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002

「それじゃまずは僕の家に行こうか」


「はい」


 無事王都に辿り着いたとしても、初めての場所でどこに行けばいいのか分からなくなるはずなので、ただ只管リーシャの後に付いて行くことにした。

 リーシャも突然森から現れた芽衣に対して色々と聞きたいことはあるようだが、今いる場所ではいつ魔物が出てくるか分からないと云われ、必要最低限の会話しかしなかった。

 どうやらこの森は夕方になると様々な魔物が現れるため、防衛手段が一切無さそうな芽衣を早く安全な所へ移動させることを優先してくれたようだ。


(魔法や魔物が存在する世界…。やっぱりここが本当に異世界だとしたら、日本に帰れる確率は低いかもしれない…)


 これが夢であって欲しいと願いながら必死に足を動かした。

 なるべく急ぎ足で森から離れ、ようやく人通りのある道に出た。その後リーシャの歩みがゆっくりとなり、休憩を入れながらこれから向かう王都について話してくれた。

 王都はその名の通り、王の住む立派な城や貴族街、そして大小様々な店や家々が多いという。そこで生活している人々や冒険者、そして近隣から商売に来ている人たちで毎日活気付いているそうだ。そんな話を聞いていると暗い考えなどあっという間に吹き飛んでしまい、歩きながら一生懸命王都の様子を想像し始める。


(王都だからあちこちから珍しい物が入ってくる、ってリーシャさんは云ってたけど、どんな物があるんだろ? 可愛い物とか売ってるのかな? あっ、でもすっごく気になるのはやっぱり食事! お米はあるのかな? この世界ならではの料理ってどんな物なんだろう? やっぱり見たことのない食材とかあったり? あ~どれも美味しいといいな~)


 芽衣の母親は働いていたため、中学生の時から少しずつ自分で料理をするようになった。そのため今では自己流だが自分の好きな物が作れるようになり、更にはTVやネットで話題になったレシピを調べて再現してみたり…と自分なりに頑張ってきた感はある。


(それに折角異世界に来たんだったらその土地の美味しい物を食べてみたいよね)


 そんなことを思いつつ、森から人通りの多い街道を歩いて30分程歩いたところでようやく王都らしき入り口に着いた。


「さ、ここが王都だよ。今日は僕の家でゆっくりするといいよ」


 ニコッとリーシャは笑う。

 芽衣は改めて王都を見上げる。

 目の前には高さ二メートル以上がありそうな、何者も侵入を許さないというように聳え立つ分厚く立派な城壁。そのおかげで街の様子はここからでは見えない。

 そんな立派な城壁に存在している出入り口と思われる門はとても大きく、右側に徒歩らしき人々が並んでおり、左側には馬車が列を作って並んでいた。

 どうやらここから先は門番たちが一人ずつ調査をしていき、門番たちに許可を得た人だけが中に入れているようだ。

 ずらりと並んでいる人々を見ていると、リーシャが話しかけてきた。


「本来なら門で身分証を提示してもらうんだけど…」


 改めて芽衣をチラッと見たリーシャは少し考え込む。


「詳しい話はまた後で聞くけど、身分証は持ってないよね?」


 どの身分証でもいいのなら、免許証と学生証は持っている。だが、リーシャが訊いているのは多分この世界の身分証のことだろう。


「…はい」


「そっか…。それじゃ今回だけ使える裏技を使おう」


「?」


 首を傾げる芽衣にリーシャはニコッと笑った。


「門番に身分証のことを聞かれたら『盗賊に奪われた』って云ってね」


「え?」


 リーシャの言葉にもう少し詳細を聞きたいと思ったが、当のリーシャは並んでいる列を無視してどんどん門へと進む。


(皆順番待ちをしているのに…無視しちゃっていいのかな?)


 付いて行った方がいいのかきちんと並ぶべきか一瞬悩んだが、ここではぐれてしまってはいけないと慌ててリーシャの後を追いかけた。

 堂々と門へ近づくリーシャに気付いた門番の一人が慌てて駆け寄って来て、敬礼と共に声をかけてきた。


「これはリーシャ様。本日の練習はもうよろしいのですか?」


 門番の丁寧な口調から、リーシャが宮廷魔術師として知られている人なのだと改めて思い知らされた。

 当のリーシャもそういった対応に慣れているのか、ゆっくりと口を開いた。


「ああ。それで森の近くで盗賊に追われていた子を見つけたのだが…」


 今までの優しい口調とは違い、凛々しい口調に芽衣は驚いた。

 凛々しいリーシャを見た芽衣は、これからはリーシャに対する態度や口調を改めなくてはいけないかもしれない、と思った。

 すると門番の方はリーシャから『盗賊』という言葉聞き、ハッとしたように芽衣を見た。


「それでその盗賊はどうなったのですか?」


「僕がちょっと魔法を使って追い払った。相手は相当怪我をしただろうから、当分は動けないと思うし、放っておけばそのまま命を落とすと思う」


 リーシャが追い払ったと聞き、門番はホッと息を吐いた。


「そうですか…。それで失礼ですがあなたの身分証は?」


 そう問いかけられて、芽衣はハッとした。確かリーシャから云われたことは――


「それが…盗賊に…」


 これだけ云えばなんとかなるはず。

 盗賊の話は全く嘘なので、この真面目な門番を騙すのは申し訳ない。

 罪悪感からか小さな声でなんとか伝えると、芽衣の言葉を聞いた門番は悲しそうな顔をした。その後のやり取りもリーシャがしてくれた。

 一応バッグと袋は所持しているが、それはリーシャが唯一取り戻すことが出来た物だが、残念ながらバッグの中身は全て盗賊に奪われた後だった。だから身分証も金銭も何も持っていない、ということ。

 それらの話を聞いた門番は少し考えた後、連れて来たのがリーシャということで特別に許可してくれた。


「…本来ならこちらで身分証の紛失・再発行に必要な審査を受ける決まりなのですが、今回はリーシャ様がご一緒ということなので、特別に王都内で再発行の手続きをしていただいてもかまいません。そのかわり、リーシャ様はきちんと身分証の再発行手続きまでお付き合いしてあげて下さいね」


「分かってるよ」


 どうやらリーシャの知名度により、特別に許可を出してくれたようだ。


「それでは、自分は職務に戻りますので」


「ありがとう」


 門番はきっちりと敬礼をするとすぐに持ち場に戻って行った。


「それじゃ行こうか」


「はい」


 リーシャに促され、芽衣ははぐれないように慌てて後を付いていく。リーシャも芽衣の歩調に合わせてくれているのか、ゆっくりと門を潜り抜け、無事王都に入ることが出来た。




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