そして、現代へ 6
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完結まで、残り2話。
『博士、サエイレム王国では、狐と竜が守護獣として祀られていたとされていますね』
『はい、黄金の妖狐、赤銅の巨竜と呼ばれ、王国の女王とその妃である女王妃が使役した魔獣であると考えられています』
「魔獣…ねぇ」
学者の発言にフィルは苦笑した。
遥か数千年も前の伝承だ。魔獣もいなくなった現代の感覚で、神獣と魔獣を区別するのは難しいだろう。
『サエイレム王国の遺跡でよく見られる、2つの林檎が並んだ意匠は、片方は金箔、もう片方は丹砂で彩色されていて、王国の守護獣とその主である女王と女王妃を象徴したものだと考えられています』
『しかし、女王に妃というのは、この時代では普通のことだったのでしょうか』
『古代において、同性婚自体はさほど珍しいものではなかったのですが、さすがに一国の王がその正妃を同性婚で娶るというのは、あまり例がありませんね…ただ、サエイレム王国において王家は女系相続であったと考えられ、男性の王が即位した記録がありません。王国の頂点には常に女王と女王妃が君臨していたらしいのですが、サエイレム王国の歴代の王については、全くわかっていないのです』
『全くわかっていない、というと?』
『建国女王とされるエルフォリア王の名が、歴代の女王に引き継がれたらしく、いつ女王が代替わりしたのかさえわかりません。まるで一人の女王がずっと君臨していたかのように記録されています」
『さすがに、本当に同じ女性がずっと女王の座に就いていた、ということではないですよね?』
『えぇ、女王が君臨した期間は少なくとも千年を超えます。流石にそれは有り得ません』
「いやー、実はそうなんだよね」
苦笑を浮べながら、その張本人は言う。
フィルが王国の歴史上、最初にして最後の女王なのは紛れもない事実だ。
歴史の表舞台からは退いたとは言え、正式に退位していない以上、今も在位しているとも言える。
『サエイレム女王と女王妃の伝説は、何度も舞台や映画で取り上げられている題材ですが、ロマンチックですよね』
「フィルとリネアの話、この前の映画でやってたよ。『クイーン・オブ・サエイレム-林檎の樹の約束-』だったかな…」
「ふーん、面白かったの?」
興味なさそうな仕草をしつつ、フィルはメリシャに尋ねる。
「面白かったと思うよ。お話は完全に創作だったけど」
「そっか」
「結構、情熱的なシーンもあったんだよ…まー、本物にはかなわないけど…?」
にやーっと笑いながらパエラがリネアに視線を向ける。
「リネアちゃんとフィルさまが初めて結ばれた夜なんて、もっとすごかったんだから。…メリシャ、喧嘩した後は燃えるって、本当なんだよ」
「もぅ、パエラちゃん、恥ずかしいです!」
リネアは顔を赤くしてパエラに抗議する。
だが、彼女は知らない…フィルとリネアの話が、百合ジャンルの創作物では鉄板ネタとして扱われていることを。
『守護獣の一体、妖狐ですが、妖狐の伝説はサエイレム王国のあった西方よりも、むしろ大陸の東方に多く残されていますね』
『えぇ。東方の伝説にある妖狐は、人に姿を変えて王を誑かし、国を滅亡に導いたと伝えられています』
「あら、誑かしたなんて、人聞きの悪いこと」
傾国と称するに相応しい美貌で、妲己は艶然と微笑む。
「やっぱり、傾国狐って呼ばれることになっちゃったんだよね…」
「あら、同じ呼ばれ方でも、昔とは随分違うと思うわよ。フィルだって知ってるでしょうに」
ぼやくフィルに、妲己が呆れたように言った。
「まぁね。でも、やっぱり『傾国』ってイメージ悪いじゃない?」
「そうかしら?…ほら、解説してくれるみたいよ」
『しかし、『傾国の魔物』と呼ばれる一方で、伝説の妖狐は『瑞獣』…つまり特異な力を持つ神獣、平和な世に現れる王室の守り神とも言われています。』
『国を滅亡させたのに、ですか?』
『はい。伝説において妖狐に滅ぼされた国は、ほぼ例外なく政治が乱れ、暴君や暗君が民を苦しめていたとされています』
『と、いうことは、妖狐は民を救うために国を滅ぼしたと?」
『えぇ。意図的なものかはわかりません。しかし、妖狐と呼ばれる存在によって、暴君側の悪逆非道ぶりが浮き彫りとなり、暴君を倒した英雄の評価が大きく高まったのは事実でしょう』
『自ら悪役となって次代を担う英雄を作り出した…ということでしょうか』
『はい。『傾国』と呼ばれてはいますが、むしろ新たな国を建てる礎となる存在だったと考えられています。誰もが認める英雄的な人物が次代の国を興すことで、戦乱の世となることを防ぐことにもなりますから』
『なるほど、それなら『神獣』と呼ばれるに相応しいのかもしれませんね』
リポーターが頷いたところで場面が切り替わり、BGMとともにサエイレム旧市街に残る遺跡の説明が始まった。
次回予定「そして、現代へ 7」
次回はいよいよ最終回!




