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探り合い

「さて、貴方達3人について教えていただけませんか?」


残っている3人と対面するように、座ることになってしまったレオブラウン。

目の前には、あの腹黒そうなお兄さんが座っている。これは逃げられないと悟り、覚悟を決める。


レオブラウンは彼らの目的がわからないため、調べればすぐに分かるような当たり障りのない事だけを話すことにした。


「ふむっ、まだ皆さん12歳なのですね

それにしては、随分と将来有望そうな……

おおっと、そういえば、此方も自己紹介をしないといけませんね。私はリンドーネットです、どうぞリンネとお呼びください」

『ご丁寧にどうも……』


何ともわざとらしい言い方だろう。これだから、この手のタイプとの会話は嫌なのだ。

頭がキレる人みたいだし、腹の探り合いみたいで疲れてくる。


「それで、確認し「それにしても、お前すげぇな」」


話しているリンネを遮り、彼の右隣に座る女たらしそうな男性が突然声をかけてくる。

着ているのは騎士服のように見えるのだが、如何せん大分気崩して着ているため分かりにくい。ボタンなんて上3つが開けられており、最早ボタンがついている意味が無くなりそうだ。


レオブラウンはかけられた言葉に思わず首を傾げた。

すごい? 僕は何もしていない。

むしろ、あの2人の方が行動力があって目立っていたと思う。

その2人を差し置いて、僕? 

意味が分からなかった。


「シモン、話を遮らないでください。

それに何ですか、その座り方は。話をするなら、それに合った態度を見せてください」


リンネに注意をされたのにも関わらず、姿勢をかえることなくテーブルに足を乗せて、だらし無く座ったまま。

返事を返すこともない。


このシモンと呼ばれる人、相当強い。

恐らく、あの5人の中でも頭一つ抜けた強さを持っている。レオブラウンはシモンと呼ばれる男の人を見てそう感じた。


「……お前、目がいいな」


僕は思わずぎくりとしてしまう。

その反応を見て、彼はニヤリと笑った。



「俺らがこの部屋に入ってきた時のこと、お前は覚えているか?」

『……はい、覚えています」


それで、長く見すぎたのか、デオーテルと2人で外の様子を見に行ったお兄さんに睨まれてしまった。

そう伝えると、シモンさんは急に笑い出した。

困惑をしている僕をよそに、彼は笑い続ける。

他の2人も助けてくれる様子はない。


「ああ、笑った。

やっぱり、お前無意識だったんだ」

『?』


何のことを言っているのだろう?

全く見当がつかない。

あっ、ちなみに、馬鹿と連呼されていたお兄さんはハンズベルトさんと言うらしい。


「お前、俺らがただ者じゃない事、すぐに気付いていただろ

それで、俺らが部屋に入るやいなや、すぐに戦闘態勢になった」


は?

いや、そんな事した覚えはない。


「戦闘態勢は、言い過ぎか。

けど、俺らに対して随分警戒していたみたいだな。ハンズが睨んだのも、そのせいだ。

別に見つめられたぐらいでは、俺らもどうとも思わないさ」

『……えっ、いや、気のせいではないですか』

「残念ながら気のせいではないなぁ

お前も気づいていたように、俺ら5人はそこらのやつよりも強いし、経験値だって違う

そんな俺らが、敵意に気づかない訳がない」


随分な自信だ。

ただまあ、彼らが一般人でない事に、確かにレオブラウンは気づいていた。


そして、それと同時に5人もレオブラウンがただの少年でないことに気づいていた。

彼らの纏っていたピリピリとした緊張は、魔法生物の暴走が理由ではない。彼から常に向け続けられた敵意に対しての反応だ。

しかし、その敵意が無意識であったことにシモンは面白く感じた。


「ですが、その事については特に問題はありません。密室に、知らない人が入ってくれば警戒するのは当たり前です」

「俺もそれには賛同する。

けど、あのデオーテルと呼ばれていた少年が部屋に戻ってきた時、お前が一番最初に反応した。

俺らを上回るその察知能力、これは、ちょっと、見過ごせないな」

「もう一度言います。貴方について教えて下さい」


3人の視線がレオブラウンへと集まる。

僕がシーラを咄嗟に庇った時のことを言っているのだろう。

厄介な人たちに興味を持たれてしまった。緊急事態とはいえ、しくじったと今更ながら後悔する。


『何者と言われましても、ヴァルガルダで生まれ育ったただの初等学校の学生ですよ』

「ただのねぇ…………

俺らはそこらの一般人に、遅れをとるはずがないんだけどな」


先ほどから、どこか尋問を受けているように感じる。

決して怒鳴られているわけでもなく、凄まれているわけでもない。むしろ、リンネさんもシモンさんも笑っている。

それなのに、この押しつけられるようなプレッシャーによって、息苦しささえ感じる。


『ただ、ほんの少し他の人よりも気配に敏感なだけですよ』

「気配に敏感? 詳しく説明して下さい」


レオブラウンは、体質について詳しく話すしかなかった。

自身のことであるのに、この体質について説明するのは難しく、少々拙い説明になってしまう。

しかし、レオブラウンが話している間、彼らは話を遮ることはなく、最後まで黙って聞いていた。

3人が時たまに何かを考えるようなそぶりを見せていたので、何を言われるかレオブラウンの方は終始ヒヤヒヤしていたが。


「…………なるほどな」

「これは普通なことなのですか、シモン?」

「いいや、そんな事俺は聞いた事はない。

少なくとも俺はそんな事はできない」


騎士だって気配を読む訓練を行う。

だが、そもそも騎士においての気配に敏感であるという事は、勘が鋭いという意味じゃない。小さな音、微かな空気の流れ、僅かな地面の揺れなんかを逃さず察知して、予測すること。

だから、この気配を読む訓練は、周囲の些細な変化に敏感になる為の訓練となる。


シモンさんはやはり騎士団の関係者なのだろう。

彼の説明を聞きながら、ボンヤリと考えていると話をふられる。


「お前の気配の感じ方は、これとは違うんだろう?」

『そうですね…………少し考えてみましたけど、空気の流れとか地面の揺れなんか気にした事はないので、違うと思います』

「だよな。

と言うよりお前は騎士ではないから、この訓練は受けた事はないだろうしな」


レオブラウンの場合は……

目で見るものは視界に入っているものだけなのだが、心の目みたいなもう一つの視点から、僕の周囲の物や人が何処にいるか気配で分かる、みたいな。

自身を中心に上から覗いている感じ、これが一番感覚に近い。


これまでにも体質について何回か説明する事はあったが、やはり口で説明するのは難しい。

そもそも、普段から当たり前のように行なっていることを、説明するのは無茶だと思う。何も考えなくても出来ることを、どうやって説明ればいいのか。


それにしても、こんな説明であの3人は理解出来たのだろうか?

けどまあ、僕そっちのけで話しあっている姿を見ると、理解は出来たのだと思う。



「お前の両親は、同じ体質なのか?」


突然、これまで全く話さなかったお兄さんに話しかけられる。

すると、話し合っていたリンネとシモンも、話すのをやめてレオブラウンを見る。


ああ、この人が1番偉いのか。

レオブラウンは直感的にそう思った。


「おい、聞いているのか?」


何も話さないレオブラウンにしびれを切らして、再度声をかけられる。


『あっ、すみません。少し考え事をしていました……

それで両親についてですよね。

申し訳ありませんが、母親は僕が生まれてすぐに亡くなり、父親は僕を置いて家を出て行ってしまったので、両親について余り知らないんです。

なので、体質とかもよく分かりません』


そう、僕には両親の記憶はほぼない。

母親は僕を産んですぐに亡くなってしまった。元々体の弱い人だった為、出産で体力を奪われていた時にかかった流行病で亡くなってしまったらしい。

父親は、僕が2歳の時に、僕を母親の親友へと預けて家を出て行ってしまった。


「……それは悪い事を聞いた」

『いいえ、気にしないで下さい。

僕には、優しいおじさんとおばさんがいます。それだけで十分です』

「……そうか」


それっきり会話は止まってしまった。

またしても気まずい空気が流れる。


でも、これで良い。これ以上プライベートな事を深く追及されても、こっちが困ってしまう。


流石のリンネさんとシモンさんでも、この件に関してはこれ以上聞くつもりがないみたい。

僕としては好都合なので、このままデオーテルとシーラが戻ってくるまで、黙っていよう。





こうして僕は、治療が済んだシーラとデオーテルと共に、無事に家に帰れることとなった。

本当に疲れた1日だった。

既に暗くなってしまった空を見上げる。


ただ、まあ、見たかった"未知への扉"も見れたし満足だ。

ヴァルガルダの街は広いから、あの人達に会うことはもう二度とないだろう。

が、念の為に、この祭りのが終わるまでは人が集まるところは避けるつもりだ。



『ふぁ〜〜』


こうして、レオブラウンの長い長い1日がようやく終わった。







ーーーーヴァルガルダ内のとある屋敷にて



コンコンッ


「入れ」

「失礼します」


夜が更け、人々がすっかりと寝静まった時刻。

こんな時間にも関わらず、部屋の主人は執務を続けていた。


「お忙しいところ、申し訳ありません

頼まれておりました調査の報告書が届きました。ご覧になられますか?」


「ああ、持ってきてくれ」

「俺にも見せてー」


ソファーに寝そべっていたシモンが起き上がる。

それに対してリンネは溜め息を吐くものの、何も言わない。注意したところで、意味がない事を理解しているのだ。



「…………嘘は言っていなかったようですね。まあ、彼はあの歳にしては賢いようでしたし。

嘘をついてもメリットがない事を、きちんと理解していたのでしょう」

「体質についても、本当のようだ。幼少期から慢性的な頭痛で通院をしている」


届けられた十数枚に及ぶ資料には、今日会った3人に関することが記されている。

今通う初等学校での成績から通院歴、そして家族構成に至るまでだ。


「…………でも、全部を話した訳ではなさそうだぜー」


シモンは怪しく笑うと、持っている書類をヒラヒラと揺らす。


「ほら、ここ」


シモンが指差す場所を見て、2人の目が見開かれる。


「これを彼が知らないなんて、あり得ない。

やっぱ、食えないな奴だな。ホント、12歳とは思えない」



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