021
明日のメニューについて考え続けた結果、どんな物を出せばいいのか分からなくなってしまったので、最終的にはトランと話してから決めることにした。
グルグルと考えすぎたせいで睡眠時間は短くなってしまったが、それでも朝食前にはちゃんと起きることが出来たので、今日もリーシャと一緒に朝食を済ませることが出来た。朝食後はすぐに厨房へと向い、今晩の話をする。
既にトランたちも来客の話は聞いているようで、やる気満々で厨房の掃除をしていた。
「質問なんですけど、いつもお客さんが来る時はどんな料理を出しているんですか?」
何か参考になるかも…と訊ねてみたところ、トランは胸を張って堂々と答えてくれた。
「肉だ」
「え? お肉?」
「ああ。大きい肉をこうドーンと焼いたやつだな」
「…」
(やっぱり例のお貴族様仕様の料理なんだ)
芽衣は心の中でそう思った。
「それじゃお肉以外のメニューは?」
肉以外の料理は何だろう?と疑問に思ったので聞いてみると、肉以外ではパンかパスタとスープにサラダ、あとは二品ぐらいを出しているという。
多分今日の客も貴族だろう。そうすると自宅でもほぼ毎日同じ物を食べていると思うので、やはり変わった物を出そうと思った。
そこで芽衣は昨日考えたメニューをもう一度思い出す。
(えっと、今までだったらお肉はステーキ一択。でもステーキ以外にもメニューは色々あるから…)
「う~ん…」と唸りながら考えに考え、ふと目に付いた野菜を見て思いついた。
芽衣が思いついたのは野菜の肉詰め。ピーマンやパプリカ、トマトや玉ねぎ等の野菜をくり抜き、その中心に細かくした肉を詰めて焼く。これなら彩り豊かなので、食卓も華やかになるだろう。
「あっ、それじゃ野菜の肉詰めは?」
早速トランに相談してみると野菜の肉詰めは知らなかったようで、調理方法を伝えると面白そうだと云うので採用されることになった。
今日使う野菜は食べやすさを考えて、ピーマンとトマト、それと玉ねぎを使うことにした。早速料理人たちに各野菜を用意してもらい、ピーマンは縦半分に切ったものと、輪切りにしたものを用意した。
(今日のお客さんがピーマン苦手な人かもしれないし…)
そう考えながらも今度はトマトと玉ねぎは上部分を切り、ある程度中身をくり抜いて見せた。
作業を見ていたトランたちは目を輝かせていた。
「野菜を器にして、そこに肉を入れるのか…」
「他の野菜でも出来そうだな」
料理人たちにどんどん野菜を切ってもらい、豚肉を細かく切ってもらった。
その間に他のメニューについて考える。今回は野菜の肉詰めをメインと考えているが、男性には少し物足りないかもしれない。ステーキも用意した方がいいかもしれない。
(でもステーキは食べ飽きてるかもしれないから…何か違う物を…。そうだ! 同じステーキでも鶏肉や豚肉にしてもいいかも!!)
思いついたことをトランに話してみると、最初は難しそうな顔をしていたが「やってみよう」と云ってくれた。
了承は得られたが、トランの表情から芽衣は不安を感じた。
「トランさんが何か考え込んでいたようなんですけど…もしかして、食材が足りないんですか?」
気になってこっそりトランに訊ねてみると、首を横に振られた。
「いいや。鶏肉たちで牛肉のように大きくてボリュームのあるステーキが出来るか不安だったんだ」
「…」
どうやらサイズを気にしていたようだ。鶏肉も豚肉も上手にカットすれば、大きなステーキが出来る。実際に完成した物を見ればトランの心配はすぐ消えるだろう。
芽衣は気を取り直して他のメニューを考える。
口直し用にサラダとスープを用意する予定だが、それ以外の物も何か欲しかった。
(ステーキ…お肉…といったらジャガイモ? 人参? 揚げる?? それとも焼く?? …いやいや、肉詰めは焼くから…)
芽衣は必死に飲食店のメニューを思い浮かべた。だいたい肉メニューにはジャガイモか人参、ブロッコリー等が添えられていたなと思い、それらをどんな調理法にするか悩んだ。
そして悩みに悩んだ末、芽衣はマッシュポテトを作ることにした。これならそのまま食べても良いし、肉やパンの上に乗せて食べることも出来る。
しかしただ普通にマッシュポテトを添えるだけではインパクトがない。それならソマリや客人を楽しませるためにも見た目を綺麗にしてみては?と考えた結果、以前祝いの席で一度だけ見た、ケーキ風に仕立てたマッシュポテトのことを思い出した。これなら可愛らしくも豪華に見えるだろう。
早速料理人たちにジャガイモを茹でてもらい、熱いうちに潰してもらう。ほど良く潰れたジャガイモに軽く塩コショウで味を付け、出来上がったマッシュポテトをクッキー用の丸型の中でも一番大きな物にしっかりと詰め、綺麗な丸型になるように成型する。
その上にペースト状にした人参と茹でて刻んだブロッコリーを乗せ、もう一度丸型に詰めたジャガイモが崩れないように、それらの上に慎重に乗せて飾り付ける。最後に飾り用に小さく切ったトマトを乗せてケーキに見立てた。そのまま食べても良いし、崩して肉などと一緒に食べても良いマッシュポテトが完成した。
初めて見るケーキ風に仕上げたマッシュポテトに料理人たちは興奮していた。
「綺麗だ!」
「美しい! 食べてしまうのが勿体無い」
料理人たちの反応から、ケーキ風マッシュポテトの美しさからか、野菜の肉詰めよりもインパクトが強かったようだ。
しかしまだ二品しか作っていないので、急いで次の作業に移る。
トランたちには豚肉を厚めに切ってもらい、それを叩いて伸ばしてから塩コショウをし、焼いてもらう。
それと同時進行で野菜たっぷり――肉詰め用にくり抜いた部分も入れたスープとサラダを作る。サラダは昨日ソマリが気に入ってくれた柑橘系ドレッシングにした。
それから夕食用のパンはいつも出ているパンとは別に、軽くトーストした物も用意することにした。これならふわふわパンとサクッとした食感の二種類のパンを楽しめるはず。
こうして出来上がった本日のメニューは野菜の肉詰め、豚肉のステーキ、ケーキ風マッシュポテト、柑橘系ドレッシングのサラダ、野菜スープ、パン二種だった。
「なんて云うか…完成したら野菜が中心のメニューになっちゃった…」
出来上がった料理を見て、芽衣は思わずそう呟いてしまった。今となっては来客が野菜嫌いではないことを祈るしかない。
「でも野菜は健康に良いって云うし…」
そう自分に云い聞かせながらも、今日も料理人たちと味見という試食会兼意見交換会を行なった。
 




