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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 猫神の都
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巫女フルリ 2

メリシャはフルリに話を聞きます。


※誤字のお知らせありがとうございます。


「ところで、フルリ…」

 話しかけたメリシャに、フルリはやや警戒した表情を浮かべる。

「あの、リネアの姉さん、こちらはどなた様でやしょう?」


「この子はメリシャ。私の娘ですよ」

「姉さんの娘ですやか?」

 きょとんとしたフルリは、リネアとメリシャを見比べ、大げさに首を振った。


「いやいやいや、そんなはずねぇです。だって、どう見てもリネアの姉さんの方が年下じゃありやせんか!」

「まぁ、そう見えるよね」

 メリシャは苦笑する。


「でも、ボクがリネアたちに育てられたのは本当なんだよ。ボクのことはともかく、リネアのことは信じてくれないかな」

「は、はぁ…わかりやした…それで、メリシャ様…あっしに何か?」


「フルリたちは、これから神殿に帰るんだよね?…帰ったら、神官たちに今日のことで虐められたりしないの?」

 ぴくりと身を固くしたフルリと他の巫女たちの様子に、メリシャはやっぱり…とつぶやいた。

 神官を蹴散らしたのはリネアであり、フルリたちが何をしたわけでもないのだが、些細なことで八つ当たりされることも多いのだろう。


「そんな扱いを受けるのに、どうして巫女なんてやっているの?」

「ちょうどいい年頃だからと、選ばれたんでやす」

 メリシャの問いに、小さな声でフルリは答えた。


 後ろで黙っていたシェプトが、メリシャに耳打ちする。

「昔からのしきたりで、各部族から年頃の娘をバステト神殿に巫女として出すことになっているのです」

「なるほど…」

 メリシャは腕組みして考える。部族長の力が強いヒクソスで各部族に巫女を出させるということは、バステト神殿の影響力は予想以上に大きい。神殿に乗り込んで新しい王だと言ったところで素直に従ってくれることはなさそうだ。

 …結局のところ、神官たちを力で黙らせるしかないのかもしれない。強さが全てというヒクソスの風潮をどうにかしたいメリシャとしては、あまり良い方法ではないが。


「あの、メリシャ様…?」

 黙り込んで考えていたメリシャに、フルリが不思議そうに首を傾げる。


「ごめんごめん、…そうだ、フルリ、もうひとつ聞いてもいいかな?」

「はい、何でございやしょう…?」

 メリシャは、じっとフルリの目を見つめた。その真っすぐな視線にフルリは思わず緊張する。


「どうしてフルリは、強いのを隠してるの?さっき神官に蹴られた時も、避けようと思えばできたよね?」

「なっ…そ、そんなことねぇでやす…」

 メリシャの指摘に、わかりやすくフルリの視線が泳いだ。


「メリシャ、そうなのですか?」

 リネアも驚いて聞き返した。


「うん。神官に勝てるかどうかはわからないけど、身を守るくらいのことはできるはずだよ。神官に蹴られる時も、少し体を捻って、まともに食らわないようにしていたし…そうじゃなかったら、あれだけ強く蹴られてすぐに動けるわけないよ」

 メリシャには、フィルやリネアのような圧倒的な強さはない。けれど、優れた神の目をもっている。

 その目は未来を見るだけではない。百の目が見つめる相手の仕草、表情の動き、身のこなし、それによって相手の思考や強さを読み取ることができる。


 それは昔、パエラから教わったことだ。フィルとリネアの親友。蜘蛛の身体を持つアラクネ族の女性。メリシャにとっても、もう一人の親と言っていい存在だった。

 フィル達はメリシャに甘いからねー、と笑いながら、自分の身は自分で守れるように、フィルたちが退いた後でも立派に女王が務まるように、パエラはメリシャに色々なことを教えてくれた。


「内緒にしておきたいならそれでもいいけど、強ければ少しは良い扱いをしてもらえるんじゃないの?」

 不思議そうに尋ねるメリシャに、フルリは俯いてしまう。


「それじゃ、他の子が虐められやす…あっしは、みんなよりちっとは頑丈にできておりやすから…」

 フルリは、自分が目立つ行動をして神官たちの標的になることで、他の子たちに矛先が向くのを少しで減らそうとしていたようだ。


「そっか…偉いよ。フルリは立派だと思う」

 メリシャはそっとフルリを抱き寄せながら、川の向こうにそびえるバステト神殿を睨んだ。

次回予定「巫女フルリ 3」

フルリたちが語る神官たちの横暴と、彼女たちの気持ちとは。

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