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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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神話の終焉 3

 アペプの胸元に深々と突き刺さった矢…それは、通常の鉄の矢ではなく…


「これは、シストルム?!」

 メリシャは、テトの祭具であるシストルムをバリスタで撃ち出したのだ。テトとシストルムの権能…それは、森羅万象、万物の流れを調える力。アセトの体内を循環する力の流れとて、その例外ではない。


 そして、アセトに撃ち込まれたシストルムの先端には、イシスが宿ったチェトが鏃のように取り付けられていた。アセトの体内に侵入したイシスは、シストルムの力を借りて内側からアセトの意識を侵食し始めたのだ。

 

「おのれ…イシス…!」

「アセト、そろそろお終いにしましょう」


「うぁぁぁっ…で、出ていけ…!」

「…っ、わたくしたちは、ここにいてはいけないのです」


「アセト…イシス…」

 頭を抱えて身をよじるアセトを、フィルは呆然と見つめていた。


「フィルさま、ここはイシスに任せようよ。それより、リネアが急に変身を解いたから、何かあったんじゃないかってメリシャが心配してるよ。セトは落ちちゃうし」

「そっか、そうだね」

 パエラに言われて、ハッと気が付いたフィルは、急いで弩砲戦艦へと向かう。空中で狐人の姿に戻り、リネアを抱えて弩砲戦艦の甲板に着地する。


「フィル、リネア、大丈夫?」

 心配そうな表情のメリシャに、フィルとリネアは軽く微笑む。


「うん、大丈夫だよ」

「はい、少し危ないところでしたが、何ともありません」

「良かった…」


「…それより、アセトに何をしたの?」

「イシスがね、自分がなんとかするって…テトのシストルムの力があれば、アセトを自分の名から取り込めるって」  

  フィルは、イシスがアセトと再びひとつに戻りたい、と言っていたことを思い出した。そして、共に滅びると。


「イシス…」

「フィル様?」

 リネアは、フィルが悲しそうな表情を浮べたのに気が付いた。


「…リネアには同情するなって怒られかもしれないけど」

 フィルはつぶやくように言う。


「イシスもアセトも、元々は何も悪い事なんてしてないのに、神々の都合に振りまわされて、人間の悪意をぶつけられて……なんか、報われないなと思ってね」

「…そう、ですね」


 フィル達の見上げる先で、アセトの巨体がついに倒れた。その衝撃で発生した波を受けて弩砲戦艦も大きく揺れる。

 そして、波が収まった時…そこにはアセトの姿を持たない、元のアペプに戻った大蛇の巨体が横たわっていた。


「様子を見て来るから、少し待ってて」

 フィルはリネアとメリシャに言った。


「フィル様、私も…」

「リネアは竜人の姿にならないと飛べないでしょう?…もし、アセトがまだ倒されていなかったら、魔術の影響を受けるかもしれない。お願いだからここで待ってて」

 

「…わかりました」

 渋々という様子で、リネアは頷く。


「リネアちゃん、代わりにあたしが一緒に行くよ。フィル様に無茶はさせないから」

「お願いします。パエラちゃん」

 にぱっと笑いかけるパエラに、リネアは微笑み、フィルは苦笑した。


「バリスタ装填、アペプに狙いをつけて」

 メリシャの指示で、ガチャンと音を立てて鉄の槍がバリスタにセットされ、横たわるアペプへと向けられた。今度は1門ではなく5門全てである。メリシャは、アペプがピクリとでも動いたら直ちに撃つつもりでいた。 


「フィル、気を付けて」

「うん、わかってる」

 狐人の姿のまま風を蹴ったフィルは、半ば水に浸かって横たわるアペプの巨体へと近づいた。


 近くの水面に、アペプから抜け落ちたシストルムが浮かんでいるのを見つけ、それを拾い上げる。シストルムの先端に取り付けられていたチェトは見当たらなかった。


 その間もアペプはぴくりとも動かない。九尾の感覚でも何の力も感じない。…おそらくは間違いないだろう。

 目の前のアペプは息絶えていた。

次回予定「再びの生 1」

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