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014

 翌日、朝早くに目を覚ました芽衣が最初にしたことは魔力量の確認だった。


「えっと魔力が『260/300』ってことは、昨日寝る前が130だったから…130も回復したんだ」


 リーシャの云った通り、食事と睡眠が魔力を回復するためには大事なことだと分かった。

 まだ朝食まで時間があるので、さっと身支度を整えた芽衣はノートに魔力等の気付いたことを書いていた。するといつの間にか朝食の時間になっていたらしく、ドアをノックする音に気づき、区切りのいいところでノートを閉じた。

 芽衣は声をかけてくれたメイドと共に食堂へ向かうと、室内にいたリーシャは朝食を終える寸前だった。


「おはようございます」


 早めに起きたはずなのに…と混乱しながらも、芽衣はリーシャに挨拶をした。リーシャはニコッと微笑みながら声をかけてきた。


「おはようメイちゃん。ごめんね、本当は一緒にご飯を食べたかったんだけど、僕はこれから仕事に行かなくちゃいけないし、ソマリはまだ寝ているから一人にしちゃって本当にごめんね。あっ、約束の午後まではゆっくりしていていいからね」


 どうやら仕事の都合で早めに朝食を食べたようだった。


「ありがとうございます。今日も厨房の皆と美味しい物が作れるように頑張りますので、お仕事頑張って下さい」


 そう告げるとリーシャは一瞬驚いた顔をしながらも、クスクスと笑っていた。


「ありがとう。メイちゃんの美味しい物を食べるために早めに片付けてくるよ」


 リーシャは嬉しそうな顔をしながら仕事先である王城へと出かけて行った。

 一人になった芽衣は朝食を終えるとすぐに厨房へと向かった。何せ午後からは王都(ここ)で暮らしている異世界人たちと会うからだ。


「おはようございます」


 厨房へやって来た芽衣に、料理人たちは「おはよう。今日もよろしく頼むよ」「楽しみにしてたんだ」など、ニコニコ笑顔で声をかけてくれた。

 更にトランは芽衣用にエプロンまで用意してくれていた。


「使っていいんですか?」


「ああ」


 受け取ったエプロンはシンプルで、飾りも何も無い。けれど手渡されたエプロンを身に着けて、紐をキュッと結ぶと気合いが入った。

 調理前なので手をしっかりと洗い終えると、芽衣の準備が終わるのを待っていた料理人たちはキラキラとした瞳で芽衣を見つめていた。

 若干プレッシャーを感じながらも、深呼吸をしてから今日のメニューを聞いた。


「それじゃ今日の夕飯のメニューは…」


「「ホワイトソース!」」


「…」


 メニューは何かと訊ねたら、団結した料理人達からホワイトソースとだけしか返ってこなかった。


「えっとホワイトソースというのは…調味料みたいな物なので、それだけではメニューになりませんよ?」


「…そのホワイトソースっていうのが何なのか分からないから、こっちも決めようがないんだ」


 困った顔をしているトランに、云われてみれば確かに…と思った。

 ホワイトソースで出来る物は色々あるが、食べやすいのはグラタンかシチューが良いだろうと考えた。でもシチューのレシピはありそうだし、久々にグラタンを食べたいということもあって、思い切ってグラタンを作ってみようと思った。


「今日はグラタンを作ろうかと思うんですけど…グラタンって知ってます?」


 芽衣が訊ねると、料理人たちは「ミートソースのなら」「ああ、トマトを使ったやつな」と答えた。


(ということは、ホワイトソースのグラタンは知られていない?)


 それだったらやはり今日の夕飯はグラタンにしようと決めた。


「えっと短いパスタはありますか?」


「ありますよ」


 ミートソースのグラタンがあるのなら、ショートパスタも存在しているのでは?と思っていたら、やはりショートパスタはあるらしい。


「それじゃオーブンは…」


「あります。何を作ってもいいようにどこも空けてあります!」


 どれだけ気になってたんだ…と思いつつも、料理人たちの返事を聞いた芽衣は早速動き始めた。


「まずは昨日のように試食用を作りますね。必要な材料は小麦粉と牛乳、バターと塩なので、それらを用意して下さい」


「はい」


「ボウルに小麦粉を振るいたいんですけど、ザル…網目のある物はありますか?」


「ここに」


 スッとザルが差し出された。

 昨日と違って芽衣が問いかければ料理人たちがすぐに動いて協力してくれる。

 まず最初に小麦粉を振るった。その作業が終われば、用意してもらったフライパンにバターを入れて溶かし、フライパンが温まってきたら振るった小麦粉を入れた。それから牛乳を少しずつ入れて小麦粉と混ぜ合わせていく。


「こうして少しずつ牛乳を入れて様子を見ながら、ソースになる小麦粉がダマ――ええっと、塊が残らないように気をつけながら混ぜて下さい」


 料理人たちは芽衣の説明に頷いていた。ずっと一人で作業しているのも疲れてしまうので、時々料理人たちと交代しながら、牛乳を少量入れてはかき混ぜ、また少量を入れて…と繰り返したおかげで、ようやく滑らかなソースが出来上がった。少し味見をし、最後に塩を少々入れて味を調えた。


「これでホワイトソースは完成です」


 傍で見ていた料理人たちは「随分根気のいる作業なんだな」と呟いていた。


「あとはこれと具材を炒めて…」


 芽衣が欲しいと思っていた具材――玉ねぎ、ベーコン、チーズ――を用意してもらった。玉ねぎとベーコンはホワイトソースを作っている間に薄く切ってもらったので、それらを別のフライパンで炒め始めた。そこへ先程作ったホワイトソースと普通に販売されているらしいマカロニを入れて軽くかき混ぜる。全体が良い感じに絡んだらそれらを耐熱皿に流し入れて、最後にパラパラとチーズを乗せた。


「あとはオーブンで焼けば完成です。ただ焼きすぎると黒焦げになってしまうので、火加減や時間の調整が必要になります。なので時々様子を見ながら焼いた方がいいかもしれませんね」


「なるほど」


 一通り作り方を見ていたトランは頷いていた。


「ちなみに今日は玉ねぎとベーコンを使いましたが、他の具材…例えば青菜とかコーンとか、キノコなんかを入れても美味しいです。更にこのホワイトソースを使えば、シチューやラザニアなんかも作れますし、マカロニの代わりにジャガイモやパンを使ったグラタンもあるので、気になるなら試してみて下さい」


 この後の質問が面倒な芽衣は、沢山質問されないようにとにかくしゃべった。

 すると料理人たちはその説明を聞いて興奮していた。


「おお! このソースは他の料理にも使えるのか。便利だな」


「どれも美味しそうだ。今度試してみよう!」


「具材を変える…つまり色々なグラタンが楽しめるのか…」


「そのシチューって云うのは何だ?」


 などと料理人たちの話を聞いているうちに、先日から疑問に思っていたことを聞いてみることにした。


「あの、ちょっと質問なんですけど、何でいつも同じようなメニューばかりなんですか? 自分たちでアレンジとかレシピ開発とかしないんですか?」


 その質問には料理長のトランが答えてくれた。


「そりゃ簡単な話だ。アレンジしたくても失敗すれば調味料や食材が勿体無いだろう? だからユイオンの貴族の家では滅多に新しいメニューを作ったりはしない」


 きっとそれは昨日聞いた塩やコショウを他国から輸入しているのが大きいのだろう。多分それ以外の調味料なんかも他国に頼っているのかもしれない。


「まっ、それでもユイオンで採れる食材を使って色々と試行錯誤している個人経営の料理人もいるけどな。だが俺たちみたいに貴族に雇われている料理人たちは、そう簡単に冒険を…調味料や食材を無駄にすることが出来ないんだ。それに貴族たちの食事は庶民に見せるための食事ってこともあって、大きな肉をドーンと焼けばそれだけで裕福だとか権力だとかを持っていると思わせるんだと。…まっ、俺ら料理人たちは雇われたら素直に従わなきゃいけなが、本音ではそんな大きな料理を作るのは大変なんだよ!と思ってはいる。…あっ、リーシャ様たちには内緒にしてくれよ!?」


 改めて話を聞いてみたが、芽衣は貴族だから色々な物を食べているのでは?と思っていた。だが貴重な調味料等を無駄にしないように、尚且つ見栄を張るための食事だと云う。


「そうだったんですね」


 ようやく事情が分かった芽衣は、これからはちゃんと調味料や貴族の食事事情にも気をつけて調理して行こうと心に決めた。


「だがリーシャ様はよく王都の外に出かけるからか、新しい料理の方が好きらしい。まぁ嬢ちゃんが作ってくれたのなら例え黒焦げでも美味しく食べてくれそうだな」


「トランさん! それこそ黒焦げにしたら食材が勿体無いじゃないですか!」


 思わずプンプンと怒ってしまう芽衣に、トランはガハハと豪快に笑っていた。


(そっか…レシピを伝える以前に調味料問題も何とか出来るといいんだけど…)


 芽衣の異世界商店を使えばその問題は簡単に解決出来ると思うが、それでも国全体を通して考えてみれば数は圧倒的に足りないと思う。

 そこら辺のことはいずれリーシャに聞いてみてもいいかもしれない。


「それで? 他のメニューはどうするんだ?」


 調味料のことを考えていた芽衣はトランの声にハッとした。料理人たちは次のメニューを期待しているので、芽衣はすぐに夕飯のことを考え始めた。

 グラタンと云えば…と考えていると、某ファミレスのメニューを思い出してしまったので、つい声にしてしまった。


「えっと、そうですね…グラタンだったらスープとサラダ、あとパンかトマトソースのピザとかがいいかもしれませんね」


「サラダとピザか。それだったら俺たちも作れるぜ」


 どうやらピザのレシピもあるらしい。

 しかし思いついた物を口にしてしまったが、グラタンとピザのセットとなると油っこくなってしまうかもしれない。だったらピザではなくパンにするか? …いや、リーシャには少々物足りないかもしれないが、ソマリには量が多いかもしれない。しかしトランたちの話によると、貴族は権力などを示すためにサイズの大きい料理を食べているらしい。その話が本当ならきっとピザ一枚も大きい物で、それが一人一枚ずつ出されているのだろう。

 だったら予めピザをカットした状態にして、サラダのドレッシングは少しさっぱり系にすれば口直しにもなるし、二人共満足して貰えるのでは?と芽衣は考えた。


「…私は午後から予定があるので、出来上がったピザはカットして出して下さい。あとスープはお任せします」


「カット? 切って出すってことか?」


「はい。そうすれば食べたい人が沢山食べて、少食の人も自分のペースで食べられる。食材を無駄にすることがなくなります」


 トランは「う~ん…」と考え込んでいたが、すぐに了承してくれた。


「…分かった。やってみよう」


 ホッと安心した芽衣は次にサラダのことを聞いてみた。


「いつもサラダはどうしているんですか?」


 近くにいた料理人に訊ねると、料理人が戸惑いながらも答えてくれた。


「えっと、マヨネーズか油に塩コショウを混ぜて…」


 どうやらシンプルなオイルドレッシングも存在しているらしい。


「う~ん…だったら油と柑橘系の果物を搾ってドレッシングにすれば、さっぱりするかもしれませんね」


 ポツリと洩らすと、すぐに料理人たちが「レモンがあります」と告げてきた。


「…じゃあレモンと油、あと塩コショウで作ってみましょう」


 覚えているレシピの中に足りない材料はあるけれど、今ある物でどうにかするしかない!と芽衣は気合いを入れ、調味料を混ぜ合わせる。

 味見をしては調味料やレモンを少し足して…を繰り返し、ようやく納得出来るドレッシングが完成した。


「切ったサラダ野菜にこのドレッシングを予め混ぜ合わせて…」


 用意されていたレタスとトマトに自家製ドレッシングをよく混ぜ合わせる。再度味見をして納得いくものができた。


「うん。これでいいと思う。これを盛り付ければ完成です」


 無事サラダの準備も終えた。後はグラタンが焼けるのを待つだけだ。





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