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落ちこぼれエンチャンターとざまされ勇者達(4)

 デバフの神様


 落ちこぼれエンチャンターとざまされ勇者達(4)


 北の迷宮【炎のダンジョン】は名前の通り、火に纏わる迷宮である。モンスターの属性はほとんどが火属性。火を打ち消す水属性が有利な迷宮である。


 装備は当然、水属性を揃えると楽なのだが。


 属性装備は高値である。そんじょそこらの冒険者パーティーでは用意出来るのものでは無いのだ。D級に落ちている【彷徨う剣】では当然用意出来ない。


 エンチャンターが優遇されるのは、この属性にある。武器に防具に、エンチャントを施すのだ。この場合、水属性を付与すれば、武器は攻撃力に影響し、防具は防御力に影響するからだ。火属性モンスターの攻撃は水属性エンチャントで和らぐし、こちらの攻撃は水属性故に、火属性モンスターは苦悶する。エンチャンター様様なのである。


 お察し、落ちこぼれエンチャンターにはそのエンチャント能力が欠けているのだ。追い出される理由である。


 ではどうするかと言うと、ゴリ押しとマーリの水属性魔法が頼りとなる。


「うそだろ……」


 迷宮一階層中盤だ。


 くたくた、ヘトヘトの魔術師がいた。彼女を頼りにバンバン、モンスターを蹴散らしていく。そしてあっという間に魔力枯渇である。彼女は膝を付いていた。


「お・ま・え・は、財布の紐より、魔力を、ケチれ!!!!!!!」


 落ちこぼれエンチャンターの怒号が飛んだ。


「あぅ……」


 確かに彼女の魔法威力は強かった。凄まじいと言っていい。敵を凍らせ、敵の火を消し、敵を流す。しかし、あまりにもノリノリで魔法を撃ちすぎていた。まさか、と思いつつも黒髪の青年は発言を我慢した。最初のミーティングで言ったからだ。まずは普段が見たいと。早速後悔したのは言うまでもない。


 なんだコイツらは。黒髪は思わずにはいられなかった。生きて帰れるのだろうかと。


 連携の"れ"の字も見せないパーティーに絶句である。ドン引きである。


 ギルマスのやつ謀ったな!? 脳内で彼は依頼を出したギルドマスターに対して呪詛の言葉を送った。


「休憩しようか」


 堪らずこぼす。勇者は頷いた。


 こんな迷宮の真ん中で、休憩である。


「警戒はラキールに頼むな!! モンスターが来たらとりあえず俺たちに知らせてからヘイト取って引き付けておいてくれ」

「わかった!!」


 勢いよく女戦士は応えた。任された事を素直に喜んでいる様だが、召喚獣とよく似た名前のリヴァイスさんは信用する事をやめている。しっかり横目で警戒を保つ様意識していた。


 ドタドタ走る音がする。嫌な予感は的中するものだ。女戦士はモンスターの群れへと駆け出して行ったのである。そしてヘイト漏れしたモンスターが一匹二匹とこちらに押し寄せてきた。


「あんのアホがっ」


 僧侶に魔術師を任せて、勇者と共にモンスターと対峙する。一階層の敵だとはいえ、数の暴力はいただけない。早急に対処して、女戦士の元へ向かう。五匹程のモンスターのヘイトを取りながら確実に一匹づつ仕留める堅実な戦い方だった。


 エンチャンターは戦闘の後方へ回り込んでから攻撃を開始する。あっという間に戦闘は終わったが、女戦士への怒りは収まっていない。


「"知らせてから"って言ったよな?」

「……は!?」


 果たして勇者や僧侶はどんな戦い方をするんだろう? そんな考えが過ぎった時には既に(オカン)が走った後だった。いや、悪寒が。早速取り乱すエンチャンターである。


 いったいどんな魔法を使って盗賊は彼らをBランクに押し上げたんだろう? 黒髪にとって早速教えをご教授願いたくなる案件だった。謎である。


 休憩場所に戻ると、僧侶が体力と魔力をジワジワ回復させるスキルを使った。パーティー全体に恩恵をもたらす。腐っても勇者パーティー。使えるスキルは多彩だ。最初から掛けておいてくれよ、と思わなくもないのだが、言っても詮無いことである。自分が"普段を見せろ"と言ったから。最早この危機は自業自得である。


 地力はあるのだ。その使い方が悪いだけで。リヴァイスはそう思うことにした。盗賊任せで考える事を放棄していたのかもしれない。つくづく彼を追い出したことの愚かさが露呈した結果であった。


「アキラス、このまま続けるのか?」


 落ちこぼれエンチャンターは真面目に尋ねた。


「あの……正直な感想をお願いします。続けてもいいかどうか」


 彼には自信が微塵もなかった。リーダーシップを取ることへの恐れさえ感じる。


「今日は帰ろうか……」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 次の日


 一階層中盤。


 僧侶の声が響く。


「アキラスさんは右の、ラキールさんは左のをお願いします!! 真ん中はマーリさん!!」


 左右に別れた勇者と女戦士の間を魔術師の水属性魔法が飛んでいった。まずまずである。


 所詮は一階層のモンスター。戦略もクソもないゴリ押しで余裕の階層に、勇者達は全力だった。全く余裕の感じられない戦い方に、彼らの焦りが伺えた。


 "もう失敗は許されない"


 何かに取り憑かれたような焦燥感が見て取れた。落ちこぼれエンチャンターは彼らに怒りではなく同情を感じた。そしてなんとかしてやりたいという感情も生まれる。


 しかし、エンチャンターはこじらせているのだ。心を許せば、追い出された時のダメージが大きくなる事に恐怖を覚えている。だから感情を精一杯抑えた。


「どうでしたか!?」


 キラキラした目で問いかけてくる僧侶と勇者メンバー達。可哀想に思ったが、エンチャンターはハッキリクッキリスッパリ言った。


「そのうち死ぬよ?」


 と。


 しかも一階層で。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 三日目。


 今日はエンチャンターの戦い方を見せる日となった。


 一匹のコボルトがやって来た。


「【ポイズン】」


 早速のデバフエンチャントである。コボルトは毒状態になった。フラフラとし始めるコボルトに対してリヴァイスは足をかけて転ばせる。うつ伏せになったコボルトの背中を右足で踏み抑えた。


 スっとコボルトの姿が消えて、小さなナイフと布片をドロップする。


 ポカンとした勇者パーティー。彼らには何が起きたか認識できなかった。


 次に出てきたのはやはりコボルトで、二匹。


「【パラライズ】」


 コボルトは麻痺状態になった。その場で痙攣を起こしている。一振りの鉄の剣の攻撃で、コボルトは消えた。二匹とも。


 コボルト三匹。


「【フリーズ】」


 コボルトの足元が凍る。三匹のスピードが明らかに落ちた。流れるような剣さばきで三匹が沈んでいく。撫でた様にしか見えないリヴァイスの攻撃は剣舞の様だった。


 リヴァイスは勇者達の方へ振り返る。


「こんなもんだ。俺のやれることはな」


 自嘲気味に言う黒髪の言葉も、勇者達には謙遜に聞こえたが、エンチャンターなら誰でもできる芸当だ。リヴァイスにとって誇れるものではないのである。


「「「凄いっ」」」


 えー。である。討伐数は前の二日間の方が多いのだ。


 しかし、勇者達が感動したのは、彼の余裕の方である。自分達にはない余裕があった。鮮やかさが。


 お互いの理解を深める迷宮アタックはとりあえず終わった。


 一階層中盤までの進度で。


 めちゃくちゃ遅いと記述しておこう。





最後までお読み下さりありがとうございました!!

良ければ下の

☆を★★★★★にお願いします!

"(ノ*>∀<)ノ

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