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006

 どこからかノックの音が聞こえてきた。

 最初は控えめな音だったが、室内にいるはずの芽衣が中々返事をしないからか、ノック…いや、最早ドアを叩いているような強い音が聞こえてくる。


「お食事のお時間ですが…メイ様? …もしや体調を崩されて室内で倒れていたり…。メイ様大丈夫ですか!? 確認のためにドアを開けてもよろしいですか!?」


 返事が無いことを心配しているらしいメイドの声で完全に目を覚ました芽衣は、慌てて「はい、大丈夫です! 少し待って下さい」と声をかけてから浴室へ向かう。軽く顔を洗い、備え付けのタオルで顔を拭く。


「ん? ちょっとごわごわしてる?」


 貴族の家なので、高級タオルのような物を想像していたが…。そのタオルの肌触りが少し気になった。

 しかし今はメイドが待っているので、芽衣は急いで部屋を出た。


「お待たせしました」


 無事芽衣が室内から出て来たことを確認したメイドはホッと息を吐いていた。


「良かった…メイ様がご無事で…」


 安堵したメイドのそんな小さな声が聞こえた。

 いつの間にか寝てしまったため返事をするのが遅くなったことを謝れば、メイドは首を横に振り「こちらこそ取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」と謝られた。

 そしてメイドに案内され、一階にある食堂へと向かった。

 案内された広い食堂には既にリーシャと若い女性が待っていた。


「遅くなってしまってすみません」


 最後になったであろう芽衣はリーシャと女性に謝る。


「大丈夫だよ。メイちゃんと話がしたい僕たちが少し早く来すぎちゃったんだ」


 そこでリーシャの隣にいる女性・妻のソマリを紹介してもらった。


「初めまして芽衣です」


「初めましてメイちゃん。私はソマリよ」


 軽い自己紹介を終えると、席に促される。三人が座ったことで沢山の料理が運ばれてきた。どうやら一品ずつ出されるのではなく、料理は全部一緒に出されるようだ。この世界のマナーが分からない芽衣からすれば、これはいつもの食事風景でホッとした。

 本日のメニューは焼いた肉と焼いた輪切りのジャガイモ、目玉焼き、パスタと丸いパン、そしてスープだった。


「それじゃ食事を始めようか」


「ええ」


 リーシャの声で食事が始まる。芽衣は小さな声で「いただきます」と云ってから食べ始めた。

 芽衣は最初にスープを口にした。煮込まれた野菜が入っているスープはほんのり塩味がして、優しい味がした。

 次に焼き物。肉にはほんのり塩コショウがかけられているようだが、噛んでいると次第に肉本来の味が強くなってくる。付け合せのジャガイモには何も味がついていないようで、軽く潰して肉と一緒に食べるようにした。

 パスタにはニンニクと唐辛子が入っていて、見た目も味もペペロンチーノだった。そしてこのパスタが、今日の料理の中で一番強く味を感じた。

 ちなみに丸いパンは芽衣には少々固く、現代日本人の顎にはきつくて少し食べるだけで疲れてしまった。

 必死に丸パンを噛み締めながら芽衣はこのメニューについて考える。


(全体的に…薄味? もしかしてリーシャさんたちは薄味が好みなのかな?)


 食材自体は良いと思う。ただ味が少し物足りないと思ったので、これらをもっと美味しい物にしてあげるにはどうすればいいのかと考えながらモゴモゴと口を動かしていると、驚くことにいつの間にか料理を食べきっていた。

 食後は場所をリビングへ移し、三人で雑談をした。雑談と云うよりも、何も知らない芽衣のために二人がこの世界のことを教えてくれたのだ。

 そもそもこの異世界は『ラスターニャ』と云い、ここには大きな大陸が二つある。それぞれを西大陸、東大陸と呼び分けていると云う。…ちなみに今芽衣がいるのは、東大陸の中でも東にあるユイオン王国の王都らしい。

 西大陸と東大陸は海を挟んでいるため、行き来するのには船で約五日かかること。元々西大陸には異世界人が多く現れ、そちらの方は栄えていること。そして現在の西大陸には勇者が滞在していることなど。

 他にはラスターニャでは魔物から採れる魔石を使って生活をしていると云う。例えば火をつけたり、水を流したり…と、生活の中で魔石は色々と使われているので、無くては不便な物だということ。その使用方法は簡単で、ただ魔石に触れればいいだけ。使うために何かしなければいけない、ということはないそうだ。

 ただ魔石(持ち主である魔物)によって価格も使用期限も変わってくるそうだ。勿論これらは簡単に交換出来るようになっているので、自分の生活に支障が無い物を買うのが一般的らしい。


(要はボタン一つで火をつけたり、水を流したり出来るってことだね)


 流石魔法がある世界、と芽衣は納得してしまった。


「…っと、慣れないことを一度に云われても大変だと思うから、世界についての話はここまでにしよう。それにソマリもメイちゃんと話したいみたいだし」


 一通りの説明をしてくれた後、隣でそわそわしているソマリに気付いたリーシャは苦笑していた。

 ここからは個人的な話をしてもいいと悟ったソマリは「可愛いわ。新しく妹が出来たみたいで嬉しいわ」と、とてもはしゃいでいた。


「もし困ったことがあったらすぐに話してちょうだい。力になるわ」


「ありがとうございます」


 リーシャも頼りになるが、女性のこと(主にファッションなど)については聞きづらい。なのでソマリが相談に乗ってくれるのはとても嬉しい。

 最初は今芽衣が着ている服や日本のファッションのことから始まり、次第にラスターニャでの『お茶会』や『ドレスの作成』などの話になっていった。どちらも芽衣には縁が無いものなので、聞いているのは楽しかった。

 しかしソマリが「そうだ! 今度メイちゃんも参加しましょう!」と声を弾ませてきたので、流石にどうすればいいのかと困惑していると、今まで黙って話を聞いていたリーシャが助けてくれた。


「ソマリが嬉しいのは分かるけど、そんなに沢山話したらメイちゃんが混乱しちゃうよ? ただでさえ今日は疲れているんだから。だからその話はまた明日以降にしよう?」


 リーシャの言葉にソマリはハッと我に返り、芽衣に謝罪してきた。


「そうね。私ったら嬉しくてつい…。本当にごめんなさいね」


 謝ってくるソマリに芽衣は「いいえ。こちらもお話が聞けて楽しかったです」と正直に答えた。実際ソマリの話を聞くのは楽しかったし、自分で作れる物は何か…と参考になった。


「明日は時間を気にせずゆっくりしていていいから。しっかり休んでね」


 リーシャがそう云うとソマリは「長々とごめんなさいね」と再度謝罪し、近くに置いてあったベルを鳴らした。

 するとメイドがやって来て、まだ部屋を覚えていない芽衣のために案内をしてくれた。


「クローゼットに少しですがお洋服を準備しておりますので、よろしければお使い下さい。明日は何時でもかまいませんので、起床の際にはベルを鳴らして下さい。それではおやすみなさいませ」


「ありがとうございます。おやすみなさい」


 一礼してメイドが去って行くと、芽衣は遠慮なく寝室へ向かい、広いベッドに倒れ込んだ。

 フカフカなベッドに倒れ込むと、先程仮眠したばかりなのにまた眠気が襲ってきて、芽衣はそのまま夢の中へと誘われていった。




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