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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第1章 ヒクソスの新王
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ハトラ 4

ホルエムとハトラは、フィル達の真意を推測する。

 ファラオの下でメネス王国を支える3つの基幹組織、王政府、軍、神官団。


 そのうち立法と行政を司る王政府のトップが宰相ケレスである。

 軍のトップは将軍アイヘブだが、武人上がりのアイヘブはケレスのように駆け引きに長けていない。本人はケレスと対等のつもりだが、結果的にケレスのいいように利用されている。

 地方各州を治める州候にもケレスの息のかかった者が多く、ウナスに代わって国政を仕切る最高権力者と言っていい。


 巫女長ネフェルをトップとする神官団は、そもそも本拠地が大河イテルの対岸にあるオシリス神殿であるため、王政府や軍とは一定の距離を置いている。一応は中立の立場だが、神官団の実権は巫女長ではなく神殿の統括者である大神官が握っており、場合によってはケレスに味方することもないとは言えない。


 ケレスの権勢に不満を抱く者たちは確かに多いが、今のところ、国がそれなりにうまく回っている以上、ケレスを失脚させる大義名分に乏しいのまた事実。今回のヒクソスの離反が、王国の政治勢力にどう影響するかも見極めなくてはならない。


「しかし、近衛兵がメリシャ王に剣を向けた時は肝が冷えたぞ…」

 斬りかかった近衛兵をフィルが返り討ちにした時、ホルエムは「終わった…」と思った。メリシャに手を出されてフィルとリネアが黙っているはずがないからだ。


「あの方々に、近衛兵如きが敵うはずがないではありませんか」

「そうじゃない。…フィルなら、あの場にいた全員を皆殺しにすることだってできるだろう?」


 気さくで話しやすい少女の姿に忘れそうになるが、フィルの正体は金色の巨大な獣。ラニルを襲った先遣隊百名を、一人一人焼き殺して回るような苛烈さも持ち合わせている。

 実力のほどを全て知るわけではないが、本気で怒らせれば王国軍の全軍で戦ったとしても勝てるかどうか…しかも、リネアがフィルよりも強いというのが本当なら、ふたりだけでメネスを滅ぼすことさえできそうだ。


 シャレクの前例もあり、おそらくケレスがメリシャを殺そうとすることを予想していた…いや、むしろそうなるように仕向けたのだろう。メリシャがフィル(妲己)を止め、近衛兵を治癒してみせるところまで、彼女たちの筋書きだったということなのか。リネアが黙って見ていたのも、それなら納得がいく。


「確かに。…そういえば、先ほど、メリシャ王たちを案内した部屋で、わたくし達の会話に聞き耳を立てていた間者がおりました。…フィル様に見つかり、一瞬で消し炭にされてしまいましたけど」

「ケレスやアイヘブが、下手に彼女たちを怒らせるようなことをしなければいいが……」

 ホルエムはため息をついた。

 今回のことでケレスたちも警戒はするだろうが、メネス王国側から軽率な行動に出ないよう、目を光らせておかなくてはならない。それはホルエムもハトラも良くわかっていた。


 フィルは「状況に応じて力を貸す」とは言ってくれたが、「そっちはそっちでうまくやれ」とも言った。つまり、王国内部の問題はまず自分たちで対処しろということだ。

 ケレスたちが王国を意のままにし、それがヒクソスにとって害になると判断すれば、フィルたちは容赦なく王国に牙を剥くだろう。それだけは避けなければならないというのが…ホルエムとハトラの一致した見解だ。


 …そういえば、今夜、フィルと約束をしているのだった。ホルエムはそのことをハトラに話す。

「ハトラ、今夜、フィルと一緒にネフェルのところへ行ってくる。フィルにネフェルに会わせろと頼まれた」


「フィル様は、ネフェルをどうなさるおつもりなのですか?」

 娘の話となると、さすがにハトラも少し心配そうな表情を浮かべた。

 巫女長であるネフェルは王国の魔術の要。ある意味王国最大の弱点と言ってもいい。ここでネフェルを亡き者にしてしまえば、メネス王国は混乱し、国力を大きく削ぐことができる。


「心配いらないさ。フィルはネフェルには何もしないと言ってくれた。フィルが自分で口にしたことを違えるとは思えない」

「…では、何の御用でしょうか」

「フィルは、この世界の魔術に興味があるらしい。魔術自体というより、その源となっている神の力について知りたいようだ」


 ハトラは顎に手を当てて考える。魔術の源である神の力、言葉では知っているし、その力を感じることもできる。だが、それが何かと問われたら神の力であるとしか言いようがない。

 では、神の力とはどこから湧いてきて、なぜ魔術という形でそれを使えるのか。王国屈指の魔術師であるハトラも、その答えは持ち合わせていなかった。


「そういう面から魔術を考えたことがありませんでした。…そうですか、フィル様がそんなことを…」

「俺もさほど深く考えたことがなかったが、フィルたちに出会ってから、思うのだ……我らが信仰する神とは、一体何なのだろうな?」


「ホルエム、それを公の場で口にしてはいけませんよ。神官たちに聞かれれば、面倒なことになります」

 ハトラがホルエムを注意する。今のつぶやきは神の存在を疑問視していると取られかねない。ケレスと相対する以上、神官団を下手に刺激するのは得策ではない。


「あぁ、わかっている。ケレスたちだけでも面倒なのに、連中の相手まではできん」

 ホルエムは苦い表情を浮かべて頷いた。

次回予定「オシリス神殿」

巫女長ネフェルに会うため、神殿へと向かうフィルとホルエム。

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