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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第1章 ヒクソスの新王
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謁見 3

ウナス王との会談は続きます。

 ウナスとメリシャの会談では、属国関係の解消に伴う今後の懸案についても話し合いがなされた。

 メネス側最大の関心事は、ヒクソスからの塩の輸入に関することだ。


 王国の領内では、南部地方で質の悪い岩塩が産出されるのみ。東方には海もあるが、砂漠を越えた先であり、大量の物資輸送は不可能。大河イテルの水運を利用して運ばれるヒクソスからの海塩は、王国にとっての生命線とも言えた。

 王国がヒクソスを属国化した最も重要な理由は、この海塩の安定的な確保であった。


 それはメリシャたちも承知している。塩の供給は、ヒクソスにとって王国に対する強力な切り札ではあるが、強力であるだけに簡単に使うわけにはいかない。

 塩は人間の生活に欠かせない。直接口にするのはもちろん、肉や魚を塩漬けにして保存するため、そして家畜の飼育にも塩は必要だ。まさに民の生活に直結している。

 それを止められるとなれば、犠牲覚悟でもう一度戦争を仕掛け、ヒクソスを属国化しようという動きが出てもおかしくない。


 メリシャは、まずこれまでどおり海塩の安定供給を約束した。

 ただし、これまでのような無償での上納ではなく、両国間で価格を取り決め、交易という形で適正な対価を支払うことを要求する。

 ケレスは顔をしかめていたが、今は止むを得ないと判断したようだ。強く反対を主張することなく、価格の設定に関して幾つかの条件を挙げるに留まった。


 ウナスとメリシャの間で、塩の交易に関する合意が結ばれ、最も懸念されていた案件が一応の解決をみたことで、場の雰囲気が少し緩んだ。 


「ところで、ホルエム殿から聞いたのですが、ウナス様は、建築に大変造詣が深いとか?」

 メリシャは、次の一手として話題を変えた。

「…あ、あぁ…その通りだ。対岸にあるオシリス神殿やこの王城の改築も余が手がけた。メリシャ王の目から見て、どう思われる?」

 急に話題を振られて一瞬困惑したものの、実際に建築が大好きなウナスは快くそれに応じる。


「オシリス神殿の方はまだ見ておりませんが、この王城は大変美しいですね。それに、意匠の美しさだけでなく、窓の配置と石材の色合いを利用して部屋の奥まで十分に光が入るようにしている工夫など、高い技術を感じます」

「おぉ、分かってもらえるか?」

 自分でも自信作と思っている工夫をメリシャに褒められ、ウナスは子供のように表情を明るくした。


「そこで、ボクからウナス王への贈り物として、このようなものを用意してみました。ご覧ください」

 メリシャは、後ろに控えるリネアに目配せした。一礼して立ち上がったリネアは、シェシを伴って進み出る。いつの間にかその手には丸められた羊皮紙があった。


 大人が腕を広げた程の大きさがある紙の反対側をシェシに持たせ、するするとウナス王の前に広げる。そこには、4段のアーチで飾られた建築物の図面が描かれていた。サエイレムにあった円形闘技場の図面である。

 フィルの治世に大規模な修築を行った時のものを、フィルに記憶から模写してもらった。パエラあたりが見たら、九尾の力の無駄遣いだと苦笑するだろうが、これはメリシャの作戦の重要アイテムだ。

 

「これは…!」

 帝国の建築技術の粋を集めたと言っても過言ではない、多段アーチ構造による巨大建築の姿に、ウナスは興味を抑えきれない。


「いかがでしょうか?ボクの故郷に、実際にあった円形闘技場の図面です。メネスではあまり馴染みのない建築様式だと伺いましたので、お喜びいただけるのではないかと」

「おぉ、おぉ…これを頂けるのか?」

 言いながらも、ウナスは興奮した様子を抑えきれず、視線は図面に釘付けだ。メリシャの目論み通りである。


「はい。お気に召して頂けましたか?」

「もちろんだ。このような斬新な建築、ぜひ研究してみたい!」

 リネアは羊皮紙を元通り丸めると、ウナスに差し出した。


「どうぞお納めください」

「うむ、感謝する」

 リネアから図面を受け取り、ウナスは満足そうに頷く。


「そうだ、今宵はメネスに滞在されるのであろう?ぜひ宴を催したい。受けてもらえるか?」

「ありがとう存じます。楽しみにしております」

「それは良かった。ではそれまでゆるりとされるが良かろう」


 図面を大切そうに手に握ったまま、上機嫌で退出するウナスに、慌ててケレスも続く。

 ファラオが宴に招いたゲストに不愉快な顔をするわけにもいかず、残された王国の要人たちの間には微妙な雰囲気が漂っていた。

次回予定「ハトラ 1」

会談を終えたメリシャたちのもとに一人の女性が現れます。

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