラウンがまだ2歳やそこらだった頃に、彼の父親は突然家を出て行ってしまった。

生まれてすぐに母親を亡くしたレオブラウンにとっては、父親が唯一の家族であった。

それなのに、あっさりとレオブラウンを母親の親友に預けて、彼の元から去って行ってしまったのだ。



僕をここまで育ててくれたおじさんとおばさん。

おばさんはものすごく優しい人で、僕の事を大切にしてくれている事がよく分かる。おじさんは物静かな人だが、いつも優しく見守ってくれている。

いつも僕の事を本当の息子のように愛してくれる2人には、感謝してもし足りない。


そんな優しい2人があの日、激昂し、怒鳴っていた…………僕の父さんに対して。


あの日、レオブラウンは違う部屋で待機していたのだが、大きな音に驚いてつい部屋をのぞいてしまった。その時、おじさんはレオブラウンの父親を殴っていた。


今思えば、母さんがいない僕を置いていこうとする無責任な父さんを、おじさんとおばさんは責めていたのだろう。

2歳の時の記憶などほぼ無いのだが、あの夜の出来事だけはどうにも忘れられない。


そして、5年前の"冒険者の祭り"が行われるその年に、父さんが冒険者になったこと、そして、その年の式典にて結界の外の世界へと旅立つことが伝えられた。

その当時の僕は、やっぱりな、という感想しか浮かんでこなかった。


おじさんやおばさんは勿論、幼馴染であるデオーテルやシーラの両親は、レオブラウンを気遣いこの手の話を彼に対して一切しなかった。

しかし、ヴァルガルダに住む、レオブラウンのこと知らない人たちは違う。


そもそも、冒険者に選ばれるという事は、王政府に選ばれるという、とても名誉な事。

自身が住む街から冒険者が選ばれたとあって、当時はいつも以上に盛り上がっていた。

街中では、レオブラウンの父親の話がよく飛び交っていたものだ。


その状況で、頭のいいレオブラウンが気づかない訳がない。ただ、子ども心に周りの気遣いを無駄にしたくはなく、知らないふりをしていただけなのだ。


レオブラウンには、父親との思い出などほぼ残っていない。なので、外の世界に行くと聞いても悲しいと思うことも無かった。

むしろ、父親をそれ程魅了する外の世界には何があるのか、そちらの疑問の方が大きかった。


(僕と父さん、親子揃って薄情なのかもしれないな……)



そんな時、不意に森の中に人の気配を感じた。

式典がそろそろ始まるような、こんな時に一体誰だ?

知っていそうで、知らない気配。僕と同じで人混みを避けてここに来たのか、そう考えながらも気配の方へと顔を向ける。



(げっ、マジか)


丘に現れたのは、知ってる人。それもレオブラウンが避けていた人達の1人。


「おいおい、そんな顔をしなくてもいいだろ。悲しくなっちまう

よお、こんな所で奇遇だなぁ」


シモンと呼ばれる男性であった。

レオブラウンの気持ちを如実に表した顔を見ながら、意地悪そうに笑う。


(よく言うよ。僕を探していたくせに)


「それにしても、此処はいい眺めだな

……おっ、あっちは広場の方か。もうそろそろ式典も始まりそうだな」

『…………こんにちは、シモンさん。ホントウに奇遇ですね』


シモンさんは僕の隣に座る。

今、街中の人が式典に参加するために、広場へと集まっている。そのおかげで、この周辺には全くと言っていいほど人がおらず、安心して寝ようと思っていたのに……

これじゃあ、休むどころか余計に疲れそうだ。


『シモンさんは、式典に参加しなくて良いんですか? その為にこの街に来たんでしょう?』

「ん〜〜? まあ、その予定だったんだけど、こっちの方が面白そうだったからな

そう言うお前は、式典に参加しなくて良いのか? 5年に一度の大イベントだろ」


レオブラウンはゲンナリとした。

分かってて聞いてくるなんて、いい性格している。

無理だとは分かっているが、今からでも式典に向かって欲しい。


『それで、僕に何の用ですか?』

「なんだなんだ、もう雑談は終わりか?

つまらないなぁ…………けどまあ、こっちもあんまり時間がないし、本題に入らせてもらうか」


徐に上着の中を探しだしたかと思うと、1枚の封筒をレオブラウンへと、差し出した。


「お前への招待状だ。

場所は街の外れだから、あの時にいた誰かが迎えに行く。

服装も何も気にしなくていい。ただ来るだけでいい」


ため息を吐きたいところを、ぐっと我慢して封筒を受け取る。

シモンの方へと視線を向けると、シモンが頷いた為、レオブラウンは遠慮なく封筒を開けさせてもらった。


「そういえば、学校で2回も倒れたんだってな。大丈夫だったか?

招待する場所は、人も少ないからゆっくりと話そうぜ」

『学校で倒れたことも知っているんですね、それも回数まで。

随分と調べたんじゃないですか? もう僕に聞くことなんてないでしょう』


中には白いカードが1枚。

開いてみてみると、待ち合わせ時間と待ち合わせ場所だけが書かれていた。

差出人も招待場所も書かれていない。


怪しいと思うも、レオブラウンには拒否権はない。

彼らは身分こそ明かしていないが、一般人であるレオブラウンが拒否できるような者達でない事は理解している。


『招待の件、確認しました。わざわざ持って来ていただいて、ありがとうございます』


「やっぱり賢いな。ホントに12歳かよ」


シモンは笑って、レオブラウンの頭を一撫でしてから去って行った。





「おかえりなさいませ、お怪我はございませんか?」

「ん? おう、全然平気」


深い森を抜けたその先に、一台の馬車が停まっている。


「それで、例の少年は如何でしたか?」

「ふっ、期待以上だったよ」

「それは、ようございました。

シモン様、戻ってきたばかりで申し訳ないのですが、急いで馬車にお乗りください。時間がギリギリとなっております」


先ほどのことを思い出しているのか、丘の方を眺めるシモン。しかし、彼には時間がなかった。

もうすぐ始まってしまう式典に参加しなければならないのだ。


遅れると、またリンネに怒られる。

渋々と、馬車に乗り込むシモン。


「それじゃあ、全速力で会場の広場まで」

「かしこまりました」


従者は恭しく頭を下げて、馬車の扉を閉める。

こうして、一台の馬車は丘の麓から去っていった。



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