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レオブラウン

(勘弁してくれ)


街の中で少し小高となっている丘の上で片膝を立て、頬杖をつきながら眼下を見て溜息をつくレオブラウン。


暑さも落ち着き、過ごしやすくなってきた今日この頃。ただいまの時刻は朝の7時、日は既に登って明るいとはいえど、まだまだ早い時刻。


(もう市場に人が集まってるし、こんな朝早くからご苦労なこった。昼は昼で観光して、夜は毎日毎日遅くまで酒を飲む。

ホント浮かれすぎだろ)


爽やかな朝とは対照的な様子のレオブラウン。


彼は何故か他の人よりも気配に対して敏感で、周囲を見渡すことなく人や物を把握することができた。

しかし、この体質のせいで幼い頃は人が集まる場所を怖がり、よく泣いていたものだ。

初等学校に入るまでは人と関わることさえも怖がっていたが、成長した今ではもう人混みに怯えることも、泣くことも無くなった。


ただ大きくなってもやっぱり人混みは苦手のまま。

見えすぎてしまう目と、感じすぎてしまう気配のせいで、彼の脳は常に疲れ切っている。頭痛も日々の通常装備となってしまった。


何もイベントのない普通の日でも辛いのに、最近の街の盛り上がりははっきり言って地獄。

夜になっても街の賑やかさは収まらず、あっちでガヤガヤ、こっちでバタバタ。ただでさえ観光客の多さに参っているのに、加えてこの煩さだ。


普段の頭痛に加えて、慢性的な寝不足も追加されてしまったレオブラウンの体は既に限界。このままいくと、近いうちに本当に倒れそうで怖い。



頭痛と寝不足に苦しむレオブラウンは、少しでも街の喧騒から離れようと、この丘の上へと朝早くから避難してきた。


周囲よりも標高が高いこの丘は、街全体を一望することができる眺めの良い場所。王国をぐるりと一周する2重の白く高い城壁をバックに、色とりどりの建物が並び、まさに絶景だ。

だが、レオブラウンの周囲には人影は全くと言って良いほど見受けられない。


理由はこの丘の立地の悪さだ。

周囲全てが深い森に囲まれたこの丘にたどり着くには、目印もない獣道を進み、鬱蒼とした森を抜ける必要がある。

観光客はまず立ち入ろうとは思わないだろ。街の住民であっても、用事がない限り訪れることはない、ここはそう言う場所だ。

そのおかげで、幼少期からこの丘はレオブラウンにとって絶好の避難場所になっている。


(こんなに良い眺めなのに勿体無い

まあ、人がいないのは僕にとって都合が良いけど)


レオブラウンが住むこの街、ヴァルガルダは北部地方の重要都市として、王国にとっても大切な拠点の一つとなっている。

重要都市というだけあり街は大きく、住んでいる住民も多い。

観光にも力を入れている為、観光客が一年を通して訪れ、街は常に賑わっている。


ただ、現在のヴァルガルダは普段とは比にならないほどの人で溢れかえっている。

この街の観光スポット、セントラル・ヒューレ市場も連日人でごった返し状態だ。


これほどまでにヴァルガルダの街が賑わっているのには、きちんと理由がある。


そして、その答えは祭り。

ヴァルガルダでは、来月の初めに大きな祭りが開催される。祭り本番には1ヶ月弱とまだまだ日があるのにも関わらず、この盛り上がり。

そう、この祭り、ただの祭りではない。


祭りといえば、全国各地で行われる収穫祭や、生誕祭などの特別な日に行われる祝祭が思い浮かぶだろう。

人々が多く住む街で行われる大きな祭りから、田舎の小さな村で行われる小さな祭りまで含めれば、アステール王国では毎年、全国各地でかなりの数の祭りが開催されている。


こういった祭りは大抵の場合、其処に住む住民で構成された組合が執り行うが、規模の大きな祭りは領主が執り行うことが多い。だが、領主主催の祭りなど年にそう何度も行われるものではない。


アステール王国には、国家行事として王族をはじめとした王政府が執り行う祭りも存在する。

国王の生誕祭、新年の始まりを祝う新年祭、アステール王国の建国を祝う建国祭の3つの祝祭と、もう一つの合計4つの祭りがある。


そして、ヴァルガルダで来月開催される祭りこそが、4つ目の祭り。

勿論のことであるがこの祭りは、王国の威信をかけて行われるため、他とは段違いの規模と盛り上がりを見せる。


王政府が主催する行事には、祭りのほかに式典や舞踏会も含まれる。

ただ式典や舞踏会はそのほとんどが王都の王宮内で行われ、式典に参加する者たちは貴族や官僚などの身分が高い者たちだけに限られる。一般国民が招かれる事などまず無い。


しかし、生誕祭や新年祭、建国祭は全ての国民にとっての祝い事であるため、誰もが祝い、喜び、楽しむ権利がある。それ故に、国民は祭りを大切にし、待ち望む。

祝祭の日は王都の国民は王族から、王都以外の国民はそれぞれの領主からお菓子や食事が配られる。これは、初代国王の頃から続く伝統。


仕事を休み、美味しい物を食べて、皆んなで騒ぎ、一日中楽しむ。これは一般国民だけではなく、それは王族や官僚にも当てはまる。どんなに忙しくてもその日だけは街に出たり、気の合う仲間と集まって楽しむ。

初代国王も大切にした決まりごとの一つだ。



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