落ちこぼれエンチャンターとダンジョンアタック(6)
デバフの神様
落ちこぼれエンチャンターとダンジョンアタック(6)
勇者が嬉しそうにテーブルへ帰ってくる。そして会計係のマーリへ全額を預けた。受け取ったマーリは半分をパーティー用財布へ入れ、半分を五等分して全員に配る。教えた通りに分配された報酬を見て、黒髪は頷いた。
「んじゃ、新生【彷徨う剣】の初討伐常時依頼達成お疲れさん」
落ちこぼれエンチャンターがそんな声をかけた。実感が湧いてきたのか、メンバーは徐々に笑顔になっていく。久しぶりの依頼達成が彼らのギチギチに凍ってしまった心を少し溶かした。
黒髪は貰った少額の報酬で彼らにジュースを奢る。
「今回の稼ぎで買ったジュースだな」
「上手い……」
「美味しい」
「うん……うん」
「グスっ」
しみったれた空気が流れたが、決して悪い空気ではなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
迷宮二階層。
火属性のゴブリンがいる階層だ。
ファランカの指揮で進める。
「マーリさん、弱めのエリアで、その後ラキールさんがヘイトを取ってください!! その後アキラスさんとリヴァイ……スさんでトドメを!!」
綺麗に連携は決まったものの、違和感が拭えない。
「ファランカ、今から全員のさんつけやめろ。お前らもな」
「なぜですかっ?」
ハイッハイと手を上げながらファランカは理由を問うた。
「指示が遅いんだよ、いちいちさん付けてたらな。さっきの指示は良かったが、もっと縮めた方が動きやすいんだよ、指示待つ方もな。"マーリ弱エリア、ラキヘイト、アキ、リヴァトドメ"って具合にな」
四人は"ほぉぉ"と驚いた顔を落ちこぼれエンチャンターに向けた。いちいち感動する彼らに苦笑を覚えるも、黒髪は確かな手応えを感じている。
さん付けをやめさせた真の理由、それは召喚獣呼び対策だ。これで伝説の召喚獣に失礼とならないはずである。
「次の指示役はマーリだな」
「うぇ!?」
「一階層でだいぶ見ただろう? そろそろやってみろ」
一階層ではさんざん弱めの水属性魔法を撃たせてきた。彼女にはまだまだ魔力の余裕がある。そして、ボール系、槍系、範囲系を戦局に合わせて撃つよう意識させたのだ。相手がコボルトとはいえ、だいぶ練習台になってくれた。と、黒髪は思っている。
戦局を見極める訓練にもなったハズで、彼女が指揮を取ればどうなるのかも楽しみではあった。
結果的にはあまり向いていなかったと記述しておく。彼女は生粋のアタッカーだった。次々に思いつく攻撃手段が先行して指示を忘れがちになる。指示に気を取られることがストレスになるようだった。
続いて勇者。
可もなく不可もなくというところだが、やはり前衛のため視野が狭い部分が目立っていた。
最後はタンクの女戦士。
ぜんぜんダメだった。ヘイトを取るのに必死で、周りを見る余裕がない。彼女の良さが全て殺される様なものだった。
こうして指示役はファランカになる。これには意味があった。最年少かつ攻撃にあまり参加できない僧侶の立ち位置を強化する目的だ。司令塔になることで、自信を付けさせ、パーティーにおいては欠かせない存在に押し上げる。こうして第二の追放候補者を無くしていく作戦である。
ファランカはとかく気を使う性格の様だった。替えがきく存在と思わせてはいけない。落ちこぼれエンチャンターの僅かな懸念が、彼女を司令塔にする事を選択させていたのだ。
よく気を配れる彼女にはあまり負担を感じている様子は見受けられなかった。
二階層折り返し地点。
小さな部屋になっているこの場所は、モンスターが入ってこない作りになっていた。他の冒険者パーティーも入っては出ていく休憩場所の様な部屋である。彼らはこの場所で作戦会議を開いた。と言っても反省会の様相が強かったのだが。
「司令塔がいるのといないのとで違いは出たか?」
エンチャンターは勇者達を見回して言う。
「戦闘がスムーズになったと思う」
「そうだね。連携の大事さもちょっと理解出来た」
「みんなの動きの意味も何となくわかった気がする」
「作戦が上手くハマった時の快感がたまりません」
様々な反応だが向上しているのに違いはない。
「全体を把握して指示してくれるの助かるだろ?」
「「「(コクリ)」」」
勇者パーティーは成長期に入った。
どんどんと深部へ。
一階層で遅々として進まなかった迷宮攻略は今や9階層。ややはしょり過ぎだがこの間、一週間。
順調に進んでいる。
だんだん強くなってきているモンスター。しかし、勇者達は元Bランクのパーティーだ。強さに問題はない。連携を覚え、指示に従い、考える事の重要性を知った。この階層にももはや敵はいなかった。
勇者達は違和感を覚える。あまりにも順調過ぎないか?
と。
覚えてきた事を実践しているだけとは言え、一階層で死にかけるくらいにバラバラだった。エンチャンターを加え、彼の教えに従って進んできた。それにしてもである。急成長著しいにも程があった。
そんな中、戦闘は否応なく開始される。
ファランカが叫ぶ。
「来ます!! マーリ槍、ラキは裏タゲ、二人は左右から!! 【エリアブレス】」
途端に魔術師の氷の槍の魔法がパーティーの先頭を追い越して、火トカゲに突き刺さった。モンスターが暴れる。脇を抜けた女戦士が振り返った途端に挑発の一撃を加えた。火トカゲが苛立ち紛れに振り返って魔術師から視線を移した。振り向きざまに見えた勇者の一撃をヒラリと交わして、女戦士へ尻尾を振り回す。ラキールは腰を落として盾を構え、衝撃に備えた。
火トカゲが急に動きを遅くする。
勇者の連撃が決まって、火トカゲが勇者を睨みつけた途端に女戦士が挑発を込めたシールドバッシュを炸裂させた。モンスターが大きく仰け反る。
「【アイスランス】!!」
魔術師の氷の槍が火トカゲの背中を襲う。
「キュアアアアアア」
のたうち回った火トカゲのブレスが広範囲に撒き散らされた!!
火傷を負うメンバーを他所に、エンチャンターは鉄の剣を振りかざした。大ダメージにモンスターが荒れ狂う。さながら火炙りにされた様に。
最後は勇者の一閃で火トカゲがエフェクトと共に消えていった様に見えた。
竜の小骨と魔物の皮がドロップする。
また違和感。
悪くない戦闘内容。
僧侶がかけていた継続回復のスキルで、火傷が相殺されていく。
パーティーは街へ戻ることにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ギルド併設のいつもの酒場でいつものテーブルに陣取る勇者パーティー【彷徨う剣】。勇者達は意を決してエンチャンターに問いかけた。
「リヴァイス、戦闘中に一体どんな事してるの?」
「言うと思うか?」
「君の冒険者生命に関わる事なら詳しくは聞けないけれども、僕達はパーティーだ。君が成し遂げている事を知りたいと思っても不思議ではないだろう?」
勇者の眼差しは真剣だ。エンチャンターも"成し遂げている事"という言葉に意外性を見出している。
これまでは。
『戦闘中にサボるな』
『そんな暇あるならバフをよこせ』
『役立たず』
『無駄飯食い』
などなど、色々な事を言われてきたのだ。今回もその類の質問を受けるのかと、いい加減うんざりしかけていた。けれども、勇者達は違った。純粋なるエンチャンターへの感謝と興味に彩られている疑問だったのだ。
色々拗らせている落ちこぼれエンチャンターにとってある意味衝撃の一瞬でもある。
「じゃ、反省会始めるか?」
教えてくれそうな雰囲気に全員がしっかり頷いた。
「「「(コクリ)」」」
いつもの光景である。
「お前らが感じてるのはどんな事だ? 俺が何かしてると思う根拠は?」
反省会という名のエンチャンターの講義が始まる。
「あのねっ、今回はトカゲちゃんが踊って見えたの。戦闘の途中に」
第一声は僧侶ファランカだ。後方からの観察で急に踊り出したと意見した。
「それ、アタシも見えた。リヴァイスが剣をバンって振り落とした時だったと思う」
同じ位置辺りにいた魔術師マーリも同意見。
いつもこうして彼らの夜は更けていく。
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