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016

 その後も二人からスマホについての不満を聞いた。

 全員が共通して思っていることは、今まで使っていた複数のアプリが消えてしまったことに悲しんだこと。その中でも何気なく使っていたメモが出来るアプリが無いことに嘆いたこと。

 勿論芽衣も初日は落ち込んでいたが、今は購入したノートがあるのでそれ程困っていない。

 しかし料理人である航太はメモ帳があれば…と常に思っているようで、「レシピを覚えたいのにその場でメモすることが出来ない。自室に戻ってからメモすると少し忘れちゃったり…」と、今まで当たり前のようにあった物が無くなってしまったことを淋しそうに話していた。


(確かに時間が経つと忘れちゃうことってあるよね)


 芽衣はうんうん、と頷きながら話を聞いていた。

 暫らくはこの世界に来てからの不便さを語っていたが、どうしても落ち込む一方なので、話題を変えて各自のスキルについて話すことになった。

 芽衣のスキルについてはリーシャから安易に話さないように云われていたが、この二人なら内緒にして欲しいと云えば約束を守ってくれそうだと思った。

 そして思い切って二人のスキルを聞いてみれば、美月は音声アプリ、航太はレシピアプリだとすぐに教えてくれた。

 美月の音声アプリは録音や再生が出来るので、職場――冒険者ギルド内でたまに活躍していると云う。


「ほら冒険者って気が強い人もいるでしょ? そう云った人たちを脅す…えっと、注意するためにギルマスの声を録音した物を流したり、依頼内容や達成の虚偽なんていうのもあるから、そういう時に役立ってるわ」


 職業や使い方を選ぶスキルだが、自分の身を守るためにはとても役に立ちそうだと思った。

 航太のレシピアプリは羨ましいと思ったが、よく聞いてみると何故か自分が作った物しか載らないらしい。なのでこちらの世界の料理は勿論、日本で作ったことがある物や知っているレシピは載っていないと云う。

 これで作り方を知らない料理も色々食べることが出来る!と密かに期待していた芽衣は少し残念に思った。


「だから休みの日はなるべく外に出て、屋台巡りとかをして研究してるし、覚えているレシピを再現してみたり…」


 航太一人できちんと最後まで作ればレシピに登録されるらしいので、休みの日も料理研究をして過ごしていると云う。


「航太さんは今のお店で料理を作ってるの?」


 思い切って訊ねてみると、航太は首を横に振った。


「いや僕はまだ見習いだから食材の下準備まではやるけど、調理を任されたことはないんだ。でもちょっとした賄いは作ったりしてるよ」


 少し淋しそうに航太が答えてくれた。まだ見習いのため客に出す料理は作れないが、賄いは料理人たちが順番で作っているそうだ。


「でも賄いで作ったチーズフォンデュが珍しがられて、それがメニューに採用されたんだ。冬の人気NO.1料理になって嬉しかったな」


「そうね、あのチーズフォンデュは美味しかったわ~」


 どうやら航太の働く店では、チーズフォンデュを出しているらしい。


(チーズフォンデュ…私の知っている作り方は簡単だし、今度トランさんたちにも教えてあげよう)


 心の中でそんなことを考えていると、今まで大人しく話を聞いていた美月は「本当に航太は料理上手で羨ましい」と呟いていた。


「私は冷凍食品(レンチン)とかパンを挟む(サンドイッチ)ぐらいしか作らなかったし。しかもここには便利なレンジも無いし…。あ~こんなことなら何か作れるように練習しとけば良かった!」


 どうやら元々美月は料理をしていなかったらしい。


「でも屋台やお店には美味しい物がいっぱいあるから食べ物には困らないから、料理出来なくてもいいのよ」


「今からでも練習すればいいと思うけど、確かにコロッケとかからあげとかの匂いに引き寄せられちゃうのは分かる。それに食堂とかだとうどんとかもあるから、つい懐かしくなって色々食べたくなるのは分かる」


 美月の話に航太も頷いている。


「え?」


 思わず声が出てしまったが、驚いている芽衣に気付いていない二人は話を続ける。


「でもここには醤油や出汁とかが無いから少し残念なのよね」


「そうだね、醤油や味噌が手に入ればもっと色々な料理が作れるんだけど…醤油とか味噌の詳しい作り方がよく分からないし…」


「発酵させるってことしか分からないわね…」


 ここで一度話が途切れたので、芽衣は訊ねてみた。


「うどんもあるの?」


 芽衣の質問に航太が答えてくれた。


「うん。うどんは洋風っぽいつゆで食べるんだ」


「冷たいのも温かいのも洋風のおつゆで食べるんだけどね」


 うどんつゆのことが気になったので、調味料について聞いてみる。すると醤油は無いが似た存在…魚醬らしい物は存在していると云われた。が、ユイオン周辺では作られていないので、手に入りにくい。出汁に使えそうな小魚や海草は元々流通していないため、どうしても欲しい場合は漁村や港街で直接交渉しに行くしかないとのこと。そういった事情から、洋風スープで食べているそうだ。


(う~ん…塩が手に入れば魚醬も作れると思うけど、あれってクセがあったりして好みが分かれるんだよね)


 確かナンプラーと同じだったかな?と思いつつ、いずれにせよ材料を手に入れるためには港街へ行かなくてはいけない。いつかは行ってみたいと芽衣は思った。

 その後も二人が食べたこちらの料理の感想を聞き、懐かしいメニューを聞くたびに食べてみたい衝動に駆られた。

 そこでふとこんなにも日本風のメニューが沢山あるのに、何故トランたちはそれらをあまり知らないのだろう?と疑問に思った。

 つい思ったことを美月たちに訊ねてみると、二人は「う~ん…」と唸りながら答えてくれた。


「私もよく知らないけれど、それは多分貴族と庶民との違いだと思うの。前に聞いた話では、貴族の食事は実は質素で、けれどそれを悟られないようわざと豪華に見えるようにしているらしいわ」


「それに調味料を節約しているって聞いたことがある」


 似たような話はトランからも聞いていた。


「だけど庶民は違う。豪華な食事よりもいつでも食べることが出来て、尚且つ手早くお腹いっぱいになる物がいい。更に各店舗には無いオリジナルメニューを売り出さないと客が途絶えてしまう可能性もある。そうならないためにも例え試作品で作った料理が美味しくなくても売り出して、客たちの意見を参考にしてそれを改良していく。そうやって試行錯誤を繰り返していくおかげでアイデアが浮かんだり、料理の腕が上達していくんだ、って店長が云ってたよ」


 料理人である航太に教えてもらい、なるほどと芽衣は思った。

 貴族家の料理人の立場からすると、アレンジして作り出した物が美味しくなければ主人には絶対出せない。自分たちで食べるか捨てるかをしなくてはいけない。しかし庶民からすれば食材が勿体無いのでそれを売り、どこを改良していけばいいのか料理人たちが調整していくそうだ。

 食の違いが分かった芽衣は、参考のためにも今度料理人たちと食べに出かけてみようかな?と思った。





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