017
つい料理の話で盛り上がってしまったが、芽衣のことを知りたい美月は話が途切れたところで、わざとらしく「コホン」と咳をして話を切り替えてきた。
「思わず料理の話で盛り上がっちゃったけど、そろそろ別の話をしてもいいかな? ずばり率直に聞いちゃうけど、芽衣ちゃんのスキルはどういうのなの?」
しっかりと二人のスキルを聞いてしまった後なので、芽衣もちゃんと答えなくてはいけない。何より同じ日本から来た者同士、これから先協力していくこともあるだろう。
心の中でそう頷いて、芽衣は口を開いた。
「…その前に一つお願いしてもいい?」
「?」
「私のスキルのことはまだ他の人に教えないで欲しいの」
念押しする芽衣を見て、二人は真剣な表情になった。
「それは…とっても凄いスキルってことなのね?」
美月の問いにコクンと頷く。
「…分かったわ。芽衣ちゃんの許可が出るまで内緒にしておくわ」
「僕も」
すんなりと二人が同意してくれたので、芽衣はホッと息を吐いた。そして何度か深呼吸をくり返して告白をする。
「ありがとう。…私のスキルは、日本の商品を取り寄せること…みたい」
思い切って告白してみたが二人は黙ったままだった。が、暫らくするとスキルの内容を理解したらしく、「おお!!」と歓喜の声を上げていた。
「何それ! とっても羨ましいわ!! えっ、それって化粧品とか洋服とかも取り寄せることが出来るのかしらかしら??」
「例えばどういう物が取り寄せできるの!? レシピ本とか、醤油や味噌とかの調味料なんかも取り寄せできるの??」
早口で話し、更には目をキラキラさせて問いかけてくる二人に芽衣は少し戸惑ってしまった。
「えっと、私が取り寄せ出来るのは100円ショップで売られている100円商品だけだから、そんなに期待されても…」
期待を裏切ってごめんなさいと謝ると、美月は更に声を張り上げた。
「私達が勝手に興奮しちゃっただけなんだから、芽衣ちゃんは謝らなくていいのに…こっちこそごめんなさいね」
「僕も興奮しちゃってごめん。でも今の100円ショップには色々な物があるよね」
航太からも謝罪を受けた。
芽衣こそ期待させるようなことを云ってしまって申し訳ないと思っていると、二人は羨ましそうに芽衣を見ていた。
「それにしても私のスキルとは違って、芽衣ちゃんのスキルは便利だし、とっても羨ましいわ。…確かに向こうで使っていたメーカーの物とは違うけれど、それでも今まで身近にあった化粧品や日用品、食料品まで手にすることが出来るだなんて…」
「それに収納用品や調理グッズ、文房具なんかもあるし、何よりレトルトや調味料なんかも売っているから、どんどんレシピの幅が広がるし、何より日本食が懐かしい」
興奮した二人は芽衣に懇願してきた。
「「お金は払うから買わせて!」」
芽衣は即座に頷いた。
「うん、それは勿論いいけど…このスキルは個数制限があるから、今回は一人二個だけでもいい?」
まだレベルが上がっていないので、一日に購入出来る数は少ない。
個数制限をして申し訳ないと謝ると、二人は「それだけでも助かる! ありがとう!」と笑みを浮かべていた。
まず美月が希望したのは石鹸。種類の多い石鹸からどれを選べばいいのか分からなかったので、実際にスマホ画面を見せながら選んでもらった。次は乳液を。これも数種類あったので、本人に選んでもらった。
(美月さんが石鹸を希望したということは、やっぱり石鹸は売れる??)
そんなことを思いながらも、次は航太の希望を聞いてみた。
すると航太は「醤油はある?」と聞いてきたので、検索してみたら何種類かの小さい醤油と1Lボトルの醤油があった。一度航太に確認をしてから1Lの醤油をカートに入れた。
その次に希望してきたのはなんと海苔の佃煮。どうやらこれはパスタと和えたり、トーストしたパンに塗ったり…と使い方があるらしい。そして何より和食が恋しいと云う。
(なるほど。今度私も試してみようかな)
そう思いつつも、スマホを操作する。その時に二人へのプレゼントとしてポケットに入るサイズのメモ帳とボールペンを購入した。これは芽衣からのプレゼントなので、代金を受け取るつもりはない。
カートに入れた物を現金で支払いし、バッグの中から今購入したばかりの商品が入って居る袋を取り出した。一応中身を確認してから二人の前に置いた。
「はい、これ…」
ボンッとテーブルの上に商品を並べると、二人はとても喜んでいた。
「石鹸と乳液だ! ありがとう芽衣ちゃん!!」
「醤油…これがあれば!!」
希望した商品を手にした二人は何度も「ありがとう」と繰り返していた。今まで当たり前のようにあって、当たり前のように使っていた商品を再び手にすることができたからか、二人はうっすらと涙を浮かべていた。
「あと、これは私からプレゼント」
そっとメモ帳とボールペンを差し出すと、これも喜ばれた。
「え? これもいいの!? 勿論このお金もちゃんと払うわよ?」
「こんな便利な物を…。この代金もちゃんと支払うよ」
二人はメモ帳とボールペンの分も支払うと云ったが、芽衣は首を横に振って断った。
「その代わりと云っては変かもしれないけれど、今後も色々教えてもらえれば…」
「そんなの当たり前よ! 私たちは仲間で、友人なんだから」
「そうだよ。これも何かの縁なんだよ。遠慮なんてしなくていいんだから」
「…ありがとう」
芽衣は知り合えたのがこの二人で良かったと思った。
そして当初の約束通り、硬貨を受け取った。この時も金額のことで少し揉めたが「元々100円商品だから同じ金額で」と芽衣が告げると、二人は渋々と硬貨を二枚ずつ出した。
…が、この硬貨の相場が分からない。
「…早速だけど、この世界のお金が分からなくて…。お金のことについて聞いてもいい?」
思い切って訊ねてみると、二人は「勿論!」と云って、快く教えてくれた。
「まず今出したのは銅貨。これは日本円で云うと1枚で100円ぐらいかしら」
確かに銅貨が4枚テーブルの上に置かれている。ということは400円相当ということになる。
「半銅貨…この銅貨を小さくして四角い物が半銅貨って云って、それは1枚で10円かな」
そう云って航太は実際に半銅貨を見せてくれた。
「これは屋台や地方でよく使われているみたい。で、街でよく使われているのが銀貨。これは1枚1,000円。その上は金貨。これは10,000円ね」
今度は美月が銀貨と金貨を見せてくれた。芽衣は頷きながら早速ノートに硬貨のことを書いていく。
「それから滅多に見る機会はないけれど、金貨の上は黄金貨って云うのがあって、それは1枚100,000円。更にもっと見る機会が無いけれど、大金貨は1枚1,000,000円…ってところかな」
硬貨について簡単に教えてもらい、芽衣は感謝した。
(…ってことは、昨日リーシャさんに貰った袋の中は銀色だったから銀貨? それにしては随分枚数多かったような…)
芽衣には知らされていなかったが、外で気兼ねなく買い物が出来るようにとリーシャが銀貨を多めに用意してくれていたのだ。
暫らくスキルや硬貨について話していたが、芽衣が「いつかこのスキルを使ってお店を持ちたい」と告げると、二人は相談に乗ってくれた。
「売れる物…そうだ、化粧品なんかはどう? こっちにも化粧品類はあるけれど、ちょっと高い割にはイマイチなのよね。しかも100円ショップには化粧品類が多く売っているでしょう? こっちの物より種類も多いし、女性たちは絶対買うと思うわ。…というか、何より私が欲しい!!」
「僕は保存容器とかあれば便利だな~とは思うよ。それがあれば屋台で持ち帰りするのも楽だし、作りすぎた料理を入れて置けるし」
「あっ、それいい! 持ち帰り容器があると便利よね~」
二人から参考になりそうな商品が次々と出て来るので、芽衣は聞き漏らさないよう必死にメモをし続けた。
PCの不調・体調不良等で随分更新が遅くなりました(>_<)
次回からはまたいつも通り水曜更新の予定です




