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019 * リーシャside *

 屋敷に招待した二人と芽衣が話している頃、リーシャは再び王城へと戻って来た。

 二ヶ月ほど放置していた書類や各報告などが溜まってしまったため、昨日ついに呼び出されてしまったのだ。

 リーシャとしては当日中には終わるだろうと思っていたが、実際にそれらを目の当たりにした途端、これはもう数日時間がかかると思ったので、急ぎの書類だけ処理することにした。

 書類を片付けながらも時間が許す限り魔術師や文官、騎士団からの報告や相談を受けた。

 一日では処理出来なかったので、今日こそは全て終わらせると意気込んで、自身の執務室で黙々と仕事をしていた。


「最初は王宮勤めなんて面倒だと思っていたけれど、でもそのおかげでソマリやメイちゃんに出会えたことには感謝しかないのかな」


 苦笑しながらもリーシャは書類に目を通し、必要であればサインをして片付けていく。

 元々リーシャは物心ついた時から魔法に興味を持ち、毎日魔法書を読んではこっそりと練習をしていた。そして魔法が大好き過ぎて、将来は魔法の研究者になろうと思っていた。毎日殆どの時間を魔法の勉強に費やしているリーシャを両親も温かく見守ってくれていた。

 魔法に対する思いが人より強いリーシャは、魔法学園に入学する前には自身で考えた魔法陣まで書くようになった。そしてそれが本当に使えるのかを日々試していた。

 無事学園に通うことになった後もリーシャは他の生徒たちとは違い、軽々と課題をクリアしていく。そうして余った時間は魔法の研究や実験を繰り返し、そのおかげで魔力はどんどん増え、そして強力な魔法も使えるようになった。

 学園在学中から魔法に対する熱量が他の生徒たちより強い――ということで周りから注目されていたが、学園卒業時にリーシャが国内一の魔力を持っていることが分かると、今まで以上に周囲が騒がしくなった。リーシャ本人としてはこの先も大好きな魔法の研究が出来れば良いと思っていたので、それ程回りのことは気にしていなかった。

 しかしリーシャに膨大な魔力量があるということで、貴族たちから注目されるようになった。ある者は娘の結婚相手に、ある者は家の専属魔法士に…と、様々な勧誘を毎日のように受け、リーシャは疲れ切っていた。

 拒否するのにも時間をとられ、思うように魔法が使えない。もう国を出ようかとさえ思っていた。

 そんなイライラした日々を解消(?)してくれたのが、現国王――当時は王太子殿下だったギストル・ユイオンだった。ギストルも毎日勧誘をしてくるので、当初は毎回それを断っていた。

 リーシャの予想では、王宮勤めになるとがっちりと国に拘束され、自分の好きなことが出来ないと思っていたので何度も断っていた。だがそれでも向こうは決して諦めず、一日に一回は必ずリーシャの前に現れては熱心に勧誘してきた。そうした毎日にウンザリしたリーシャは最終的には「好きなことをする時間をくれるのなら…」と頷いてしまったのである。

 ちなみにギストルがリーシャを勧誘していることを知った貴族たちは、徐々に勧誘してくる者が減っていったので、そのことには少しだけギストルに感謝した。

 その後ギストルの采配なのか、リーシャは王宮勤め初日に宮廷魔術師のトップになってしまった。年齢的にも魔術師の中で一番下の雑用係からスタートだと思っていたので、突然の辞令に酷く驚いてすぐにギストルに抗議しに行ったことは懐かしい。


「はぁ…早くこの書類を片付けて、新しい魔法陣を考えたいな~。でもその前にメイちゃんのことか…」


 ぼやきながら山積みになっている書類を片付けていく。本来なら魔法陣の改良をしたいところだが、今はさっさとこの書類を片付けてギストルに芽衣のことを報告しなければならない。


「普通に伝えればいいかな…」


 昨日は忙しすぎて芽衣のことを報告する時間がなかった。元々異世界人のことは国に報告する義務がある。しかしリーシャは芽衣がこちらに慣れるまでの数日は様子を見るつもりだったが、リーシャが今日異世界人を屋敷に招待したことですぐバレるだろう。

 悩みに悩んだ末、ある程度の仕事を片付けたリーシャはギストルに面会を求めた。するとギストルの方もリーシャに話があるようで、すんなりと面会許可が出た。

 指示された時刻にギストルの執務室へ行くと、ギストルが紅茶を飲んで寛いでいた。


「遅くなりました」


 慌てて頭を下げると、ギストルが「俺の方が早く着いたんだ。かまわない」と声をかけてきた。

 リーシャがソファに座るとすぐにメイドがリーシャの分の紅茶を用意してくれた。そして最低限の準備が終わるとギストルは人払いをした。メイドや護衛の兵士たちが退室し、二人きりになったところでギストルが話しかけてきた。


「で? お前から話があるとは珍しいな。何かあったのか?」


「その前に…」


 この室内には二人しかいないが、部屋の外には護衛の騎士たちがいる。

 あまり話を聞かれたくないので、リーシャはギストルに断りを入れてから防音も兼ねている簡易の結界魔法陣をテーブルの上に置いた。

 魔法陣に魔力を注ぎ込むと、薄っすらと膜のような球体が二人の周囲を覆った。


「…実は一昨日、異世界人と出会った」


 結界魔法も使用しているので、いつものように素っ気無い口調で告げるとギストルはとても驚いていた。


「なんだと? 新しくこちらに来た異世界人か?」


「そう。彼女――メイちゃんを今僕の家で保護している」


 きちんと保護されていることにギストルは安心したようだった。


「…でもメイちゃんのスキルは珍しい物だから、目をつけられると思う」


 昨日芽衣から教えてもらった特殊スキルで取り出した物。あれを今以上に上手く使えるようになると、それを利用する者が現れたり、悪意ある者に攫われたり――最悪は妬んだ者に殺されてしまうかもしれない特殊なスキル。

 リーシャの顔が強張ったことに気付いたギストルは眉を寄せた。


「…それ程凄いスキルなのか?」


「うん。メイちゃんのスキルは異世界の商品を取り寄せられるんだ」


「なんと!!」


 ギストルは驚きのあまり目を見開いていた。

 今までラスターニャにやって来た異世界人は、この世界に何らかの革命と恩恵を授けていた。特にトイレに関しては数年もかけてようやく出来た物だし、作物のアドバイスや舗装された道を作るためのアドバイス等々。今はとても暮らしやすくなってはいるが、しかしそれらを実現させて各地に普及するまでにはとても長い時間がかかった。

 そして現在ユイオン国内にいる異世界人は二人で、その二人共が王都で暮らしている。料理人の方はまだ見習いだが、今後は何かしら革命を起こしてくれそうだと思っていたが、それよりもっと影響力のありそうな人物が現れてしまった。


「…そうか…そんなに珍しい品が…」


 沈黙の後、ギストルが小さな声で呟いた。


「スキルの使用制限はあるけど、とても凄いスキルだと思う。それに実際にその品を見せてもらったけど、本当にビックリしたよ」


「何!? 実際に品を見せてもらっただと!? なんと羨ましい!!」


 リーシャが見せてもらったと伝えると、ギストルは興奮したように大きな声を上げた。

 自身でも興奮したことが分かったのか、「あ~」と云いながらコホンと咳をした。


「それで? 彼女は今後どうしたいと云っている?」


「メイちゃんはそのスキルを使って商売をしたいそうだ」


「むぅ…」


 ギストルは暫らく考えた後、頷いた。


「…きっとその子は今までの異世界人たちのようにラスターニャに革命と恩恵をくれるのだろう。多少危険なことになろうとも好きにさせてやるのがこの世界の望みなのかもしれないな」


「…そうだね」


 ギストルの言葉にリーシャは小さく頷く。そんなリーシャにギストルがニヤリと笑う。


「そもそも悪人が手出しできないように、その子の周辺にはお前が陣を書くのだろう?」


「勿論。そうすれば大抵のことは防げる」


 万が一芽衣に危険なことがあればリーシャとソマリ…それと料理人たちも悲しむだろう。


「そうだな…あとは…俺から守護の印と、念のため護衛を用意しよう。そうすればある程度の安全は保障されるだろう」


「印は分かるけど、護衛?」


 国で保護する異世界人にはその国から守護の印を渡される。こうして報告したのだから、芽衣にも渡されると思っていた。しかしギストルは更に護衛を付けると云った。

 予想外のことに驚いていると、ギストルは「それにアイツは暇そうだからな」とポツリと呟いた。

 ギストルの口調から多分あの人だろうな…と予想しながらも、国王本人が芽衣のことを真剣に考えてくれているのだから、リーシャはそれを素直に受け入れることにした。


「ありがとう」


 すぐにリーシャが頭を下げると、ギストルは一瞬驚いた後、豪快に笑った。


「ハッハッハ。お前が頭を下げるなんて滅多に無い。それに彼女の力は興味深い」


「そう。メイちゃんが…彼女たちの世界の物は非常に珍しい。それにメイちゃんが作ってくれた料理も美味しかった」


 実際に作ったのはトランたち料理人だが、それの作り方を教えたのは芽衣だ。だから云い方としては間違っていないと思う。

 それに今日も何か作ると云っていたので、どんな料理が出てくるのだろうと考えていると、ギストルは「う~ん…」と唸っていた。


「よしっ! 明日俺が直接その子に会ってみよう。だから夕飯は俺と…アイツの二人分を用意してもらえるか?」


「…分かったよ」


 いつかはギストルに芽衣を紹介しなくてはいけないと思っていた。しかも芽衣のスキル上、なるべく早い方がいい。ただそれが少し早まった…屋敷に突撃されることになっただけ。そうリーシャは思うことにした。


「で、そっちの話は?」


 芽衣の話を終えると、ギストルは「うむ」と頷いた。


「国境のコルディオ周辺で魔物が増えているらしい。調査とその対応をしてもらいたい」


「そっか…それじゃ早い方がいいね。明日は君が来るから…明後日出発でもいいかな?」


 魔物が国境周辺で暴れまわっているのなら早めに対処しなくてはいけない。それが長引けば長引く程他国から商品や人が入って来なくなる。


「うむ。兵たちにも準備させているからよろしく頼む」


「分かった」


 リーシャは頷いた。

 さて明日ギストルは芽衣とどんな話をするのかを気にしながらも、リーシャは屋敷へと帰って行った。





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