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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第4章 神話の正体
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異邦神セト 2

セトが語る過去の真実とは…


「なんということだ…」

 セトは嘆きつつ天を仰いだ。ティフォンを討たんがための神々の策略、竜種の滅亡、何より地上の守護者であるはずだったティフォンが、地上に災いをふりまく者と化してしまったこと。どれもが信じられない…信じたくないことだった。


 だが、リネアは決して嘘は言っていない。リネアが話してくれた全ては彼女が知る事実。それはセトにもわかっていた。


 セトは、ティフォンが竜種の王権であることを知っている。フィルやメリシャ、テトもいた中で、リネアだけがこうしてセトと話ができているところを考えれば、セトの正体が竜であるというのは、まず間違いないだろう。


 それも、おそらくは帝国やサエイレムがあった世界、それもリネアたちが生きた時代よりもずっと昔、竜の一族が栄えていた時代の竜…ならば、当然の疑問をリネアは口にした。


「セト…ティフォンや竜のいた世界は、ここではないはずです。…あなたはどうして、この世界の神となったのですか?」


「…我は、遥か昔に、一族を裏切った同族を追ってこの世界に来たのです」


 オシリスの神話でもセトは異邦神とされていたし、シノアに聞いたセトの神話でも、確かにセトは北の海の彼方からやって来たとされていた。今のところ、彼の話と一致している。リネアは彼の話に興味を抱いた。

 

「詳しく聞かせて頂いてよろしいですか?」

「はい、承知しました」

 

 セトは、過去を思い出すように、ゆっくりと語り始めた。


 …それは、千年以上前のこと。


 地上はティフォンを王に頂く竜種が、人間や魔族を含めた生物の頂点に君臨していた。

 ティフォンと神々の争いはまだ起こっておらず、天界の神々とは、表面上は友好的な関係にあった。


 竜の一族では、次代のティフォンを継ぐ候補者として、心身共に優秀な若者が選抜される。セトもその1人であった。


 だが、候補者のひとりであり、セトの親友だったアポビスという名の竜に異変が起こった。

 アポビスは一際高い能力を持ち、次代の最有力候補として期待されていたのだが、その彼が突然、王であるティフォンに反旗を翻し、その命を狙ったのである。


 原因はセトにもわからない。アポビス自身の野心だったのか、それとも何者かの差し金だったのか。

 後のことを考えれば、竜種を滅ぼしたい神々による策略だったのではないかと思えるが、確たる証拠はない。だが、理由はどうあれアポビスは竜王の力を欲し、その力を我が物にしようとしたのだ。


 ティフォンに挑んだアポビスの力は、それまでの彼とは隔絶した強大なものであったが、ティフォンの力は、それでもなおアポビスを上回っていた。

 ティフォンに敗れて力を失ったアポビスは、南の海へと逃げ、ティフォンはセトにアポビスを追討するよう命じた。


 深い海の底で傷を癒やしたアポビスは、密かに海を渡り、さらに南へと逃げ延びた。そしてたどり着いたのがこの地であった。

 追って来るであろうセトに気付かれまいと、大河イテルの水底に潜んだアポビスは、名をアペプと変え、遂には竜の姿すら捨てて巨大な蛇となった。


 失った力を取り戻すため、最も偉大な力を持つ太陽を食らって、その力を取り込もうとしたアペプであったが、遂にセトはアペプを探し当てた。


 この地の太陽神、ラーの助力を得たセトは、太陽の船でアペプを追った。そして戦いの果て、遂にアペプを冥府の底深くに落とすことに成功した。そして、その功績を称えたラーは、セトを自らの息子とし、この地の神の一柱に迎えたのである。


「セトは、アペプを討った後、竜の故郷には帰ろうと思わなかったのですか?」

「我は、もはや帰れぬのです」


 そう言ったセトは、リネアに背中を見せた。背にあるはずの一対の翼、それは根元から千切れ、無残な傷跡となっていた。アペプとの戦いで傷ついたのだろう。壁画にあった翼のない竜の姿、それはセトが翼を失ったことを示していた。


「…!」

 悲しげに目を伏せたリネアに、セトは言葉を続けた。

次回予定「異邦神セト 3」

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