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022

 今夜のメニューが決まったので、トランたちに作り方を教えた芽衣はある程度見守った後、自室に戻った。

 夕食までにはまだ時間があるので、その間に異世界商店で商品を購入したり、浴室でこっそり魔法の練習をしたりした。

 そして気付いたら日が暮れていたので魔法の練習を切り上げて休憩をしていると、まるでそのタイミングを狙ったかのように、ドアをノックする音が聞こえた。

 驚きながら返事をすると、どうやらリーシャが客人と共に帰宅したらしい。

 知らせに来てくれたメイドの案内で応接室へと向かう。応接室のドアをノックをして入室許可を得ると、そこにはリーシャと客人――事前に聞かされていた通り見知らぬ男性二人がソファに座っていた。

 リーシャに手招きされ、芽衣は戸惑いながらリーシャの隣に座る。芽衣がしっかり座ったことを確認すると、早速目の前の客人を紹介してくれた。


「メイちゃんに紹介するね。こっちがユイオン国王のギストルと、その弟のデュオル」


「はっ? …ええ!!」


 リーシャが連れて来た客人はまさかの国王と王弟だった。

 驚きのあまり思わず大きな声を上げてしまったが、その反応が面白かったのか、ギストルは笑っていた。


「リーシャが保護したっていう子が美味しい物を作ってくれると聞かされてな。それがどうしても気になって、つい押しかけてしまったんだ」


(え? まさか食べ物に釣られて来ちゃったの!?)


 ギストルの言葉に芽衣はまた驚いてしまった。

 先程から目を丸くして驚いているばかりの芽衣にリーシャはコホンと咳をした。

 それが合図だったように、ギストルは先程までの楽しそうな表情から真剣な表情になり、芽衣をジッと見つめてきた。


「うむ、実は今日来た理由の半分は料理だが…確認したいことがある」


 急に室内の空気が変わったので、思わず緊張してしまう。


「今日はあまり時間がないので早速本題に入らせてもらうが…まずメイは異世界人で、異世界の商品を取り寄せ出来るスキルを持っている。それは間違いないか?」


「は、はい。そうです」


「そして将来的にはその取り寄せた商品を販売したいと…」


「はい。出来るならそうして生きて行きたいと思っています」


(生活するためにはお金は必要だし、何より知っている便利な物(100円商品)を使いたいし。でももし販売許可が出なかったら、私だけ使って…あっ美月さんたちにはこっそりと渡すとして、別の仕事を考えたり探したりしないと…)


 グルグルとそんなことを考えていると、芽衣の意思を確認したギストルは少し時間を空けて静かに頷いた。


「…そうか。だったらまずは商業ギルドへの登録と、店舗を確保しなくてはいけないな」


「事前に商業ギルドにもメイちゃんのスキルのことを話しておかないといけないよね」


 ギストルとリーシャが話し合い始めた。次々と色々な意見が出てくるので芽衣は混乱していたが、その間にもギストルは事前に用意していたらしい紙に何かを書き込んでいく。


「それとそのスキルが知られると、物珍しい商品が買えるという理由でメイが狙われる可能性がある。そこで護衛兼相談役にデュオルを付けようと思う」


「デュオルはどう? メイちゃんの護衛を引き受けてくれる?」


 すると今まで黙っていたデュオルだったが、ゆっくりと頷いた。


「ええ、引き受けましょう。俺には爵位も管理する領地も今のところないので自由に動けますし、何より彼女の護衛は色々楽しそうなので」


「じゃあ決まりってことで」


 どんどん話が決まっていき、芽衣は戸惑う。


「ちょっ、ちょっと待って下さい!! 私に護衛って?」


 貴族ではないので、まさか自分に護衛がつくとは思っていなかった。


「えっと…私は庶民なのでいきなり護衛が付くと云われても…」


 美月たちからは護衛が付いているなんて話は聞いていない。もしくは聞かれなかったので話さなかっただけかもしれないが…。

 困惑する芽衣にリーシャが今後のことを説明してくれた。


「メイちゃんのスキルは我々が知る中でもかなり特殊な物だから、その力を知った悪人に狙われる可能性が高いんだ。そしてどこかに閉じ込められて、商品を取り寄せるだけの日々を送らされるかもしれない。そうならないために護衛が必要」


 云われたことを思わず想像してしまい、芽衣はゾッとしてしまった。好きに出歩くことも出来ず、気分転換に料理を作ることも出来ない。そんな生活は嫌だ。


「それとこっちのこともまだ知らないことが多いでしょう? だからデュオルには暫らく護衛兼教師役になってもらおうかな?って」


「えっ!?」


 護衛以外の仕事もさせちゃうの?と思っていると、デュオルは頷いていた。


「メイちゃんがどうしても嫌だって云うなら、せめて自分の身を守ることが出来るまでの間だけでもいい。それにデュオルが近くにいてくれれば僕たちも安心出来る」


 護衛という言葉には正直驚いたが、確かにまだこちらの世界のことをあまり知らない。色々教えてもらえるのは嬉しいが、それでも王弟に子守みたいなことをさせてしまうので申し訳なく思った。そもそも本人はそれで納得しているのだろうか?


「あの…デュオルさんは本当に私なんかの護衛をしてもいいんですか?」


 芽衣の口から本人に再度確認してみる。するとデュオルは頷いた。


「はい。君といると美味しい物や刺激的なことがありそうなので、こちらこそ受け入れてもらえると嬉しいです」


「…」


 デュオルの云う刺激的なことが何かは分からないが、本人はすでにやる気を出しているようなので、芽衣は素直にデュオルのことを受け入れることにした。


「それじゃ…これからよろしくお願いします」


 ペコッと頭を下げると、デュオルはフッと笑った。


「こちらこそよろしくお願いします」


 こうして芽衣は護衛兼相談役を手に入れた。


「さて話もまとまったことだし、今のうちに印も付けておこう」


「!」


(そうだ。美月さんも印が…とか云ってたっけ)


 その印がどういう物だかは知らないが、芽衣はギストルに云われるがまま右手を差し出した。

 芽衣の手を取ったギストルが何やら呟くと、人差し指に光が集まり始める。一体これから何が起こるのか不安になっていると、集まった光がパンッと弾けた。


「ひゃっ!」


 驚きのあまり変な声が出てしまった。そして恐る恐る人差し指を見ると、そこには小さな宝石のような物が埋め込また指輪が嵌っていた。白い石だからか、それとも明かりの影響なのか、薄っすら光っているようにも見える。


「よし、これで大丈夫だろう」


 指輪が付いたことを確認したギストルはそう云った。


「あの…これって…」


 そもそも印のことを詳しく知らないので、芽衣は訊ねてみた。


「ああ、これは印だ。この石…白い色はユイオン王国の重要人物だという証明でもある。だからこの石の印を持つ者は国の庇護を受けているということになる」


 よく見て見ると、ギストルとデュオル、リーシャの指にも芽衣と同じような指輪があった。ちなみに国によって石の色は違うので、そのことを知っている人からすれば、すぐどこの国の庇護者か分かるらしい。

 更に似たような石を使って詐欺をする人たちもいるらしいが、本物の石は微かに光りを放っているのですぐ見分けがつくそうだ。


「そしてこの指輪の持ち主に危機があると、強い光を放って教えてくれる」


(それってこの指輪は防犯ブザー的な役割をしているってことなのかな?)


 そんなことを思いながら芽衣は話を聞いていく。


「指輪は持ち主以外には外せないようになっているが、常に身につけておくことを勧める」


「分かりました」


 ギストルの説明を受けて、指輪は外さないようにしようと芽衣は決意した。




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