表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

05 『中立』

賢歴143年7月15日 ―皇帝執務室―


室内にはエイルの姿と皇帝の姿があった。


「して、話とは?」

「ダアトへ行きたいのです」


エイルの返事に皇帝は少し不満の表情を露にする。


「…理由は?」

「ビナーもダアトを取り込みたいと考えているはずなので、我々も動かなければならないと思いまして」

「ふむ、確かにお前の言う事に一理あるが、皇子のお前でなくとも宰相を行かせればよいだろう」

「いえ、次期皇帝である私が行くことに意味があるのです」

「なるほど、今後とも良い関係でありたいだろう? と脅すのか」

「言葉にはしませんがね」

「そうか、では第一師団から何連隊か警備に」

「いえ、こちらに呼んであるニコラス大佐らが私の警備に就くよう手配はしてあります」


その言葉に皇帝は笑みを浮かべ、


「あぁ、お前の悪足掻きの命令で来た連隊か」

「えぇ」


エイルは表情を一切変えることなく、淡白に返事をする。

それが癇に障ったのか、「もうよい、下がれ」と皇帝は手で払う。

エイルは一礼して執務室を出ると、ドアの両隣にはヤハとユエルの姿があった。


「どうでしたか?」

「許可は下りたよ、ニコラス大佐の準備は?」

「できてるって、ニコラスのオッサンは言ってましたよ」

「そうか、では平和を掴みに行くとしよう」


エイルは一瞬笑みを零して廊下を進む。



時は流れて7月17日。

エイル一行はダアトとの国境があるダアト平原に来ていた。

そしてここには第二師団がエイルの命により駐留している地域でもあり、

エイルは第二師団が在留している基地に寄っていた。


「敬礼!」


バッ! と兵士たちはエイルに敬礼する。


「諸君。早速で悪いがすぐにここから移動できるように準備しておいてほしい、

詳しくは副師団長に話してあるからあとで聞いてくれ、以上!」


再び兵士たちはエイルに敬礼し、エイルは基地を後にした。



―車内―


「殿下、本当にやるのですか?」

「当たり前だ」

「しかし、我々だけではとても…」

「師団長の言う通りッスよ、俺マジ怖いんですけど」

「もう何を言っても遅いよ。国境超えたし、首都着いちゃったしね」


そう言うと車は停止し、ドアが開いた。

そこには軍服に身を包んだ三十代くらいの男をが立っていた。


―ダアト・王城―


「お待ちしておりました。エイル殿下」

「国王は?」

「会議室でお待ちです」


そう言われ会議室まで案内され、扉を開けると白髪に長い白ひげを顎に蓄えた老人が座っていた。


「お久しぶりです。ミハエル・ダアト国王陛下」

「おぉ、アインとこの坊やか」


エイルを坊やと呼ぶこの人はダアト国の国王で、齢八十四の最高齢の王であり、博学として有名である。


「陛下、お話がありまして本日は参った次第です」

「お話とは何かね?」

「それは陛下が一番お分かりかと」

「フォッフォッフォ、博学と呼ばれる儂でも人の思考は読めんよ」

「ご冗談を」


その言葉にダアト国王は目を細め、


「もし断ったら?」


と低い口調で訊いて来た。


「言わずとも予想はつくでしょう?」


五秒ほど沈黙が続くと、ダアト国王は「あははは」と笑い声をあげる。


「返事は?」

「もちろんNOじゃよ、中立たるダアトはどちらにも着かん」

「でしょうね」

「そうとも。で、本題は?」

「マリーが来ているでしょう? 今どこに居ますか」

「はて、何の事か」


エイルの質問にダアト国王は顎に手を当て何か考えている素振りを見せる。


「私もマリーも『泡沫の調べ』がお気に入りなんですよ」


エイルの言葉を聞くと、ダアト国王は「参った! 一本取られたのぉ~」と笑う。


「隣の部屋で待たせておるよ、それにしてもアインに似て頭がキレるのぉ~」

「褒めの言葉ありがとうございます。ではこれで失礼を」


エイルは部屋を急いで出る、待ち焦がれた人との再会を目指して、またあの笑顔を見る為、

そして、エイルはドアを開く。



マリーside


一時を回った頃の事でした。

突然ドアが開いたのです。

そしてそこには長年待ち焦がれた人が立っていました。


「エイル(マリー)『会いたかった』」


私は彼に、エイルに駆け寄り手を握る。

あぁ、やっと会えた。

私はあまりの嬉しさに涙を流してしまいました。


マリーside out



エイルside


マリーは涙を流して俺との再会を喜んでいた。

俺は言葉にならない想いを胸に抱き、涙はなんとか堪える事が出来た。


「マリー 準備の方は?」

「えぇ、全て整っています」

「じゃあ、早速実行に移そう」

「えぇ、全ては」

「「平和の為に」」


エイルside out



二人は手を繋いで部屋を出る。

その顔は今までにない決意をしたものだった。

そして数時間後、全世界に配信された声明に誰しもが驚きを隠せなかった。


―声明―


本日、7月17日。

ケテル帝国第一皇子 エイル・グラジアス及び、ビナー王国第一王女 マリー・ギフエルは永世中立国であるダアトへ亡命し、帝国・王国の戦争中止を要請します。

万が一これが叶わないものであれば、武力を行使してでも止める事を宣言する。


という内容だった。


これに一番驚いたのはもちろんケテル帝国皇帝であった。

今現在、自身よりエイルの方が民からの信頼は厚く、

そのエイルが亡命したとなれば、皇帝である自分が何かしたと疑われかれないのだ。

何せエイルは戦争反対の立場、自分は戦争をしようという立場、

邪魔者を消そうとした。なんて考えが民に広がれば間違いなく『革命』が起きてしまう。


そしてビナー王国でも驚きを隠せないでいるものが居た。


―女王執務室―


「なんて事」

「まさか大人しかったマリーがこんな事を仕出かすとは」

「それにあの子が護衛にと引き連れて行った連隊は」

「あぁ、イージス師団第一連隊だ」


イージス師団とはビナー王国軍に存在する。

『国軍最強の盾』の異名を持つ守りを得意とする師団だ。

マリーは最高司令官代理になった際にノエルに命じて第二連隊を王都へ呼び、

残りはダアトとの国境付近に在留させておいたのだ。



―ダアト王城―


城内の一室にエイル、マリーにヤハ、イージス師団の女師団長が集まっていた。


「まさか、マリー殿下にここまでの御考えあったとは」

「いいえ、コレのお陰ですよ」


とマリーは一冊の本を取り出す。


「泡沫の調べ、聞いた事のない書物ですね」

「当たり前だ。その本は今現在三冊しか残ってないんだからな」


そこへエイルが会話に入る。


「三冊だけ…ですか?」

「あぁ。ケテル、ビナー、ダアトの皇室、王室が所有している」

「しかし、本と今回のコレと何が関係していると?」

「内容が似ているのよ」

「内容?」

「えぇ、この本の主人公は二人、一国の王子と一国の王女」


マリーの言葉を聞くと今まで黙っていたヤハが口を開く。


「なるほど、その両名の行動を元に今回行動を起こした、と」

「そう言う事ですわ」

「しかし、姫。それは殿下と姫が共通の意識を持っていたないと」

「「信じてい(たから)ましたから」」


その言葉にヤハもイージスの女師団長も呆れていた。


                      To be continued

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ