落ちこぼれエンチャンターとざまされ勇者達(3)
デバフの神様
落ちこぼれエンチャンターとざまされ勇者達(3)
聞くも涙語るも涙な謝罪劇を披露した勇者パーティーと、結局パーティーを組む事にしたリヴァイス。
相手の盗賊は、真剣に謝る彼らを許してくれたそうだ。勇者パーティーの顔つきは晴れやかだった。後ろめたさは消え、水を得た魚のようである。活力が漲っていたのだ。早速俺いらないんじゃね? なんて焦る小心者の落ちこぼれエンチャンターである。
実際に彼らは地面に額を付けたという。焦った盗賊は、許すからもう顔を上げてくれと言った。いつまでたってもやめようとしない謝罪に折れたという。これまで馬鹿にしてきたギルドの冒険者たちも固唾を飲んで見守っていたが、彼らの誠意に拍手をくれる者もいたのだと。
パーティーメンバーは以下の通り。
勇者アキラス(17)男
戦士ラキール(18)女 タンク
魔術師マーリ(22)女 火力
僧侶ファランカ(16)女 ヒーラー
盗賊が追い出されるわけだな、と落ちこぼれエンチャンターは悟った。きっと心まで盗まれるって思ったんじゃない? なんて失礼な事を思いながら。ちなみに黒髪の男は23歳である。
ギルドに併設された酒場で打ち合わせを行う。
「じゃ、確認だが、リーダーはアキラスだよな?」
「うん」
「指揮官は?」
「「「?」」」
「……戦闘中に誰が指示を飛ばすんだ?」
「「「……?」」」
「え?……いないの、か?」
「「「(コクリ)」」」
「炊飯用の荷物は誰が? テントは? ドロップ品のバッグは誰が? 会計は誰が? 報酬の取り分は……全て折半!?」
落ちこぼれエンチャンターは絶望的な状況にうんざりした。
「お前らやる気あんのか!?」
「「「(コクリ)」」」
えー。である。
それはDランクに落ちても仕方がない、と言うよりDランクももう怪しい、と落ちこぼれエンチャンターは思った。素人である。
将来有望そうな勇者パーティーを見て、盗賊は"雑用は任せろ"と言った。勇者達は喜んで全てを任せる。次第に下手に出る盗賊を誰もがパシリ扱いし始めた。それでも盗賊は文句一つ言わなかった。雑用を全てこなし、罠を解除し、ポーターもやった。彼らを労い、肩を揉んだりまでした。おかんか!? 話を聞く度に黒髪は突っ込んだり脳で叫んだりした。
甘やかし過ぎたのだ。世話を焼き過ぎである。
「悪いが、この会議は仕切らせて貰うぞ。てゆうかしばらく仕切る。リーダーは意義がある時だけしっかり発言しろ、必ず理由もつけろよ? 嫌だ嫌だで通すな、嫌な理由もちゃんと言えよ?」
「「「(コクリ)」」」
世話焼きオニイチャンターの爆誕であった。
「とりあえず、テント系の重いのはアキラスとラキール。炊飯用系はファランカ、素材バッグの行きはマーリ、帰りは俺が持つ」
「「「(コクリ)」」」
喋れよ、と黒髪は呟く。
勇者たちは怯えていた。これ以上の失敗は許されないと。落ちこぼれエンチャンターは調子に乗っていた。仕切るの楽しいじゃん、と。
「じゃあ、質問だが」
じっくりと四人を見渡すリヴァイス。
「この中で、財布の紐硬いやつは誰? ケチなやつ」
勇者たちは一斉に魔術師マーリを指さして、マーリは自分で手を挙げた。自他共に認める倹約家が判明した。
「よし、会計はマーリな。んで、報酬だが、全体の半分はパーティーの共有財産としてマーリが管理すること。そこからパーティーに必要な武具を買うんだ。いいな?」
勇者が手を挙げる。リヴァイスが勇者に発言を促した。
「残りの半分は?」
「折半だな。自由に使えば?」
「装備品の優先度はどうやって決めるの?」
「相談したらいいだろ? 迷宮から出て、反省会開け。そこでお互いの装備の現状を報告するんだ。正直にな。もう壊れそうなもんを黙っておくなよ? 命に関わるんだ。自分のせいでパテメンが危険な目に遭うのは嫌だろう?」
しっかりお互いを見て頷いたのをリヴァイスはしっかり確認する。単なるアホでもなかったか? そんな無礼な脳内をしばらく放っておいて、彼は次へ進めた。
「じゃ、次だが。とりあえず戦闘の指揮はファランカがやれ。これは交代制だからな」
不安そうな顔を向ける僧侶。自信のなさが如実に出ていた。
「一番後ろにいるんだろう? 全体を見渡せるお前が一番有利なんだからな。誰がどのタイミングで何をするのか考えて指示を出せ」
「や、やったことないです!!」
「だからやってみろ。雑魚からでいい。一撃で倒せるようなやつで練習だな」
明らかにホッとする僧侶に全員が苦笑した。
「はぁ、最初は俺がどんな指示を出すか横で教えてやる。だから理由を考えておけよ?」
「はい!!」
「最初は、お前らがどんなもんか見たいから、今まで通りの戦闘を見せてくれてもいいぜ? その後俺が何が出来るのか見せる。どうせ追い出したくなるような事しかできんがな」
ひねくれた物言いをする黒髪のセリフは彼らの心を抉る。追い出した事で生じたどん底を思い出すからだ。お構い無しにリヴァイスは続ける。
「それじゃ、方針は決まったか? いつ迷宮に潜るかリーダーが決めろ」
じっくり考えた勇者が顔を上げた。
「明日は各自の準備期間として、明後日の朝に出発します」
「「「(コクリ)」」」
この時ばかりは落ちこぼれエンチャンターもコクリ仲間となった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
出発の朝だ。
冒険者ギルドのある街には、東西南北に四ヶ所の迷宮が存在する。彼らが向かうのは、北にある中級者向けの迷宮だ。と言っても浅い階層には初心者でも倒せる雑魚モンスターしかいない。潜れば潜るほど当然強いモンスターが現れる。北の迷宮30階層到達が、このパーティーに、いや、リヴァイスがギルドマスターから受けた依頼の目標階層だ。
「正直不安しかねぇな」
心の声を抑えることをしない強気な落ちこぼれエンチャンターである。言葉とは裏腹に黒髪は結構楽しみにしていた。孤独じゃないっていいなぁと。
1の鐘が鳴る時間が集合時間だ。場所は北門。
ざっと説明しよう。
1の鐘が朝6時頃
2の鐘が朝9時頃
3の鐘が正午
4の鐘が午後3時頃
5の鐘が夕方6時頃
街は五回の鐘の音で時間を告げている。
まだ暗い街の北門、張り切って1の鐘が鳴るよりも早く来たリヴァイス。二番目に到着したのは戦士ラキールだった。続いて僧侶ファランカ。
「おはよう、リヴァイアさん」
「おはよう。お前、俺を召喚獣の名で呼ぶな!! 俺はリヴァイスだ」
「おはようございます、リヴァイアさん」
「だから、俺を召喚獣の名で呼ぶな!! リヴァイスだ」
「何怒ってるの? リヴァイアさん」
「リ・ヴァ・イ・ス!!」
「遅くなりました!! おはようみんな、リヴァイアさんもおは、ぐはっ」
「お前もか、勇者、勇者お前もか!?」
勇者にアイアンクローをかけて溜飲を下げる心の狭いエンチャンターだった。
さぁ、迷宮へ行こう。
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