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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第1章 ヒクソスの新王
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ハトラ 1

ウナスとの会談を終えたメリシャたちの前に現れたのは…

「メリシャ王、長旅でお疲れのことと存じます。お部屋をご用意しておりますので、どうぞこちらへ」

 ウナスが退出するのと入れ替わるように、一人の女性が広間に現れた。年の頃は30代前半といったところ。目つきはやや鋭いが、メリシャ達に対する嫌悪は感じなかった。


 彼女の案内で、ヒクソス一行は広間の近くの部屋に通された。美しい中庭に面した配置や置かれた調度品の質からすると、貴賓室かそれに類する部屋のようだ。


 セベクとセケムも一緒に入るように言ったのだが、自分達は護衛だから王のいる部屋を守らなくてはならないと言い張って入り口に残った。メネスのファラオを相手に、堂々と対等の関係を認めさせたメリシャの姿を見て、すっかり心酔してしまったらしい。


 女性陣のみで部屋に入り、部屋の真ん中に敷かれた分厚い敷物の上に車座になって腰を下ろす。


「メリシャ王、ホルエム様を無事にお返し頂きましたこと、お礼申し上げます」

 案内してきた女性が床に手をつき、メリシャに深々と頭を下げた。


「あなたは?」

「わたくしはハトラと申します。ファラオの秘書官を務めております。…ホルエム様の乳母をしておりましたので、ぜひ直接お礼をと思いまして」

 ハトラはハキハキとした口調で答えた。


「ハトラ殿、礼には及ばないよ。ホルエム殿を無事にお返しした方が、ボクらの益になると判断しただけだから」

「…左様でございますか…」

 すまし顔で答えたメリシャに、ハトラの口元がうっすらと笑った気がした。


 フィルはこっそりとハトラの様子を観察していた。ホルエムの乳母ということは巫女長ネフェルの母親。しかも、いくら隣国の王とは言え、ファラオの秘書官が自ら案内役を務めるものだろうか。礼を言いたかったというのも、口実に過ぎないのではないか。


「…っ!」

 ハトラの方からフィルと視線を合わせてきた。思わず目をそらすがもう遅い。仕方なくフィルはハトラに一礼した。


「わたしはフィルと申します。侍女兼護衛としてメリシャ王の側に仕えております。お見知りおきを」

「先ほどの剣技、凄まじいものでした。メリシャ王は恐るべき手練れをお側に置いているのですね」

 広間の中にはいなかったように思うが、謁見の様子をどこかで見ていたようだ。


「メリシャ様をお守りするため、手加減できませんでした。一応手当はしましたが、近衛の方にはお見舞い申し上げます」

 しおらしい振りをしたフィルに、ハトラは首をかしげる。


「何を仰います。一撃で殺さないように十分に加減しておられたではありませんか」

 さらりと言ったハトラに、フィルは思わず立ち上がりメリシャを背に庇った。

 妲己の手加減は、明らかな致命傷ではあるが即死はさせないという絶妙なものだった。ただの秘書官の女性にそんなことが見抜けるはずがない。


「あなた、何者?」

 思わず素に戻り、厳しい口調でフィルが問う。

「あら、先ほど自己紹介したとおりですわ。…付け加えるなら、魔術師という肩書きも持っております」

 警戒するフィルに、ハトラはくすりと笑った。


「そんなに警戒なさらないでください。わたくしはメリシャ王やフィル様に敵対しようとは思っておりません」

 言葉どおりハトラから悪意は感じられない。フィルは小さく息を吐いてメリシャの横に腰を降ろした。


「…わかったわ……ん?様?」

 メリシャはともかく、ハトラはフィルに上位の敬称を付けていた。


「はい。公でない所ではフィル様と呼ばせて頂いてよろしいでしょうか。…メリシャ王には申し訳ありませんが、一番強い発言力をお持ちなのはフィル様のようですから」

 ハトラの言葉にメリシャとリネアは苦笑し、フィルはがくりと肩を落とす。


「ハトラは、わたし達のことどう見てる?」

「そうですね。…メリシャ王、フィル様、リネア様が、人間やヒクソスなどの種族ではなくもっと上、神の如き力をお持ちであること、そして元々ヒクソスとは全く関係ないこと、くらいでしょうか。…私の推測ですが」

「…大事なところは全部バレてるってことね」

 微笑みを浮べて答えるハトラに フィルは両手を広げて降参の意を伝えた。

次回予定「ハトラ 2」

ホルエムの乳母ハトラが、メリシャたちに接触した理由とは…

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