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説明回になってしまったので、かなり長いです

 料理人たちと楽しく会話しながら夕食の準備をしていると、リーシャが突然厨房に現れた。


「だ、旦那様!」


 一人で厨房に来たリーシャに驚きつつも、料理人たちは一度作業を止めて一礼する。


「作業中にごめんね。ちょっとメイちゃんに用があって…」


「私?」


 ちょいちょいと手招きをされて、芽衣はリーシャに近づく。


「今からちょっと話したいことがあるんだけど、いいかな?」


 作業中だけどどうしたら…とオロオロしながら辺りを見回すと、トランや料理人たちが深く頷いていた。これは多分リーシャを優先しろということなのだろう。


「…分かりました」


 すぐに手を洗い、芽衣は料理人たちに「明日はバターと牛乳が必要になるので用意しておいて下さい」とだけ伝えると、すぐにリーシャの後に付いて行った。

 昨日の応接室へ辿り着くと事前に連絡をしていたらしく、室内に入ったのと同時にメイドが紅茶を運んで来てくれた。そしてメイドが去った後、リーシャは芽衣の目の前にスッとカードのような物を差し出した。


「これは?」


 思わず手に取ってしまった芽衣はリーシャに訊ねる。


「これは身分証だよ。これがあれば王都内…いや、大陸全土で使えるよ。それと紛失してもお金はかかるけど再発行出来るから安心して」


「あ、ありがとうございます」


 簡単に再発行出来ると聞かされてもこれは大陸全土で使える物らしいので、なるべく失くさないように気をつけるのは勿論、安全で優秀なバッグに入れようと即座に思った。


「あっ、でもこのままじゃ使えないんだ」


「?」


 申し訳無さそうにリーシャが告げてくる。


「この身分証に血を一滴垂らせば、それで登録完了になる」


「え?」


 驚く芽衣にリーシャは話を続けた。


「痛いかもしれないけれど、身分証(コレ)に血を与えることで、本人だということが証明されるんだ」


(もしかして身分証=戸籍みたいな物?)


 説明してもらったところ、その身分証が本人だと分かるように何かしらの目印が無ければ、万が一悪人によって奪い取られてしまった身分証(ソレ)は好き勝手に使い回され、知らない内に国…いや大陸全土で何かしら悪いことに使われることもあるそうだ。だからそれを防ぐためにここ数年では本人確認をするためにも登録時に自身の血が必要だと教えてもらった。

 その話を聞いた芽衣は素直に頷いた。


「…分かりました。血を垂らせばいいんですよね?」


「そう。痛いかもしれないけれどちょっと我慢してね」


 あっさりと芽衣が決意したのに対し、リーシャは申し訳無さそうに針を差し出した。

 針を受け取った芽衣は針をゆっくりと指に近づけ、そして顔を横に逸らした。チクッとした痛みと共に血が滲み、すぐに身分証に指を押し付けた。すると身分証に血が滲みこみ、それを見ていたリーシャは頷いていた。


「…うん、これで身分証の完成だ」


「良かった…」


 無事登録を終えたことにホッとしていると、リーシャはコートのポケットから小瓶を取り出し、芽衣に「傷口にかけるように」と指示してきた。云われた通りに小瓶の中身――液体を数滴指にかけると、不思議なことに小さな傷口は無くなっていた。


「ありがとうございました」


 あっという間に消えてしまった傷口に驚きながらも、礼を云いながら小瓶を返した。


「…もしこの後時間があるのなら、質問とか知りたいことに答えるけど?」


 先程の厨房でのやり取りを思うと、多分リーシャは芽衣に質問する時間を作ってくれたのだと思う。

 それに手伝っていた厨房を離れたので、他にやることがない今は時間がたっぷりとある。


「…リーシャさんの予定は大丈夫なんですか?」


 思わずそう聞いてしまうと、リーシャがふわっと笑った。


「大丈夫だよ。僕のことを気にしてくれてありがとう」


 どうやら急ぎの仕事はないらしい。

 それなら夕食までまだ時間があるので、またこの世界のことを聞いてみようか…と考えたが、ふいに異世界商店での魔力の支払いのことを思い出したので、思い切って魔力について聞いてみることにした。


「あ、あの…魔力って何ですか?」


 そもそも魔力も無い世界で育って来た芽衣としては、魔力は魔法を使うのに必要だということは認識している。その考えで合っているのかを確認したかった。

 リーシャは少し考える素振りを見せ、そして答えてくれた。


「う~んと…そうだね…魔力は魔法を使うために必要なものだよ。もっと詳しく云うと、魔力は誰もが持っている。それこそ生まれたての赤ちゃんや魔物たちも…。話を戻すけど、その魔力は魔法を使う時のエネルギーとして使用する。勿論魔力量には個人差があるけれど、例えば…こう火を点けるでしょう?」


 ポッとリーシャの指先に火が点った。


「こんなに小さな火を点けるだけでも魔力は必要になる。う~ん…これで魔力10ぐらい消費してるのかな? だけどもっと大きな魔法を使うとなると、もっと魔力を消費する」


 リーシャの説明に芽衣は頷いた。


「それは魔法の威力によって、魔力の消費も違うということですよね?」


「そういうこと」


 頷くリーシャに芽衣は更に思い切って訊ねてみた。


「それじゃ、もっと大きな魔法を使うためには…魔力を上げるにはどうすればいいんですか?」


 魔力量を増やせば、異世界商店で魔力支払いで購入出来るかもしれない。そう思った芽衣はリーシャに訊ねる。するとすぐに答えてくれた。


「とにかくレベルを上げるしかないね」


「レベルを上げる?」


 そう云われてみれば、ステータスにレベルが表示されていたことを思い出した。


「そう。レベルはね魔物を倒したり、生活魔法を使ったりすると上がっていくんだ。けれど圧倒的に魔物を倒す方がレベルは上がりやすい。何故上がりやすいかと云うと、それは倒した魔物の魔力を自然に吸収しているからと云われているんだ」


 早くレベルを上げるには魔物と戦った方がいいらしい。しかし未だ魔物と対峙したことがない芽衣からすれば、魔物は未知の生物なので怖い存在だと思う。


「その吸収というのは、誰でも出来るものなんですか?」


 今後のためにも色々学ばなくてはいけない芽衣は、勇気を振り絞って訊ねてみた。


「勿論誰でも出来るよ。どういう理屈だかは分からないけれど、倒した魔物から自然と魔力が漏れるらしいんだ。その時その場に立っているだけで自分の中に魔物の魔力が流れ込んでくるから、レベルが上がりやすいと云われている」


「その…魔物の魔力を取り込むことで害はあるんですか?」


 もし何かしら身体に異変があるのなら、魔物と戦うことは避けた方がいいと思った芽衣は質問する。

 するとリーシャは笑っていた。


「大丈夫だよ。倒した魔物の周辺には変化が無いし、それに小さな子だって魔物を倒してピンピンしているんだから」


「そうなんですね」


 害が無いと聞いて芽衣はホッとした。しかし次の瞬間、リーシャは少しだけ強張った顔で注意してきた。


「けれど世の中には強い魔物もいる。そういう魔物は強いと云われるだけあって、持っている魔力もかなり大きい。だからその分レベルは上がりやすくなるけれど、無茶をし過ぎると最悪死んじゃうから、遭遇した時は気をつけて」


「わ、分かりました」


 強い魔物と遭遇する機会なんて無いと思うが、とにかく芽衣は頷いた。そこでふと別の疑問が浮かんだ。


「…だったら街に住んでいる人たちはどうなんですか? レベル上げのために魔物を倒しに行っているんですか?」


 もしかして住民たちも実は強いんじゃないか?と思ってしまった。

 しかしリーシャの答えは意外なものだった。


「いや、街に住んでいる人たちは基本的に魔物と戦うことがないんだ。何故なら滅多に街の外に出る予定はないから、そんなにレベルを上げる必要がないんだよ」


 リーシャが云うには、攻撃魔法の他に生活魔法と呼ばれる便利な魔法があるらしい。それを使い続けていけば、レベルが上がっていくという。


「でもそれは運が良ければ一年でレベルが1つ上がる。魔法を使わないでいると…そうだね五年でレベルが1つ上がれば良い方だと云われているよ。…まぁ生活魔法を使い続けるよりも手を動かした方が早いから、住民たちは必要以上に生活魔法を使ってないみたいだよ」


「五年…」


 確かにちまちま魔法を使うよりも、身体を動かした方が早いという人もいるだろう。


(レベルを上げたいのに、幾ら何でも五年かかるのはちょっと…)


 そう思いつつも、そんな便利な魔法が芽衣にも使えるのかが気になった。


「その生活魔法は私でも使えますか?」


 気付いた時にはそうリーシャに訊ねていた。何より独り立ちした時に必要になるであろう魔法を芽衣でも覚えることが出来るのか?

 何と云われるか不安の中、リーシャは笑顔で答えた。


「うん。使えるようになれるよ」


「本当ですか!?」


 嬉しい答えに芽衣は笑顔になる。


「だって異世界から来た人たち皆使っているし、基本を覚えれば使えるようになるよ」


 …どうやら皆魔法を覚えているようだった。だから芽衣も基本を覚えれば使えるようになる、と云われた。

 少しだけどんよりとしていると、リーシャは思い出したように話しかけてきた。


「あっ、魔法以外にもスキルっていう特殊なものがあってね。それは生まれた時から持っていたり、何かがきっかけで自然と身についたりする、魔法とは別のものがあるんだ。それは誰もが使える魔法とは違い、限られた人しか使えない物なんだけど、そのスキルを持っている人は魔法だけじゃなく、スキルを使うことでもレベルが上がるらしいよ」


「!」


 思わぬ情報に芽衣は驚いた。だったらあの特殊スキル『異世界商品取り寄せ』を使えば簡単にレベルが上がるかも…と思った。


「…そのスキルを使うには、何か特別な事が必要ですか?」


 スキルを使うには魔力以外の物が必要になるのかもしれない、と思ったので、リーシャに訊ねてみた。


「スキルはね、魔法と同じように魔力を消費するんだよ」


(スキルも魔力を消費するんだ)


 新しい情報に芽衣は驚きつつも、特別何かを用意しないことにどこかホッとした。

 確か昨日見た魔力は300となっていた。300もあるのなら異世界商店で買い物が出来るかもしれない。そんなことを考えていた芽衣だったが、リーシャから魔力の注意点を聞かされた。


「これは大事なことだから覚えておいて。…そもそも魔法を使うと魔力は減っていく。それに気付かずに魔法やスキルを使い続けていくと徐々に身体に負担がかかり、そして魔力が少なくなると突然倒れてしまうこともある。今でも研究者たちからは魔力=体力とか云われていて、魔力が減りすぎると最悪気を失って、そのまま目覚めない人もいる」


「それって…」


 魔力が減ったら死んじゃうの!?と思った芽衣は青ざめた。そんな青ざめた芽衣を見たリーシャは、芽衣を安心させるように優しく微笑んだ。


「魔力切れで死んだ人は少ないから、普段から気をつけていれば大丈夫だよ。元々魔力はゆっくり休めば回復していく。だから気を失ってしまった人たちはゆっくりと魔力を回復していって突然目を覚ます。これも残りの魔力量によって違いがあって、一日で目覚める人、遅くても一週間前後で目覚める人…とバラバラなんだ」


 遅くても一週間前後には目を覚ますということを聞いて、芽衣は少しだけホッとした。


「けれど魔物と戦っている最中や誰も居ない場所で魔力を減らすと、それが原因で最悪死んじゃうこともあるから、常に自分の今の魔力量を気にしておかないとダメだよ。それと見知らぬ人に頼まれたからってそう簡単に魔法を使わないように。万が一その人に悪意があれば、気を失った瞬間にあっという間に殺されたり誘拐されたりする。ここはそういう世界なんだから気をつけてね」


 魔法と魔力のことを話しつつ、信用のない人の前で簡単に魔法を使うなと忠告してくれた。

 夢あるファンタジーの世界かと思えば、誘拐や殺害などの怖い部分もあるようだ。

 リーシャから見知らぬ人に生活魔法でも簡単に使うなと云われたので、それは絶対に守ろうと思った。


「分かりました」


 しっかりと頷く芽衣にリーシャは微笑んでいた。


「それじゃまずは魔力消費を知るためにも生活魔法を教えようか?」


「いいんですか!? 是非お願いします!!」


 提案されてすぐに返事をした。




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