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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第4章 神話の正体
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見えない未来視 4

(リネア、不安か?)

(玉藻様…はい…、私はどうしたらいいのでしょうか。どうしてこんなにも不安なのかわからなくて…)

 頭の中に呼びかけてきた玉藻に、リネアは素直に心情を吐露する。


(メリシャの未来視は万能ではないが、それでも未来が見えぬことなどこれまでに無かったからの。…おそらくは、神かそれに近い者の力が、メリシャの力を妨げておると考えて良いじゃろ)


(だとしたら、やはり危険なのではないでしょうか)

 フィルはこの世界の『神の力』を警戒していた。それはリネアを心配してのことだったが、もちろん逆も当てはまる。むしろ、竜であるティフォンより九尾の方が防御は薄い。


(かもしれぬ。…だが、フィルを止められないことがわかっているから、リネアも悩んでおるのではないのか?)

(そう…ですね)

 リネアは頷く。


(ならば、とるべき行動はひとつじゃろ?)

(はい!)

 リネアの返事に力がこもった。

 フィルは神殿に一人で行くとは言っていない。一緒にいられるなら、自分がフィルを、そしてメリシャを守ればいいのだ。そう考えたら心が晴れた気がした。


 だが、ここでもう一つの波乱が起こる。テトとネフェルも一緒にオシリス神殿に行くと言い出したのだ。


「ダメ!絶対ダメ!」

 取り付く島も無く即座に拒否したフィルだったが、テトは気にした様子もなく言葉を続ける。


「いいのかにゃー?」

「な、何が?」


「もしかしたら、フィルたちをオシリス神殿におびき出すのが目的で、その間にこっちを狙ってくるかもしれないにゃ。フィルもリネアもメリシャもいないのは不安だにゃー」


「それは…」

 テトの指摘に、フィルは眉間に皺を寄せて言葉を詰まらせた。


 アセトがアヴァリスに来た時、対応したのはフィルたちとハトラだけだったから、アセトはまだテトやネフェルの姿を見ていない。

 ヒクソスがテトやネフェルを匿っていることには気付かれていない…はずだ。


 確かにアセトは、これまでにテトやネフェルを狙うような行動はとっていない。それがテトたちのことに気付いていないせいならいいが、実は気付いていて、意図的に放置していたのだとしたらまずい。


 こうしてネウトとメネス・ヒクソスが戦争に突入し。アセトも本格的に策を巡らせ始めた以上、テトたちに手を出して来ないとは言い切れないのではないか…。


 もしもテトやネフェルが連れ去られでもすれば、取り返しがつかない。

 王城はホルエムや連合軍の将兵が守っているとは言え、アセトが神の力を振るうなら、防ぎきるのは無理だ。しかしアセトが何か企んでいるであろう神殿にテトを連れて行くのは、それはそれで危ない。


「テト様、神殿では何が起こるかわかりません。ホルエム様たちと一緒に待っていて頂けませんか?」

 リネアからもそう言われ、テトは頬を膨らませる。


「むー、テトもフィルたちの事を手伝いたいのにゃ。この地の神の不始末を、異境の神であるフィル達に任せっぱなしにするのは、神の名がすたるにゃ」

 アセトに狙われるかも、というのは口実で、テトの本音はこちらのようだ。ネフェルまでこくこくと頷いている。


「では…そうですね…」

 リネアは、しばし考えるとフィルに顔を向けた。


「フィル様、ホルエム様と軍にも大河を渡って頂くというのは?」

「でも、それじゃ神殿に罠が仕掛けられていたときに兵たちが犠牲になるよ」


「もちろん、最初に神殿に入るのは私達だけです。ホルエム様と連合軍には神殿には入らず、周囲を包囲してもらっておく、というのはどうでしょう。その方が、後で迅速に民を救出できると思うのですが?」

「……」

 提案したリネアを、フィルは黙って見つめている。眉間の皺も幾分か和らいでいた。


「テト様とネフェルにも、ホルエム様と一緒にいて頂きます。もしもアセトがそちらに手を伸ばしても、近くなら私達もすぐに駆け付けられます」

「…なるほど」

 フィルはつぶやきつつ頷いた。


「テト様も、それならばいかがでしょうか?」

「…仕方ないにゃ。でも、テトの代わりに"これ"を連れて行くにゃ」


 そう言って、テトがシストルムを振ると、ポンッと小さな人影が姿を現した。テトがバステト神殿で留守番させているのと同じ、彼女の分霊のようだ。


 しかし、バステト神殿にいる分霊は幼児くらいの大きさだったが、それよりずいぶんと小さく、リネアの手に乗るくらいの人形サイズだった。

 テト曰く、小さくてもテトとの繋がりは変わらないらしい。小さい方が連れて行きやすいだろうとのことだ。


「わかりました。…よろしくお願いしますね」

 リネアはテトから分霊を受け取ると、掌の上で自分を見上げる分霊に、丁寧に頭を下げる。

 分霊は、返事するように小さな手を上げると、そのままひょいっとリネアの肩に跳び乗った。すりすりとリネアの頬に頭を擦り付けている。


「気に入られたみたいね」

 少し呆れたように苦笑しつつフィルが言った。


「申し訳ありません。勝手に話を進めてしまって…」

「ううん。うまくまとめてくれてありがとう。…ホルエムも、それでいい?」


「あ、あぁ、…構わない。バステト神とネフェルは、俺が命に代えても守るから、任せてほしい」


「心意気はいいけど、本当に命に代えちゃダメだからね」

「わかった」

 フィルがちらりとネフェルに視線を向けながら言うと、ホルエムは真剣な表情で返事をした。

次回予定「オシリス神殿の惨状 1」

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