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015

 ここのオーブンは初めて使うので少し不安だったが、トランたちのおかげでグラタンは無事焼きあがった。チーズもほどよく焦げているので、香ばしい匂いが厨房中に広がった。

 熱々のグラタンとドレッシングを絡めたサラダの試食してもらうと、料理人たちは喜びながら食べてくれた。

 あとはこの作業を見ていたトランたちに何度か作ってもらい、自分たちだけでグラタンなどの美味しい物が作れるように頑張ってもらいたい。

 試食が終わると皆と協力して使った食器などを洗ったが、それでもまだ昼になるまで多少時間があるので、芽衣は料理人たちから主にグラタンの詳細――先程具材を変えると云ったので、どうやらとても興味があるらしい――や調理についての質問を受けたり…と、気付いたら料理は自己流なのにアドバイスをしていた。


「私はプロの料理人じゃないので、今のアドバイスは参考程度に思って下さいね」


 芽衣のアドバイスを忠実に守らなくてもいいのだと云うことを伝えると、料理人たちは頷いてくれた。

 昼食は料理人たちとサンドイッチを作った。どうやら今日のソマリの昼食はサンドイッチらしい。そうなると使用人たちの昼食もサンドイッチになるので(ここでは主人と使用人のメニューは一緒らしい)、芽衣も協力して大量のサンドイッチを作った。

 それを料理人たちと交代しながら食べ、明日の夕食はどうするか…という話をしていたところ、メイドが芽衣を呼びに来た。

 どうやら先程リーシャが帰宅し、客人と共に応接室で待っているという。

 芽衣は慌ててエプロンを外し、身支度を整える。その間にメイドはてきぱきとポットとカップ、クッキーなどを料理人から受け取り、それらを乗せるワゴンを準備していた。

 準備を終えた芽衣はメイドと共に応接室へと向かった。

 コンコンとノックをすれば、室内から返事があった。「失礼します」と声をかけて応接室に入ると、そこにはリーシャと二人の男女がソファに座っていた。


「メイちゃん、こっち」


 芽衣が入室すると、リーシャが手招きをして自分の隣に座るように指示する。


「お邪魔します」


 静かにソファに座ると、メイドが紅茶とクッキーを並べてくれた。

 まずは挨拶から…と考えていると、突然リーシャが立ち上がり「僕がいると話しづらいこともあるかもしれないし、時間は気にしないでゆっくりしていってね」と告げて、メイドと共に部屋から出て行ってしまった。

 戸惑っている芽衣とは反対に、客人の二人はとても緊張していたらしく、主であるリーシャがいなくなった途端、ホッと息を吐いていた。

 その様子を見て芽衣は思った。全く付き合いのない貴族――リーシャから突然招待され、戸惑いながらも芽衣のために来てくれたのだろう。


「今日は私のためにわざわざ来ていただき、申し訳ありません!」


 芽衣が大きな声で謝罪すると、小さいながらもフフッという笑い声が聞こえた。


「いえ、こちらこそごめんなさいね。あまり貴族と接する機会が無いものだから緊張しちゃって…」


 そう云って言葉を発したのは女性だった。


「まずは自己紹介ね。私は桐山(きりやま)()(づき)。22歳。こっちには二年前に来たの。冒険者ギルドで受付の仕事をしてるわ」


 美月が話し始めると、それに続くように男性も口を開いた。


「僕は里村(さとむら)(こう)()。20歳。こっちに来てもうすぐ一年。まだ料理人見習いで、大通りの食堂で働いているんだ」


「小日向芽衣です。19歳です。よろしくお願いします」


 それぞれ自己紹介を終えると、早速美月が話しかけてきた。


「ねぇ一昨日来たばかりなんでしょ? 分からないことだらけだと思うけれど、私でよければ何でも質問してね」


「ありがとうございます」


「敬語なんか使わなくていいよ。面倒でしょう?」


 フフッと美月は笑う。気さくな美月に芽衣はホッと安心した。


「それにしてもいきなり異世界とか云われて、しかも自分がその対象になるだなんて本当にビックリしたわ」


「僕も異世界なんてマンガとかゲームだけの話だと思っていたから、まさか本当に異世界が存在してるなんて知って驚いたよ」


 美月の言葉に航太も苦笑している。やはり二人共「まさか自分が!?」「異世界って本当にあったの!?」と驚いたようだ。


「そう云えば、二人もスマホって使えるの?」


 芽衣が思い切って質問すると、二人は頷いた。


「一応…ね。ただ今までと同じ機能は殆ど無くて…」


「芽衣さんも知っていると思うけど、こっちに来た途端新しいアプリが入ってたよね?」


 航太の言葉に芽衣は頷いた。そしてスマホの話を切り出した途端、美月は頬を膨らませていた。


「も~お気に入りのゲームたちが消えちゃうし! それなりに課金してたから余計悔しくて!!」


 保存しておいた画像も消えてしまった、と美月は怒っていた。

 プリプリと怒っている美月を見て、芽衣と航太は苦笑していた。


「あっ、でも『メール』は便利かもしれないよね」


 話を変えるためか、航太はそう口にした。


「え? メール?」


 私のスマホには入ってない…と芽衣がしょんぼりしていると、怒りが引っ込んだらしい美月は若干前のめりになって云った。


「そうだ! すっかりメールのことを忘れてた!! 芽衣ちゃん今スマホはある?」


「はい」


 美月に云われてスマホを取り出した。すると美月と航太も自身のスマホを取り出し、芽衣のスマホに近づける。なんだか赤外線通信のような光景だな…と思っていると、三人のスマホが同時にピコンッと鳴った。


「これで芽衣ちゃんもメールを使えるはずよ。…と云っても、この世界で出会った携帯を持っている異世界人にしか送ることが出来ないんだけどね」


 制限があっても、誰かと連絡が取れるのは嬉しい。

 確認のためホーム画面を表示してみると、そこには新しいアプリ『メール』が追加されていた。


「あっ、入ってる」


「良かった。これで私たちとはいつでも簡単に連絡が取れるわ」


「困った事や悩み事なんかあったら遠慮なく連絡してくれていいから。逆に僕たちも芽衣さんに悩みや愚痴を云ったりするかもしれないけれど」


「ありがとう」


 まだ来たばかりの芽衣を二人が気遣ってくれているのが分かり、思わずふわりと微笑んだ。


「メールと云っても、SNSと同じように直前に送った内容とか相手の返信もちゃんと表示されているから、使い方は今までとほぼ同じ。ただ特定の人にしか送れないのがムカつくのよね」


「そうだね」


 美月の言葉に航太も同意している。


「しかも私なんて航太が来るまでメールなんて無かったし、でも航太が来ても二人でしかやり取り出来なかったし…。だから新しく芽衣ちゃんが来てくれて少し嬉しいの。女子にしか話せないこと…特に恋愛とか?」


「美月さん…。うん、沢山お話しよう」


「ええ! それじゃ僕だけ仲間はずれ!?」


 大げさに驚いている航太を見て、美月と芽衣は思わず笑ってしまった。





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