04 『姫君』
―143年6月25日―
ビナー王国 王都ペンタグラム。
王宮内の一室に黒いロングヘアーの少女と老婆が口論していた。
「なんでよ! お兄様がこの国を継ぐのだから私は誰とでも結婚していいでしょう!?」
「なりません! マリー様が好いていらっしゃる方と結ばれるのならノエルも嬉しゅうございますが、敵国の皇子となど」
「婆やの分からず屋!」
「マリー様はこの国の姫なのですよ? 御立場をお考えください!」
「愛に立場なんて関係ないわ!」
「そんな我儘が通らないのはマリー様が一番お分かりでしょう!」
ふん。とマリーは頬を膨らませてそっぽを向く、がノエルは言葉を続けた。
「それにマリー様にも戦争に向けて準備して貰わなければなりませんし」
「軍の役職なんて私には要らないわ」
「そんな事も言っていられないんです。帝国はエイル皇子を最高司令官代理に就かせたのですから、わが国もそれなりの対応を取らなければいけません」
「えっ……エイルが最高司令官代理に就いたの?」
「そうでございます。ですからマリー様にも最高司令官代理に就いて貰いたいと女王陛下から打診が…姫?」
「……いいわ。その話を受けましょう、ノエル。至急おかあ…女王陛下に御返事を」
「か、かしこまりました」
ノエルは一礼して部屋を出た。
マリーはイスに座り引出しから一冊の本を取り出す、本は『泡沫の調べ』という文字が描かれており、マリーは本を読み始めた。
―女王執務室―
部屋には女王と夫であるジェイスにノエルの姿があった。
「それは本当なのか?」
ジェイスは信じられない物を見るかのような表情でノエルに聞く。
「はい。姫は確かに御受けになる。と」
「信じられないわ。私はてっきり断ってくると思っていたけど」
「えぇ、最初はそう言われておりました。しかしエイル皇子の事を御話しすると…急に御考えが変わったようで」
「……やっぱりまだ思っているのね」
女王は肩を落とす、それを見たジェイスは女王の肩に手を置き、「仕方ない事なんだよ」と諭す用に言葉を掛ける。
女王はジェイスの手に手を重ね、「もどかしいものね」と言葉を零す、その頬に一筋の雫をジェイスは見てしまった。
―マリーの自室―
トントン、とノック音が室内に響くと「ノエルです」と声がした。
「入って構わないわ」
とマリーは返事をする。
「失礼します」と言ってからノエルは部屋に入る。
その手に任命書を携えて、マリーは本を机の上に置くとノエルは任命書を手渡す。
マリーは深呼吸して任命書を確認する。
「ノエル。早速で悪いんだけど、……を手配してくれるからしら」
「しかし、それは!」
ノエルはマリーの発言に驚きを隠せいないでいた。
動揺しているノエルにマリーは間髪入れずに止めをさす。
「その権利を私はすでに有しているのよ?」
と今度は"お願い"という生温い物ではなく、"命令"の口調で言葉を発する。
ノエルはマリーの変貌ぶりに心底驚き、ただ言うがままにするしかなく、ノエルは部屋を後にした。
「これで…準備は整ったわ……エイル」
一人きりになったマリーは祈るようにエイルの名を口にした。
To be continued