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渦巻くのは嫉妬か?変わらぬ友情か?公爵令嬢は王妃になる覚悟をする。

作者: ユミヨシ

マリリランテ・シュリステア公爵令嬢は、王宮の控室で、土下座をして謝るメイドを無表情で見下ろしていた。


控室である部屋は荒らされて、持ち込んだドレスは破られ酷い有様。


メイドは土下座をし、泣きながら。


「申し訳ございません。お嬢様。私がちょっと部屋を出た隙に。」


「そうね。困った事になったわ。」



すぐに支度をしなければならない。

今から公爵家に戻ってドレスを取ってくる時間もない。


もうすぐ、王宮の夜会が行われるのだ。

そこで、ディアス王太子殿下の婚約者候補である令嬢達が、最高のドレスを着て自分をアピールしなければならない大事な夜会。


犯人は他の公爵家の令嬢。

王太子妃の座を狙っている公爵令嬢は他に5人いる。


その中の一人がメイドのいなくなった隙に配下の者に命じてやらせたのだろう。

王宮内の警備の甘さに腹が立つ。

公爵令嬢ごときの部屋までは構っていられないのか?


父も母も夜会の会場で他の貴族達と談笑しながら、夜会が始まるのを待っているはずだ。


「レスティア・アレクトス公爵令嬢の元へ参ります。」


マリリランテはドレスの裾を翻し、二つ先の部屋にいるはずの、レスティア・アレクトス公爵令嬢の部屋の扉をノックする。


部屋からレスティア付きの使用人が顔を出して、


「何用でございましょう。」


「レスティアに会わせて頂戴。マリリランテ・シュリステア公爵令嬢よ。」


「かしこまりました。」


支度をしている今は大事な時。

しかし、レスティアに頼むしかないのだ。


レスティアは豪華な金のドレス姿で、部屋の中から現れた。

金の髪に映えてとても美しい。


マリリランテはレスティアに向かって、


「レスティア。お願いがあるの。貴方、ドレスを余分に持ってきているでしょう。

わたくしに一着貸してくださらないかしら。」


レスティアは驚いたように、


「どうなさったの?ドレス…まさか…」


「ええ。ダメにされたわ。」


「中に入って。」



レスティアは今回の王太子妃選びのライバル令嬢でありながら、王立学園時代は親友だった…そして今も親友である仲のよい令嬢だった。


マリリランテの銀の髪に映える白の豪華なドレスをメイドに持ってこさせて、

レスティアは、


「これなんてどうかしら。貴方に似合うと思うの。」


「まぁ、素敵。このドレスを貸して頂けるの?」


「ええ。時間がないわ。うちのメイドに手伝わせるからすぐに着替えましょう。」


レスティアのメイドに着替えを手伝って貰い、マリリランテは豪華な白のドレスに着替える事が出来た。


これならば、ディアス王太子の婚約者選びの場にふさわしい装いになるであろう。



マリリランテはレスティアに感謝した。


王立学園にいた時もレスティアはとても頼りがいがあって、マリリランテをよく助けてくれたのだ。

マリリランテもレスティアが困っている時は相談に乗り、互いに助け合った。


二人とも薔薇のごとく美しく、王立学園でも金銀の美人公爵令嬢として有名だったのである。


そしてマリリランテは王立学園にいた時からディアス王太子殿下が好きだった。

背の高く男らしいその顔立ち。

何をやっても優秀で出来る男である彼は王立学園で女生徒達からモテたのだ。


彼の兄である正当な後継者を押しのけて、ディアスが王太子殿下になったのも、

彼が優秀であると同時に母であるマルディア側妃が国王陛下の寵愛を受けていて、権勢を振るっていたという事も影響していたのかもしれない。


マルディア側妃の父であるフェリレス公爵も、王宮で宰相を勤めており、

まさにこの国の王宮はフェリレス公爵家の勢力一色で塗りつぶされていた。

だから、ディアス王太子と娘が結婚すれば、他の公爵家も王家に近づく事が出来る。

だから、どこの公爵家も必死だったのだ。


勿論、公爵令嬢達もディアス王太子殿下があまりにも素敵なので政略なんて関係なく、結婚出来たらという乙女心もあるのかもしれないが…

王太子の婚約者争いは戦々恐々としていたのである。


夜会が始まり、ディアス王太子が、国王陛下とマルディア側妃と共に入場すれば、会場には緊張感が走る。


まず、誰とダンスをディアス王太子は踊るのか。

5人の公爵令嬢達は、王太子殿下の誘いを今か今かと待ちわびて。


ディアス王太子はマリリランテの前に行き、手を差し出して。


「マリリランテ・シュリステア嬢。私とダンスのお相手をお願いできますか?」


「喜んで。」


他の公爵令嬢達が睨んでいるような気がする。


マリリランテは喜びと共に、緊張感で身体がこわばる。

ダンスの失敗は出来ないのだ。


ディアス王太子が耳元で、


「大丈夫。私がリードしよう。落ち着いて。マリリランテ。」


ああ…この方はやはり優しいわ。


王立学園にいた時も、生徒会長だった彼を、レスティアと共に生徒会で手助けをしていた。

ディアス王太子は優しかったのだ。


あの頃はレスティアときゃっきゃっ言いながら、楽しくディアス王太子殿下の手伝いをしていたわね…


あの頃から王太子殿下の事が大好きだった。

わたくしはディアス王太子殿下と結婚したい…したいのよ…



ディアス王太子とダンスを踊る。

上手いエスコート…安心して身を任せられて。


幸せだった。今、時が止まってしまえばいい…

そう思えた。



ダンスが終わって、次にディアス王太子が誘ったのはレスティア・アレクトス公爵令嬢だった。レスティアは嬉しそうに、ディアス王太子とダンスを踊る。


ああ…とても嫉妬してしまうわ…

わたくしが…わたくしが王太子殿下に選ばれればいいのに…

でも嫉妬の心はいけない。

レスティアは大事な親友。

レスティアだけは信頼できる大事な親友なのだから…


レスティアとダンスを踊り終えると、次の公爵令嬢とディアス王太子はダンスを踊った。


レスティアは嬉しそうにマリリランテに近づいて来て、


「やはり素敵ね。ディアス王太子殿下。」


そう言うレスティアは王立学園にいた時と変わらなくて。

二人でディアス王太子を素敵素敵とよく言っていたのだから。


マリリランテも頷いて。


「本当に素敵だわ。あの方は…」


レスティアはぽつりと呟いた。


「わたくし…王太子妃になりたい。あの方の妃に選ばれたいわ。」


「レスティア。」


「マリリランテ。これだけは譲れない。わたくし…選ばれたいの…」


そして驚くべき事を言ったのだ。


「ドレスを破ったのはわたくしよ。」


あの部屋を荒らして、ドレスを破ったのはレスティア…レスティアが命じて使用人にやらせた?


マリリランテは胸を押さえて、


「貴方はわたくしを助けてくれたじゃない?ドレスを貸してくれたわ。」


「貴方がっ。貴方がわたくしを頼って来たからよ。

学生自体と変わらず貴方がわたくしをっ…わたくしは断れなかった。

王太子妃になりたい。ディアス王太子殿下が好き。

でもっ。貴方がわたくしを頼って来たから。」


レスティアは涙を流す。


そして、呟くように…


「ごめんなさい。マリリランテ。ごめんなさい。」


二人は互いに抱きしめ合って泣いた。

夜会はまだ続いているというのに、会場の隅で互いに抱きしめ合って泣き続けた。



夜会だけでは婚約者は決まらず、パーティが開かれる事となった。

王宮の庭で開かれる立食パーティ。


あれからマリリランテはレスティアと会う機会も無かったのだが…



王宮の庭で用意されたテーブルに置かれた菓子を摘まみ、飲物を飲みながら、ディアス王太子は5人の公爵令嬢達と会話を楽しむ。


バイオリスト夫妻が奏でる静かな音楽が、場の雰囲気を和やかな物にしていて…


ディアス王太子はマリリランテに良く話しかけて。


「今日のマリリランテはとても美しい。」


「有難うございます。王太子殿下。」


「勿論、他の令嬢達もとても美しい…」


その言い方は、マリリランテが一番候補だ。と王太子殿下が宣言しているような物で。


一人の公爵令嬢が手にグラスを持ってきて、


「マリリランテ様。おひとつ如何?」


「有難うございます。」


グラスの酒を飲もうとしたら、レスティアがそれを奪いとって、


「わたくしが頂くわ。」


その酒を一気に飲み干した。


そしてにっこりと笑って。


「美味しいお酒ですわね。」


その場は和やかにパーティは進んで終わったのだ。

勿論。マリリランテが有利と見た他の公爵令嬢達が何を思っていたのか定かではないが…


それから二日後。

レスティアが病になったという知らせを受けて、マリリランテは急ぎ、レスティアを王都の公爵屋敷に見舞いに行った。


レスティアは真っ青な顔でベッドで寝ていたが、マリリランテに会ってくれた。


マリリランテはレスティアの手を握り締めて。


「レスティア。具合は如何?」


「マリリランテ。貴方、用心が足りないわ…あのお酒に毒が入っていたのよ。

わたくしは…死ぬつもりだったの。」


「なんで。なんでなの?」


「貴方に嫉妬して、親友なのにドレスを破ったわ。わたくしは醜い…生きている資格なんてないの…だから毒を飲んだ。」


「ああ…貴方はドレスを貸してくれた。だからもういいの。いいのよ。」


「有難う。マリリランテ。有難う…」



毒を盛った公爵令嬢は、レスティアの診断書と共に、騎士団に連行されて取り調べを受け、

マリリランテを毒殺しようとした事を自供した。

彼女は今、牢に入っている。



マリリランテは半月後、王家からディアス王太子の婚約者に内定したと連絡を受けた。


でも…わたくしは…


マリリランテは貴族社会が嫌になった。


ディアス王太子殿下の事は好き…好きだけれども。

この国の王妃になってやっていけるのかしら…


マリリランテは隣国の叔母を頼って、シュリステア公爵家を出る事にした。

シュリステア公爵と夫人は大反対した。


「せっかく王家と縁が繋げる事が出来るチャンスだというのに。」


「マリリランテ。貴方、王太子殿下が好きと言っていたじゃない?考え直しなさい。」


マリリランテは二人に向かって、


「わたくしは王立学園で学んだことを生かして、叔母様の元で働こうと思っております。

わたくしは王妃になりたくはありません。この国の貴族社会が嫌になりましたわ。」


そう言って、ディアス王太子殿下との婚約の断りを父を通じて王家に申し入れた。


すると、ディアス王太子自身がシュリステア公爵家に豪華な馬車で訪問して。


驚くマリリランテに、赤の薔薇の花束を差し出し。


「私の妻は君しか考えられない。どうか婚約を受け入れてくれないか?」


「わたくしには覚悟が足りないのです。王太子殿下。貴族社会で生きて行く覚悟が…

親友ですら敵になり得る…時には命の危険さえある恐ろしい所ですわ。

わたくしは貴方を支えてそんな社会で生きていけるのでしょうか?」


「全力で守るから…マリリランテを全力で。それに君の親友も君が王妃になる事を望んでいるよ。」


後から別の馬車で来たのか、レスティアが入って来て。


「マリリランテ。貴方が王妃にならなくてどうするのっ。この国の事を熱く語ったじゃない?生徒会で皆で一緒に。お願いだから王妃様になって。ドレスを破ったわたくしが言えることじゃないわ。でもっ…貴方に王妃になって欲しいの。お願い。」


親友が望んでくれて…そして何よりもディアス王太子殿下が望んでくれる。


マリリランテは決意したように頷いた。


「有難う。レスティア。有難うございます。ディアス王太子殿下。わたくしは貴方の婚約の申し込みを受け入れますわ。」



ディアス王太子殿下に抱き締められた。

マリリランテの王妃として生きる覚悟がこの時、決まったのであった。



後にディアス王太子と結婚したマリリランテは、ディアス王太子を助け、

優秀な王妃として名を残した。

親友であるレスティアとは生涯仲良く、レスティアは宰相フェリレス公爵子息と結婚し、この国の為に陰から尽くしたと言う。


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